業種ごとの税務調査

クリニック・医療法人の税務調査|最新データと指摘されやすい点

クリニックの事務室で帳簿と書類を整えて税務調査に備えるイメージ

クリニック・病院・医療法人・歯科医院は「公的な医療だから税務調査とは無縁」と思われがちですが、実際には対象になりやすい業種です。令和6事務年度(令和7年12月公表)の国税庁データでは、眼科医が1件当たりの申告漏れ所得金額3,894万円で全業種2位に入りました。

もっとも、過度に恐れる必要はありません。指摘が集中するのは自由診療の収入計上・共通経費の按分・概算経費特例(措置法26条)の要件という、事前に整えられる論点です。あわせて2026年(令和8年)10月1日からインボイスの経過措置が80%控除から70%控除へ切り替わります。

ドクターにも税務調査は入る

保険診療報酬を主体とする開業医・医療法人は、お金の流れが明確で税務調査とは無縁というイメージがあります。しかし実際には、調査の対象となりやすい職種の1つです。

以前から医業は「1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」に繰り返し登場してきました。平成24事務年度の国税庁統計では産婦人科医が1位、内科医が7位に入りました。

令和5事務年度(令和6年11月公表)では医業は上位10業種の圏外で、1位は経営コンサルタント(1件当たり申告漏れ所得3,871万円)でした。ところが直近の令和6事務年度では眼科医が前年20位圏外から一気に全業種2位(3,894万円)へ浮上しています。

令和6事務年度の1件当たり申告漏れ所得金額 上位5業種の横棒グラフ。キャバクラ4,164万円、眼科医3,894万円、ホステス・ホスト2,968万円、経営コンサルタント2,734万円、太陽光発電2,142万円
眼科医が前年20位圏外から第2位へ。実地調査(特別・一般)全体の1件当たり申告漏れ所得金額は1,486万円です(令和6事務年度)。

同年度の1位はキャバクラ(4,164万円)、3位はホステス・ホスト(2,968万円)、4位は経営コンサルタント(2,734万円)でした。国税庁は業種ごとの背景を公表していないため、順位の理由を断定することはできません。

ただし規模感は押さえておきたいところです。眼科医の3,894万円は、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1件当たり申告漏れ所得金額1,486万円の約2.6倍にあたります。眼科医の1件当たり追徴税額は964万円(全体は299万円)でした。

統計からみる開業医・医療法人の税務調査の変遷

国税庁が公開している統計によると、医業に対する調査は次のような推移をたどってきました。

  • 平成16事務年度(2004年):整形外科が2位にランクイン
  • 平成17事務年度(2005年):病院が1位にランクイン
  • 平成23事務年度(2011年):整形外科が5位
  • 平成24事務年度(2012年):産婦人科医が1位、内科医が7位
  • 令和5事務年度(令和6年11月公表):医業は10位圏外。1位は経営コンサルタント(3,871万円)
  • 令和6事務年度(令和7年12月公表):眼科医が全業種2位(3,894万円・追徴964万円)

医業は一定の周期でランキング上位に登場するパターンが続いています。加えて注目したいのが、調査全体の規模と手法の変化です。

令和6事務年度は選定にAIを活用するなどした結果、所得税の「調査等」による追徴税額の総額が1,431億円と過去最高になりました(国税庁公表文)。申告内容の不備が以前より発見されやすくなっています。

内訳を見ると、実地調査は4万7千件でほぼ横ばいの一方、税務署へ来署を依頼したり文書・電話で申告内容を是正する「簡易な接触」が68万9千件(前年比123.7%)へ急増しました。調査等の合計は73万6千件で、うち非違があったのは36万9千件です。

つまり「調査官が院内に来る」形だけが税務調査ではないということです。文書や電話での問い合わせも、申告内容の是正につながる正式な接触として集計されています。

開業医・医療法人に税務調査が入る頻度

開業医・医療法人に対する調査件数は公開されていませんが、おおむね数年〜10年に1度の周期で入るケースが多いとされています。所得税全体の実地調査率が1〜数%程度であることを踏まえると、入りやすい部類といえます。

また、過去の調査で申告漏れ等の指摘があった場合には、より高い確率かつ短い期間で次の調査が入るケースが想定されます。前回の調査で指摘を受けている医院は、税理士と事前に相談しておくことが大切です。

高所得であること自体も関係します。国税庁は有価証券・不動産の大口所有者や経常的な所得が特に高額な個人を「富裕層」として積極的に調査しており、令和6事務年度の富裕層に対する調査の1件当たり追徴税額は855万円(実地調査全体の299万円の2.9倍)でした。どの業種が調査されやすいかは税務調査が入りやすい業種は?法人・個人別の最新データでも整理しています。

開業医・医療法人はなぜ狙われるのか

保険診療報酬が主な開業医・医療法人は、比較的お金の流れがわかりやすい業種です。一方で、以下のような項目が申告漏れとして指摘されやすい傾向があります。

自由診療・保険外収入の申告漏れ

健康診断・美容治療・予防接種・人間ドックなどの自由診療は保険外収入となるため、保険診療報酬とは管理体系が異なります。現金での受け取りが多くなりやすく、申告漏れが発生しやすい項目として注目されています。

国税庁の記載要領では、一般の自由診療収入に加えて室料差額収入、人間ドックや生命保険会社との契約による診断料、母子保健法に基づく検診料、介護保険法に基づく主治医意見書作成料なども自由診療の収入等に含めて整理することとされています。

窓口収入の「未収分」

見落としやすいのが窓口収入です。社会保険診療報酬のうち患者から窓口で収入すべき金額については、その全部または一部が未収でも、また受け取らないこととした場合でも、「収入すべき金額」として収入金額に含めて記載することとされています。

