
寺院・神社・宗教法人などは非課税というイメージが強いため、税務調査の対象外と思われがちです。しかし国税庁の令和4事務年度の調査事績によると、全国の宗教法人1,975法人への源泉徴収に関する調査のうち、7割超にあたる1,429法人で源泉徴収漏れが指摘され、追徴税額は約15億円に上りました。本記事では、税務調査の現場を知る立場から、宗教法人の税務調査の実態と見られるポイントを解説します。
そもそも寺社仏閣は税務調査の対象になるの?
寺院をはじめとした宗教法人=非課税(収益事業がない場合)のイメージが強いため、「納税がないのだから税務調査の対象外では?」と思いがちです。しかし寺院・神社・宗教法人も税務調査の対象となります。
宗教法人は収益事業を行わない場合、法人税の納税義務はありません。しかし源泉徴収義務者としての義務は収益事業の有無にかかわらず発生するため、職員等への給与支払いがあれば源泉所得税の問題が生じます。この点が税務調査の主要な対象となっています。
寺院・宗教法人に対する税務調査の件数と傾向
令和4事務年度(令和4年7月〜令和5年6月)において、国税庁は全国の宗教法人1,975法人を対象に源泉徴収に関する調査を実施しました。その結果、1,429法人(約72.6%)で源泉徴収漏れが指摘され、追徴税額は約15億円に上りました。源泉徴収漏れの指摘率が7割超という高さは、宗教法人において源泉徴収の実務管理が行き届いていないケースの多さを示しています。

単年度だけでなく、より長い期間で見ても傾向は同じです。報道機関の情報公開請求で明らかになった集計によると、令和4年6月までの5年間に全国で調査された8,289の宗教法人のうち、約7割にあたる5,850法人で源泉徴収漏れが確認され、追徴税額(加算税込み)は約45億7,000万円にのぼりました。このうち約2割(1,218法人)では悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しが認定され、重加算税は計約6億2,000万円とされています。宗教法人以外の公益法人による所得隠しの割合が1%強であることと比べると、指摘率の高さが際立ちます。
なお、法人税の実地調査(公益法人等全体)は平成26事務年度の868件から平成30事務年度の429件へと減少傾向にありました。一方、源泉徴収を中心とした調査は引き続き活発に行われており、法人税調査の頻度が低いからといって税務調査と無縁ではありません。最新の調査事績や制度の詳細は、国税庁のパンフレット「宗教法人の税務」(令和6年11月版)や国税庁のウェブサイトでご確認ください。
寺社仏閣 税務調査で見られるポイント
寺院・神社・宗教法人が税務調査でチェックされるポイントは、大きく2つあります。
- 源泉所得税
- 宗教活動か収益事業か
指摘の多い 源泉所得税
布施、奉納金、会費、献金、賽銭、寄附金、雑収入等は宗教法人の収入として課税対象とならない収入です。しかし住職や宮司、職員に支払う給与や退職金は源泉所得税の対象となるため、宗教法人は源泉徴収義務者として源泉所得税を納付する必要があります。また、税理士などに支払った報酬等に対しても同様の義務があります。
◎給与の支払以外に源泉徴収の対象となるケース例
- 個人(住職・弟子・職員)の飲食代や生活費等を宗教法人として負担した場合は、負担額が給与(現物給与)と同等に扱われ、源泉徴収の対象となります。
- 弟子の学費を負担した場合は、負担額が給与と同等に扱われ、源泉徴収の対象となります。
実際の調査でも、賽銭やお守り販売などの収入を代表者が生活費・飲食・買い物に充てていたケースで、その流用分を「法人から代表者への給与」と認定され、源泉徴収漏れとして追徴されている事例が多く報じられています。
高額になりやすい 収益事業の申告漏れ
寺院・神社・宗教法人では、課税対象となる収益事業が下記のとおり分類されています(法人税法上の34業種)。
〇線引きの難しい物品販売業
お守りやお札、おみくじなど喜捨金と認められるものは収益事業に該当しません。一方、絵葉書や御朱印帳、キーホルダーなど、通常販売されているものと大きな価格差なく販売されているものは物品販売業に該当し、課税対象となります。
〇価格を通常より高く設定すれば喜捨金になるか?