「実際に入金がなかったから計上しない」という処理は、収入計上もれとして指摘される典型例です。

学会費・交際費の取り扱い

学会への参加や研究活動が多い医師・歯科医師は、交際費・旅費の取り扱いが指摘の多い箇所です。事業に関わる飲食費等については「誰と・何のために行ったか」を領収書等に記録しておくことが重要です。個人的な旅行や会食との区別が曖昧だと、調査で否認されるケースがあります。

医療器具・サプリメント等の物販(OTC)

院内で医療器具やサプリメントの物販を行っている場合も、計上もれに注意が必要です。物販収入は診療報酬とは別の売上として、適切に計上する必要があります。

ここで押さえておきたいのが区分です。国税庁の記載要領では、治療器具等の販売収入・医薬品の仕入れリベート・自動販売機等の手数料・貸与寝具やテレビの使用料などは「雑収入」とされ、後述する7,000万円判定の「医業及び歯科医業から生ずる収入金額」には含まれません。計上は必要ですが、判定の分母は別という理解が必要です。

個人的な費用の経費計上

課税所得が高い開業医・医療法人では、個人的な費用(旅行・衣服・自宅関連費用など)を事業経費に計上してしまうケースが見受けられます。「業務に必要である」ことを合理的に説明できる記録・証拠を残しておくことが大切です。

医師特有の「概算経費の特例(措置法26条)」と調査官が見る3点

医療機関の税務調査を理解するうえで欠かせないのが、医師・歯科医師にだけ認められた概算経費の特例です。個人の開業医は租税特別措置法第26条、医療法人は同法第67条により、実際にかかった経費の額にかかわらず、社会保険診療報酬について一定の計算による「概算経費」を必要経費とすることができます。

適用できるのは、その年の社会保険診療報酬が5,000万円以下、かつ医業・歯科医業から生ずる収入金額が7,000万円以下の場合です(国税庁「所得税青色申告決算書(一般用)付表《医師及び歯科医師用》記載要領」)。いずれか一方でも超えると適用できません。

概算経費率は社会保険診療報酬の額に応じて段階的に定められており、金額区分ごとに率と加算額が変わります。自院がどの区分に当たるかと、実額計算との有利・不利は年ごとに変わるため、区分と適用の判断は税理士に確認してください。

この特例があるため、税務調査官は次の3点を重点的に確認します。

  • 社会保険診療報酬が5,000万円ラインを正しく区分できているか(患者の窓口負担分も社会保険診療報酬に含めて判定します)
  • 自由診療も含めた「医業及び歯科医業から生ずる収入金額」が7,000万円を超えていないか(前述のとおり雑収入は含めません)
  • 保険診療と自由診療で共通してかかる経費の按分が合理的か(概算経費の対象は社会保険診療に対応する経費のみで、自由診療分は実額計算が必要です)

自由診療割合の「調整率」は診療科で違う

共通経費の按分では、診療実日数または収入金額を用いて自由診療割合を算出します。ここで見落とされやすいのが調整率です。

同じ原価で診療しても一般に自由診療のほうが単価が高いため、収入割合を用いる場合は、収入割合に次の調整率を乗じて自由診療割合を算出することとされています。

診療科調整率備考
眼科・外科・整形外科80%自由診療の単価が高い科目
産婦人科・歯科75%同上
上記以外(美容整形を除く)85%美容整形は対象外

自由診療割合は小数点以下第3位まで算出し、第3位を四捨五入します。調整率を掛け忘れると按分が過大または過小になり、そのまま否認の入口になります。

なお、自由診療分と社会保険診療分に明確に区分できる経費の例として、国税庁は事業税(自由診療分)、第三者に委託したレセプト請求費用(社会保険診療分)、未収金を個別管理している場合の貸倒損失等を挙げています。まず区分できるものを分け、残りを按分するのが順序です。

申告書の「書き方」も確認されます

措置法26条を適用するときは、申告書側の手当ても必要です。付表《医師及び歯科医師用》を決算書とともに添付し、算出した措置法差額を決算書「損益計算書」の所得金額欄の下の余白に「措置法差額○○○円」と記載します。

あわせて申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「措法26」と記載します。さらに、青色申告特別控除額の計算の基礎となる事業所得の金額には社会保険診療につき支払を受けるべき金額に対応する金額が含まれないため、青色申告特別控除額の計算も通常とは異なる算式になります。

医療法人(措置法67条)の「総収入金額」の範囲

医療法人の場合、7,000万円判定の総収入金額は「経営する医業・歯科医業から生ずる収入の額」です。国税庁の通達では、次のものは含まれないと明示されています。

  • 国庫補助金・補償金・保険金等の収入
  • 固定資産または有価証券の譲渡による収入
  • 受取利息・受取配当・固定資産の賃貸料などの営業外収益
  • 貸与寝具・貸与テレビ・洗濯代等、電話使用料・自動販売機等の手数料
  • マスク・歯ブラシ等の物品販売収入、医薬品の仕入割戻し

このうち使用薬品等の仕入割戻し(値引きを含む)は、社会保険診療報酬に係る所得の計算とは関係なく益金に算入します。また、医業者その他の団体の任意の契約に基づく社会保険類似の行為に対して支払を受けた金額には、措置法67条の適用はありません。

2026年10月に切り替わるインボイスの経過措置と医院の実務

医療機関の消費税は少し特殊です。社会保険診療は消費税が非課税のため、課税売上になるのは自由診療・健診の受託・物販・テナント賃貸などに限られます。

それでも、これらの課税売上について本則課税(一般課税)で消費税を申告している医院にとって、2026年(令和8年)10月1日からの経過措置の見直しは、仕入税額控除の額に直接はね返ります。

インボイス発行事業者以外の相手(免税事業者など)からの課税仕入れは、本来は仕入税額控除の対象になりません。急激な負担増を避けるため一定割合を控除できる経過措置が置かれており、令和8年度税制改正で適用期限が2年延長されたうえ、控除できる割合が見直されました。

免税事業者等からの課税仕入れについて控除できる割合の推移を示す棒グラフ。80%から70%、50%、30%、0%へ段階的に縮小
令和8年度税制改正で70%の段階が新設され、引き下げが緩やかになりました。
期間控除できる割合ポイント
令和5年10月1日〜令和8年9月30日80%現在適用されている割合
令和8年10月1日〜令和10年9月30日70%令和8年度税制改正で新設された段階
令和10年10月1日〜令和12年9月30日50%2年間
令和12年10月1日〜令和13年9月30日30%1年間
令和13年10月1日以後0%(控除不可)経過措置は終了

改正前は令和8年10月から一気に50%へ下がる予定でしたが、70%という段階が設けられ、引き下げが緩やかになりました(国税庁「令和8年度税制改正特集」)。

あわせて、同一の相手からの課税仕入れの合計額(税込)がその年または事業年度で1億円を超える場合、超えた部分にはこの経過措置を適用できません(改正前は10億円。令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用)。一般的な医院で問題になる金額ではありませんが、大型の医療法人では確認しておきたい点です。

医院の支払先で相手が免税事業者になりやすいのは、個人経営の歯科技工所、フリーランスの清掃・送迎スタッフ、個人で活動する講師やカメラマン、小規模な修繕業者などです。こうした取引が多い医院ほど、10月以降の負担増が読みにくくなります。まずは取引先ごとに登録の有無を洗い出し、影響額を試算しておきましょう。

税務調査で問われるのは「帳簿の記載」

経過措置を使うには、区分記載請求書等と同様の内容が記載された請求書等の保存に加えて、帳簿に「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を記載しておく必要があります。記載漏れは控除の否認に直結します。

ここで実務上のポイントがあります。国税庁のQ&Aでは、この「旨」の記載方法として「80%控除対象」のように率を書く方法、「免税事業者からの仕入れ」「免」と書く方法、「※」などの記号を付けて別途「※は80%控除対象」と凡例表示する方法が認められています。

したがって、率を書く方式にしている医院は、2026年10月以降の取引について「70%控除対象」へ直す必要があります。一方、率を含まない書き方にしていれば、割合が変わっても記載の直しは不要です。自院がどちらの方式かを、9月中に会計ソフトの税区分設定とあわせて確認しておくと安心です。

もう1点、受領した請求書等に「軽減対象資産の譲渡等である旨」や「税率ごとに合計した税込価額」の記載がない場合に限り、受領者が自ら追記して保存することが認められています。相手が免税事業者で請求書の書式が簡素なときは、この追記で要件を満たせます。

影響を受けない医院・売り手側の特例

免税事業者の医院や、簡易課税制度を選んでいる医院には、この経過措置の影響はありません(実際の仕入れから控除額を計算しないため)。また、税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿の保存だけで控除できる「少額特例」は、令和11年9月30日までとされています。

売り手側も変わります。インボイス登録をきっかけに課税事業者になった事業者の「2割特例」は、令和8年9月30日が属する課税期間(個人事業者は令和8年分)までで終わります。

その後は、個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の申告で納付税額を売上税額の3割にできる「3割特例」が使えます。主な要件は、個人事業者であること・基準期間(適用年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること・インボイス発行事業者の登録を受けていることです。医療法人などの法人は対象外です。

あわせて簡易課税への円滑な移行措置も創設されました。2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間に簡易課税を使いたい場合、通常は前課税期間の末日までに必要な届出書を、その課税期間の申告期限までに提出すればよいとされています。2割特例が終わる医院は、この選択肢も含めて検討してください。

税務調査に備えて何をすれば良いか

日頃の会計記録と申告内容の適切な管理が、最も効果的な対策です。特に意識しておきたいポイントを整理します。

  • 保険診療と自由診療の収入を明確に区分して記録する(現金収入の日次管理を徹底し、窓口の未収分も「収入すべき金額」として計上する)
  • 共通経費の按分根拠と調整率の適用を書面で残す(診療科ごとの調整率を掛けたうえで自由診療割合を算出する)
  • 交際費・学会費・旅費の目的・参加者を記録する(日時・場所・出席者・目的をメモ)
  • 個人的費用と業務費用の按分基準を明確にしておく(自宅兼院・車両など)
  • インボイスの登録状況と帳簿記載を取引先ごとに点検する(2026年10月からの70%控除への切り替えに向けて、税区分設定と帳簿の表示方式を確認)
  • 帳簿・領収書等の証拠書類を保存する(法人は原則7年、青色欠損金が生じた事業年度は10年。個人の青色申告は帳簿7年・書類は種類により5年または7年。偽りその他不正の行為が疑われる場合は最大7年さかのぼって調査されます)

とくに帳簿の提示は加算税にも影響します。令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものについては、調査で帳簿の提示・提出を求められたのに応じなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来の額の2分の1未満だった場合に、無申告加算税が10%加重されます(3分の2未満の場合は5%加重)。

準備する間もなく調査の連絡が来た場合には、税務調査に詳しい税理士へ早めに相談してください。医療法人を専門に扱う事務所の料金や対応範囲は人見貴行税理士事務所|医療法人専門の料金と税務調査への備えでも確認できます。

申告漏れを指摘されたときのペナルティ早見表

税務調査で申告漏れが認められた場合、不足していた本税に加えて、性質の異なる複数のペナルティが課される可能性があります。主な加算税・延滞税を整理すると次のとおりです。