2008年に宗教法人が「御利益のある水」0.9リットルを3,800円で販売し非課税として処理していたところ、国税局から収益事業に該当すると指摘を受けた事例があります。「御利益」を主張すれば課税対象でなくなるわけではありません。
収益事業がなくても提出が必要な書類がある
見落とされやすいのが、収益事業を行っていない宗教法人でも、年間の収入金額の合計額が8,000万円を超える場合は、損益計算書(収支計算書)を所轄の税務署長に提出する必要があるという点です(提出期限は事業年度終了後4か月以内)。帳簿・記録の整備は、こうした提出義務への対応や、調査時の説明資料としても重要になります。
申告漏れ・所得隠しの指摘を受けた事例
宗教法人の税務に対する国税当局の目は年々厳しくなっています。近年報道された事例には、次のようなものがあります。
- 2011年2月:京都の観光地として有名な金閣寺(鹿苑寺)・銀閣寺(慈照寺)を管理する住職が、掛軸を書いて得た収入を宗教法人へのお布施として処理し個人所得としなかったとして、3年間で約2億円の申告漏れを指摘されたと報じられました(2011年当時の事例)。
- 2024年(令和6年)9月:東京都北区の神社が東京国税局の調査を受け、2023年までの7年間で約2億5,000万円の所得隠しを指摘されたと報じられました。賽銭やお守りの売上などを宮司が私的に流用しており、流用分は法人から宮司への給与にあたるとして源泉徴収漏れが認定され、重加算税を含め法人と宮司に約1億3,000万円が追徴課税されたとされています。
いずれも「非課税の宗教収入」と「代表者個人の所得」の区分が曖昧になっていた点が問題となっています。適正に区分し記録していれば防げるトラブルであり、日頃の経理管理の重要性がうかがえます。
税務調査 過去帳の開示には応じなければいけない?
寺院・神社・宗教法人の税務調査では、非課税収入(布施、奉納金、会費、献金、賽銭、寄附金等)がきちんと計上されているかが重点的にチェックされます。その過程で、故人の逝去日から葬儀日を逆算して布施や奉納金が反映されているかを確認するため、調査官から過去帳の提出を求められる場合があります。
過去帳を提出しなければいけない法的根拠はありません。しかし実際には、その場の雰囲気に圧されて資料として提出してしまうケースが多いとされています。逆に頑なに拒んでも「何か隠しているのでは」と疑われることもあります。
過去帳は故人やその親族の個人情報であり、寺社仏閣への信頼の証でもあることから、提出を拒む方も多くいます。提出を求められた際はその場では即答せず、税務調査の対応に精通した税理士に相談のうえ、調査官との対応を依頼することをおすすめします。
宗教法人が税務調査に備えるためのポイント
税務調査で指摘が多い源泉所得税と収益事業の申告漏れを防ぐために、日頃から以下の点を意識して帳簿・経理を整理しておくことが重要です。
| 確認事項 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 給与・報酬の源泉徴収 | 住職・職員・税理士等への支払に源泉徴収を適切に行い、納付する | 現物給与(飲食代・学費の負担等)も対象になる場合がある |
| 収益事業の区分経理 | 宗教活動と収益事業(物品販売・駐車場等)を帳簿上明確に区分する | 区分が不明確だと課税対象の判断で不利になりやすい |
| 収支計算書の提出 | 収益事業がなくても年収8,000万円超なら損益計算書を提出する | 提出期限は事業年度終了後4か月以内 |
| 帳簿・領収書の保存 | 収入・支出の帳簿と証票類を保存する(原則7年間) | 帳簿がないと推計課税のリスクがある |
| 過去帳・記録の管理 | 葬儀日・布施の受入れ等の記録を整備する | 調査時に提出を求められた場合は税理士に相談のうえ対応を |
よくある質問(FAQ)
Q. 収益事業を一切行っていない宗教法人も税務調査の対象になりますか?
はい。収益事業がなく法人税の納税義務がない場合でも、職員等に給与を支払っていれば源泉徴収義務者となるため、源泉所得税に関する調査は受ける可能性があります。令和4事務年度の調査では7割超の宗教法人で源泉徴収漏れが指摘されており、他人事ではありません。
Q. お守りやお札の販売は収益事業に該当しますか?
お守り・お札・おみくじなど喜捨金と認められるものは収益事業に該当しません。一方、絵葉書や御朱印帳、キーホルダーなど一般に市販されているものと同程度の価格で販売するものは、物品販売業として課税対象になります。「御利益がある」という主張だけで非課税にはなりませんので、販売品目ごとに判断することが大切です。判断に迷う場合は税理士にご相談ください。
Q. 賽銭やお布施を代表者の生活費に使うと、なぜ源泉徴収漏れになるのですか?
賽銭やお布施そのものは宗教法人の非課税収入ですが、それを住職・宮司などの代表者が個人的な生活費や飲食に流用した場合、その金額は法人から代表者への「給与」にあたると扱われます。給与である以上、法人は源泉所得税を天引き・納付する義務があり、これを行っていないと源泉徴収漏れとして追徴の対象になります。私的流用が悪質と判断されれば重加算税が加わることもあります。法人の資金と個人の家計は明確に分けて管理することが重要です。
Q. 税務調査の通知が来たらどうすればよいですか?
税務調査の事前通知(原則として電話や書面)を受けたら、まず税務調査の対応に詳しい税理士に相談することをお勧めします。調査日程の調整や提出資料の準備など、税理士が立ち会ったうえで対応することで、余計なトラブルを避けることができます。帳簿・領収書・源泉徴収簿等の書類を事前に整理しておくことも重要です。詳しくは国税庁ホームページもご参照ください。