種類税率(本税に対して)ポイント
過少申告加算税原則10%
(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)
調査通知前に自主的に修正申告すれば不適用。調査通知後・更正予知前は5%(超過部分10%)
無申告加算税
(調査後の期限後申告等)
50万円までの部分15%
50万円超300万円までの部分20%
300万円超の部分30%
令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの。事前通知前の自主的な期限後申告は5%
重加算税過少申告に代えて35%
無申告に代えて40%
隠蔽・仮装があった場合。5年内に同じ税目で無申告加算税・重加算税を課されていると45%/50%へ加重
延滞税(令和8年)納期限の翌日から2か月以内は年2.8%
2か月経過後は年9.1%
納付が遅れたことへの利息。割合は毎年改定される(令和7年は2.4%/8.7%)

重加算税や延滞税が重なると、追徴税額は大きく膨らみます。延滞税の割合は市中金利に連動して毎年改定され、令和8年分は前年から引き上げられています。申告内容に不安がある場合は、早めに税理士へ相談してください。

よくある質問

Q. 税務調査の事前通知は、何日前に連絡が来ますか?

A. 法令に日数の定めはありません。国税庁は「調査開始日までに納税者が準備等をできるよう、調査までに相当の時間的余裕を置いて行う」としており、何日前かを一律に示すことは困難としています。実務上は1〜2週間前の連絡が多いとされますが、事案により異なります。

Q. 調査官から電話が来たら、日程を変更できますか?

A. できます。国税庁は、一時的な入院・親族の葬儀・業務上やむを得ない事情などのほか、理由が合理的と考えられれば変更を協議するとしています。申出は口頭で差し支えありません。ただし繰り返すと非協力とみられる場合があるため、顧問税理士と相談のうえ対応してください。

Q. 医療法人と個人の開業医で、調査の観点は変わりますか?

A. 収入計上もれ・経費の妥当性・自由診療の管理といった基本は共通ですが、法人には論点が加わります。医療法人では役員報酬や退職金の適正性、MS法人との取引価格の妥当性が確認されやすく、個人では家事費との按分や措置法26条の適用が論点になります。

Q. 概算経費の特例(措置法26条)は税務調査で否認されることがありますか?

A. 要件(社会保険診療報酬5,000万円以下かつ医業・歯科医業からの収入7,000万円以下)を満たし、収入区分と按分が適切であれば、基本的に否認されません。一方、収入が7,000万円を超えているのに適用していた、調整率を掛けずに按分していた、といったケースでは否認され追徴となる可能性があります。

Q. 保険診療しか行っていない医院でも、2026年10月のインボイスの変更に備える必要はありますか?

A. 課税売上がまったくなく免税事業者である医院、または簡易課税制度を選んでいる医院なら、控除割合の変更による直接の影響はありません。健診の受託・予防接種・物販・テナント賃貸などで課税売上があり本則課税で申告している医院は影響を受けます。まず自院の申告方法を確認してください。

まとめ

令和6事務年度のデータでは眼科医が1件当たり申告漏れ所得金額3,894万円で全業種2位に入り、医業の税務調査リスクは依然として高い水準にあります。同年度は所得税の調査等による追徴税額が1,431億円と過去最高で、選定にはAIが活用されています。

もっとも、指摘されやすい論点は絞られています。自由診療と保険診療の区分、窓口未収分を含む収入計上、共通経費の按分と診療科ごとの調整率、概算経費特例の5,000万円・7,000万円ライン。ここを毎月確認していれば、慌てる必要はありません。

直近では2026年10月1日からインボイスの経過措置が70%控除に切り替わります。本則課税の医院は、取引先の登録状況と帳簿の記載方式を9月中に点検しておきましょう。個人で2割特例を使ってきた方は、3割特例と簡易課税への移行措置もあわせて検討してください。

調査が入る基準や選ばれやすい特徴は税務調査が入る基準とは?選ばれやすい会社・個人の特徴と最新データで詳しく解説しています。

※本記事の統計は国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)、税率・制度はタックスアンサー No.2024・国税庁「延滞税の割合」にもとづき2026年9月に確認しました。税制は改正が多いため、適用の可否と最新の取扱いは国税庁サイトや顧問税理士にご確認ください。

飲食店・居酒屋の税務調査|確率・流れ・インボイス改正への備え

閉店後の居酒屋でレジデータと売上伝票を照合する店主のイメージ
飲食店・居酒屋は、税務調査で不正が見つかる割合が全業種のなかで最も高いグループです。国税庁の令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要では、法人税調査の不正発見割合は「バー・クラブ」62.3%、「その他の飲食」45.2%で、法人全体の23.5%を大きく上回りました。理由は単純で、現金とレジ・伝票の管理がそのまま売上の把握に直結するからです。逆にいえば、日々の記録が残っていて突合できる店は、調査で慌てる場面がほとんどありません。 総務省・経済産業省の令和3年経済センサス‐活動調査をもとにした集計によると、「飲食店,飲食サービス業」の事業所は全国で約55万事業所、そこで働く方は約401万人にのぼります。事業所数が多く参入しやすい業種である一方、事業者数が多いぶん税務署が実態を把握しにくい業種でもあります。PayPayなど各種キャッシュレス決済が広く普及した現在でも、飲食店の現金取引比率が高いという性質は変わっていません。  

飲食関連は不正発見割合の上位を占めている

令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の法人税・消費税の実地調査は約5万4千件実施され、実地調査による追徴税額の総額は3,407億円と過去10年で最も高い水準となっています(2025年12月公表)。 業種別に見ると、不正発見割合が最も高かったのは「バー・クラブ」の62.3%で、次いで「その他の飲食」45.2%、「外国料理」40.2%と、飲食関連の業種が上位を占めています。調査に入られた飲食関連の事業者のうち、業種によっては約2店舗に1店舗の割合で不正が見つかっている計算です。
法人税調査で不正発見割合が高い上位3業種。バー・クラブ62.3%、その他の飲食45.2%、外国料理40.2%(令和6事務年度)
飲食関連の業種が不正発見割合の上位を占めています
また、法人の実地調査1件当たりの追徴税額は平均約634万円(令和6事務年度)と高額で、直近10年で2番目の高い水準です。調査で否認を受けると100万円単位の支出となることが十分に想定されます。 なお、国税庁は同じ資料のなかで、AIを活用した予測モデルで調査必要度の高い法人を抽出し、そのうえで調査官が資料情報を分析して実地調査を行うかどうかを判断していると説明しています。実地調査の件数自体は前年度比7.4%減と絞り込まれる一方で追徴税額が増えているのは、選定の精度が上がっていることの表れといえます。「小さな店だから見つからない」という前提は成り立たないと考えておくのが安全です。なお、令和7事務年度の調査事績は本記事の更新時点(2026年9月)ではまだ公表されていません。  

飲食店の税務調査の流れ

一般的な税務調査は、税務署から納税者本人や顧問税理士に事前通知の連絡が入るケースが多いですが、事前連絡なしで「事前調査」や「現物確認調査」(現況調査)が行われるケースがあります。 これは調査上必要な場合は事前連絡せずに調査を行う権限を税務署が持っているためです。 飲食業は現金商売という性質上、売り上げを申告しないなどの悪質なケースもあり、事前連絡せずに調査に入るケースも他の業種と比較すると多いようです。調査全体の進み方ははじめての税務調査ガイドも参考にしてください。

事前調査では調査官が客として来店し、座席数や伝票を確認する

事前調査は店舗に客として調査官が来店し店舗の運営状況を確認するものです。店舗の外から客の入りなどの確認を行ったり、実際に店舗に客として来店し、座席数、回転数、客の入り具合、伝票の記載有無・レジの入力有無などを確認します。 また、自身が注文した料理や金額を記録し、後日の現物確認調査で店舗が保管する伝票と突合できる準備をしたりします。

現物確認調査(現況調査)は予告なしで来ることがある

税務署の調査員が午前中に突然来店し、帳簿などの資料の閲覧を求めてきます。突然、税務署の調査員が来たらパニックになってしまいそうですが、税理士の立ち合いが困難であったり、営業に支障がある場合には日を改めたい旨を伝えるなどの対応を行うほうがよいでしょう。 仮にこの時点で顧問税理士との契約がない場合には、「営業上の支障」などを理由に現物確認調査の日程調整をその場で依頼し、すぐに税務調査対応のための税理士選びを行うべきでしょう。  

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調査がさかのぼるのは原則5年、不正があれば7年

税務調査の期間は最大5年分が行われると考えてください。これは国税通則法第70条で、過去5年間の確定申告が更正の対象であることを明示しているためです。 なお、税務調査の結果、偽りその他不正の行為(いわゆる脱税)が認められた場合には、調査期間は7年にまで遡ることとなっています。7年分に重加算税と延滞税が重なると、負担は一気に膨らみます。 また帳簿、領収書などの各種資料には原則として7年間の保管義務があります(青色申告法人で欠損金の繰越控除を受ける場合などは10年間の保存が必要です)。 国税通則法第70条  

売上除外は伝票・原価率・仕入数量から見抜かれる

事前調査で調査官が支払った伝票が保管されていなかった、同業種の他店舗と比較して売上原価率が高い、キャッシュレス決済比率が高い、おしぼり、割り箸の仕入れ数と売上伝票数が合わないなど、売上げをごまかしていることを発見する手段はいくらでもあるため、完全に隠すことは難しいでしょう。国税庁の調査事績でも、実地調査を受けた法人の7割超で何らかの非違(申告内容の誤り)が指摘されており、是認(問題なし)で調査が終わるケースは少数派です。

レジなし・紙伝票の店ほど「出せる状態」が問われる

帳簿などの各種エビデンスは7年間の保管が義務付けられています。レジを利用しておらず、紙伝票で処理をしている場合、その紙伝票自体を7年間保管する必要があるので、膨大な量となります。 税務調査の際に、「3年前の7月の伝票を見せてください」といわれたら、売上伝票の金額と一致する紙伝票、1か月分をスムーズに提出しなければなりません。 いかに売上げを管理しているかという管理手法自体が調査されると考えましょう。

帳簿を出せないと加算税が重くなる(令和5年分以降)

帳簿の整備は「印象が悪くなる」だけの問題ではありません。令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する申告(所得税は令和5年分以降)については、調査で帳簿の提示・提出を求められたのに応じなかった場合や、記載すべき売上金額のうち半分以上が帳簿に載っていない場合、新たに納める税金の10%が過少申告加算税(無申告の場合は無申告加算税)に加算されます。載っていない部分が3分の1以上2分の1未満にとどまる場合も5%が加算されます。 売上を紙伝票やハンディ端末で管理している店舗ほど、「求められた月の伝票がすぐ出せるか」を平時から点検しておく意味は大きいといえます。

電子取引データはデータのまま保存する

キャッシュレス決済の入金明細、デリバリー代行会社からの精算書、Webで受け取った仕入請求書などは電子取引の取引情報にあたり、電子帳簿保存法により電子データのまま保存することが必要です(紙に印刷した控えだけでは要件を満たしません)。データを後から差し替えたり削除したりすると、重加算税が10%加重される対象にもなります。

消費税・インボイスは2026年10月に大きな区切りを迎える

飲食店の税務調査では、法人税・所得税だけでなく消費税も同時に対象となるのが一般的です。インボイス制度(適格請求書等保存方式)のもとでは、仕入れや経費について仕入税額控除を受けるには原則としてインボイス(適格請求書)の保存が必要で、保存がなければ控除できないのが原則です(簡易課税制度や2割特例を適用している場合は、消費税の計算上インボイスの保存は不要です)。 なお、飲食店業は不特定多数を相手にするため、記載事項を一部省略した「簡易インボイス(適格簡易請求書)」を交付できる業種です。宛名がなくても不備ではありません。自店が発行する側・受け取る側の両面で、登録番号や税率区分の記載を確認しておくと、調査時のやり取りがスムーズになります。

2026年10月から、免税事業者からの仕入れは「7割控除」に下がる

インボイス登録をしていない生産者や小規模な仕入先から仕入れている店舗は、ここが当面いちばん大きな変更点です。免税事業者などインボイス発行事業者以外からの課税仕入れは、これまで仕入税額相当額の80%を控除できましたが、令和8年(2026年)10月1日からは70%に下がります。その後は令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月以降は控除できなくなります(令和8年度税制改正で適用期限が2年延長され、割合が段階的に見直されました)。 あわせて、同じ相手先からの課税仕入れの合計額(税込み)が年間1億円を超える場合、超えた部分にはこの7・5・3割控除を適用できません(改正前は10億円。令和8年10月1日以後に開始する課税期間から)。仕入先ごとの年間取引額が大きい店舗は、事前に確認しておきたい点です。詳細は国税庁の令和8年度税制改正特集(インボイス経過措置の見直し等)にまとまっています。

2割特例は令和8年で終了、個人事業者は令和9年分から「3割特例」へ

インボイス登録を機に課税事業者になった小規模事業者が使ってきた2割特例は、令和8年9月30日が属する課税期間までで終わります。暦年で申告する個人事業の飲食店なら令和8年分が最後、3月決算法人なら令和9年3月期が最後です。 その後については、個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の申告で納付税額を売上税額の3割とできる「3割特例」が設けられました。基準期間(2年前)の課税売上高1,000万円以下・インボイス発行事業者であることなどが要件で、法人は対象外です。法人は簡易課税か一般課税を選ぶことになります。 簡易課税へ移る場合の届出にも配慮があり、2割特例・3割特例を適用した翌課税期間から簡易課税を使うなら、その課税期間の申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出せば間に合います(通常は課税期間が始まる前日まで)。なお飲食店業のみなし仕入率は第4種事業の60%です。どの方法が有利かは仕入れの状況で変わるため、決算前に一度試算しておくことをおすすめします。

飲食料品1%への引下げが決まれば、店内飲食との税率差はさらに広がる

2026年9月15日、政府は2027年4月1日から2年間、軽減税率の対象である飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる大綱を閣議決定しました。ここまでは政府の方針として確定していますが、関連法案の国会提出・審議・成立はこれからで、臨時国会は10月に召集される見通しと報じられています(最新の内容は財務省・首相官邸の公表資料をご確認ください)。 飲食店にとって重要なのは、店内飲食(外食)は対象外で10%のままという点です。実現すれば、テイクアウトや出前は1%、店内飲食は10%と、税率差が現在の2ポイントから9ポイントに広がることになります。持ち帰りと店内飲食を両方扱う店では、レジの税率区分・伝票の記録・会計ソフトの設定という区分経理の精度が、そのまま消費税額の正確さに直結します。区分が曖昧なまま運用していると、調査で売上の区分を一件ずつ問われる場面が想定されます。制度が動くかどうかにかかわらず、いま区分経理を整えておく価値は十分にあります。消費税に的を絞った論点は消費税の税務調査の注意点と事例でも扱っています。
確認の観点見るポイント備考
売上の計上レジデータ・伝票・キャッシュレス入金明細が一致しているか期ずれ(計上時期のずれ)も確認される
税率区分店内飲食10%とテイクアウト・出前8%が正しく分かれているか2027年4月の引下げが実現すれば差はさらに拡大
仕入・経費インボイスの保存、免税事業者からの仕入れの控除割合(2026年10月から70%)簡易課税・2割特例の適用時は消費税計算上の保存は不要
人件費アルバイトのシフト表・タイムカードと給与台帳の整合実態のない給与計上は重点的に確認される
棚卸・家事費期末在庫の計上、まかない・家事消費の処理個人事業では家事関連費の按分根拠も問われる
 

万が一に想定される追徴課税

税務調査の結果、提出していた確定申告書が否認、もしくは未申告であった場合の追徴課税としては下記の種類があります(割合は2026年9月時点の現行制度です)。
種類 内容 追徴課税額
過少申告加算税 申告した税額が本来より少なかった場合のペナルティ 10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)。調査の事前通知後・更正を予知する前の修正申告なら5%(同じく超える部分は10%)、事前通知前の自主的な修正申告ならかかりません
無申告加算税 確定申告の期限後に申告した場合のペナルティ 15%(50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の部分は30%)
重加算税 事実隠蔽、仮装に対するペナルティ 35%(無申告の場合は40%)
不納付加算税 源泉徴収による所得税の納付が期限までにされなかった場合のペナルティ 10%(自主的に納付した場合は5%)
上記に加え、帳簿の提示等がなかった場合の加重(前述)が上乗せされることがあります。 さらに、納付が遅れた日数に応じて延滞税が加算されます。延滞税の割合は市中金利に合わせて毎年見直されており、令和8年(2026年)1月1日から12月31日までの期間は、納期限の翌日から2か月以内が年2.8%、2か月を超えた部分は年9.1%です(国税庁「延滞税の割合」)。延滞税は本税だけを対象に課され、加算税には課されません。 見落としやすいのが延滞税の計算期間の特例です。期限内申告をしていた場合、法定申告期限から1年を経過した後の修正申告・更正では、一定の期間が延滞税の計算から除かれます。ただしこの特例は「偽りその他不正の行為」があった場合には適用されません。つまり、隠蔽・仮装があると重加算税がかかるうえに、遡った年分の延滞税も長期間分そのまま計算されることになります。  

補助金・給付金の申告漏れに注意

飲食店では、国や自治体の補助金・給付金・助成金を受け取る機会が少なくありません。これらは原則として課税対象で、法人なら益金、個人事業なら事業所得の総収入金額(または雑収入)に計上する必要があります。入金があったのに帳簿に載っていない、というのは調査で目に付きやすいパターンです。 かつて多くの飲食店が受給した持続化給付金・家賃支援給付金・休業要請に対する協力金・小規模事業者持続化補助金・雇用調整助成金なども、申請受付はすでに終了していますがいずれも課税対象でした。前述のとおり更正の対象期間は原則5年(偽りその他不正の行為があれば7年)にわたるため、受給した年度の収入として計上していなければ、今からでも指摘を受ける可能性があります。過去に受給したまま申告できていないことに気づいた場合は、調査の連絡を待たずに早めの修正申告を検討しましょう。個人事業での論点は自営業・個人事業主の税務調査の記事でも整理しています。  

飲食店の税務調査に関するよくある質問

Q. 税務署から調査の連絡が来たら、まず何をすればよいですか?

A. まず調査の日時・対象期間・対象税目を確認し、顧問税理士(いない場合は税務調査対応に強い税理士)に連絡します。事情があれば日程の調整を相談できます。慌てて書類を作り直すより、帳簿・伝票・領収書を整理して事実を説明できるようにしておくことが大切です。

Q. 調査の連絡が来る前に自主的に修正申告すると、ペナルティは軽くなりますか?

A. はい。調査通知前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税はかかりません。期限後申告となる場合の無申告加算税も、通知前の自主的な申告なら5%に軽減されます。早く動くほど負担は小さくなります。

Q. 小さな飲食店でも税務調査は来ますか?

A. 規模だけで対象から外れることはありません。国税庁はAIを使った予測モデルで調査必要度の高い先を抽出しており、実地調査の件数が絞り込まれる一方で1件当たりの追徴税額は増えています。飲食店は不正発見割合が高い業種として選ばれやすい点にも注意が必要です。

Q. 指摘を受けたら必ず重加算税になりますか?

A. いいえ。重加算税は事実の隠蔽または仮装があった場合に課され、単純な計算ミスや解釈の相違による申告漏れは過少申告加算税の範囲で処理されます。ただし二重帳簿、伝票の破棄、売上除外のための現金の別管理があると隠蔽・仮装と認定されやすくなります。

Q. まかないや、店主が食べた分の食材はどう扱いますか?

A. 従業員へのまかないは、①従業員が食事の価額の半分以上を負担していること ②〔食事の価額−従業員の負担額〕が1か月あたり7,500円(消費税等を除く)以下であることの両方を満たさない場合、差額が給与として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.2594。この限度額は令和8年4月1日以後に支給する食事から3,500円→7,500円に引き上げられました)。残業や宿日直の際に支給する食事は無料でも課税されません。また、個人事業主が自分や家族のために消費した食材は家事消費として売上に計上する必要があります。

税率・特例の内容は改正が続いているため、実際の判断にあたっては最新の情報を国税庁の公式サイトや顧問税理士にご確認ください。  

税務調査に強いおすすめ税理士事務所リスト【東京編】

 

宗教法人・寺院・神社の税務調査|源泉徴収漏れ7割の実態と備え

寺院・神社の経理と帳簿管理をイメージした概念図

宗教法人は収益事業がなければ法人税がかからないため税務調査とは無縁に見えますが、源泉徴収義務は収益事業の有無と関係なく発生するため、住職や職員に給与を支払っていれば調査の対象になります。国税庁の令和4事務年度の調査事績では、源泉徴収に関する調査を受けた宗教法人1,975法人のうち7割超にあたる1,429法人で源泉徴収漏れが指摘され、追徴税額は約15億円に上りました。直近の令和6事務年度でも、宗教法人を含む公益法人等への源泉所得税の実地調査は3,269件(前年比111.6%)と増えており、当局の目線が緩んだ様子はありません。どこを見られ、何を整えておけばよいのかを、調査の現場の順序に沿って整理します。

そもそも寺社仏閣は税務調査の対象になるの?

寺院をはじめとした宗教法人=非課税(収益事業がない場合)のイメージが強いため、「納税がないのだから税務調査の対象外では?」と思いがちです。しかし寺院・神社・宗教法人も税務調査の対象となります。

宗教法人は収益事業を行わない場合、法人税の納税義務はありません。しかし源泉徴収義務者としての義務は収益事業の有無にかかわらず発生するため、職員等への給与支払いがあれば源泉所得税の問題が生じます。この点が税務調査の主要な対象となっています。

実際、国税庁の集計では宗教法人の源泉徴収義務者(給与所得)は全国で51,216件(令和6事務年度末現在)にのぼります。公益法人等全体の166,891件のうち約3割を宗教法人が占め、種類別では単独で最大のグループです。「うちは小さな寺だから」という規模の問題ではなく、住職や職員に給与を支払っていれば、すべての宗教法人が源泉徴収義務者として調査の対象になり得るということです。

寺院・宗教法人に対する税務調査の件数と傾向

令和4事務年度(令和4年7月〜令和5年6月)において、国税庁は全国の宗教法人1,975法人を対象に源泉徴収に関する調査を実施しました。その結果、1,429法人(約72.6%)で源泉徴収漏れが指摘され、追徴税額は約15億円に上りました。源泉徴収漏れの指摘率が7割超という高さは、宗教法人において源泉徴収の実務管理が行き届いていないケースの多さを示しています。

宗教法人1,975法人への源泉徴収調査のうち1,429法人で漏れが指摘された横棒グラフ
令和4事務年度(令和4年7月〜令和5年6月)の調査事績。追徴税額は約15億円

単年度だけでなく、より長い期間で見ても傾向は同じです。報道機関の情報公開請求で明らかになった集計によると、令和4年6月までの5年間に全国で調査された8,289の宗教法人のうち、約7割にあたる5,850法人で源泉徴収漏れが確認され、追徴税額(加算税込み)は約45億7,000万円にのぼりました。このうち約2割(1,218法人)では悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しが認定され、重加算税は計約6億2,000万円とされています。宗教法人以外の公益法人による所得隠しの割合が1%強であることと比べると、指摘率の高さが際立ちます。

最新(令和6事務年度)の調査事績はどうなっているか

宗教法人だけを取り出した件数は国税庁の定例公表資料には掲載されていませんが、宗教法人を含む公益法人等の調査事績は毎年公表されています。令和7年12月に公表された「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、公益法人等に対する源泉所得税の実地調査は3,269件(前年比111.6%)行われ、そのうち2,277件(非違割合69.7%)で非違が把握されました。追徴税額は約25億6,600万円です。

公益法人等への源泉所得税の実地調査件数と非違件数が令和5事務年度から令和6事務年度にかけて増加したことを示す棒グラフ
調査件数は2,928件→3,269件へ増加。非違割合は70.5%→69.7%とほぼ横ばい

調査件数は前年の2,928件から1割以上増え、「7割前後で非違が見つかる」という水準も変わっていません。一方で追徴税額の総額は26億9,200万円から25億6,600万円へと微減しており、公表値を件数で割り戻すと1件あたりは約92万円から約78万円になります。1件あたりの金額は小さくなったのに、当たる件数は増えている——大口を狙い撃つというより、幅広く確認する方向に動いていると読むのが自然です。「規模が小さいから対象にならない」とは考えないほうがよいでしょう。

一方、公益法人等に対する法人税の実地調査は令和6事務年度で325件(前年321件)と、母数から見れば少ない件数にとどまっています。収益事業について法人税の申告義務がある公益法人等は44,212法人(うち宗教法人13,798法人)ですから、法人税の調査に当たる確率だけを見れば決して高くありません。しかし源泉所得税の調査はこれとは桁違いの規模で行われている点に注意が必要です。「法人税の調査は滅多に来ない」という感覚のまま源泉徴収の管理を後回しにすることが、指摘率7割という数字につながっています。

数字をもう少し細かく見ると、公益法人等の法人税の実地調査325件のうち非違があったのは173件、仮装・隠蔽を伴う不正計算が認定されたのは9件(不正発見割合2.8%)にとどまります。法人消費税の実地調査も189件と小規模です。公益法人等に対する当局の主戦場は、法人税ではなく源泉所得税であることが数字にはっきり表れています。なお同じ令和6事務年度のデータはクリニック・医療法人の税務調査でも取り上げており、業種による調査のかかり方の違いを比べる材料になります。

最新の調査事績や制度の詳細は、国税庁のパンフレット「宗教法人の税務」(最新版)や国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」で確認できます。

寺社仏閣 税務調査で見られるポイント

寺院・神社・宗教法人が税務調査でチェックされるポイントは、大きく2つあります。

  1. 源泉所得税
  2. 宗教活動か収益事業か

指摘の多い 源泉所得税

布施、奉納金、会費、献金、賽銭、寄附金、雑収入等は宗教法人の収入として課税対象とならない収入です。しかし住職や宮司、職員に支払う給与や退職金は源泉所得税の対象となるため、宗教法人は源泉徴収義務者として源泉所得税を納付する必要があります。また、税理士などに支払った報酬等に対しても同様の義務があります。報酬・料金の源泉徴収でつまずきやすい点は、源泉所得税の税務調査で指摘されやすいポイントにまとめています。

◎給与の支払以外に源泉徴収の対象となるケース例

  • 個人(住職・弟子・職員)の飲食代や生活費等を宗教法人として負担した場合は、負担額が給与(現物給与)と同等に扱われ、源泉徴収の対象となります。
  • 弟子の学費を負担した場合は、負担額が給与と同等に扱われ、源泉徴収の対象となります。
  • 住職等に法衣等を支給・貸与した場合は、業務の遂行のために必要なもの(いわば制服)であれば源泉徴収の対象にする必要はありません。
  • 住職等が庫裏や社務所等に無償で居住している場合は、職務の遂行上やむを得ない必要に基づくものと認められ、通常の家屋・部屋として相当な範囲であれば源泉徴収の対象にする必要はありません。

実際の調査でも、賽銭やお守り販売などの収入を代表者が生活費・飲食・買い物に充てていたケースで、その流用分を「法人から代表者への給与」と認定され、源泉徴収漏れとして追徴されている事例が多く報じられています。

高額になりやすい 収益事業の申告漏れ

寺院・神社・宗教法人では、課税対象となる収益事業が下記のとおり分類されています(法人税法上の34業種)。

寺院・神社・宗教法人の収益事業

〇線引きの難しい物品販売業
お守りやお札、おみくじなど喜捨金と認められるものは収益事業に該当しません。一方、絵葉書や御朱印帳、キーホルダーなど、通常販売されているものと大きな価格差なく販売されているものは物品販売業に該当し、課税対象となります。

〇価格を通常より高く設定すれば喜捨金になるか?
2008年に宗教法人が「御利益のある水」0.9リットルを3,800円で販売し非課税として処理していたところ、国税局から収益事業に該当すると指摘を受けた事例があります。「御利益」を主張すれば課税対象でなくなるわけではありません。

迷いやすい事業の「収益事業かどうか」の目安

国税庁のパンフレット「宗教法人の税務」では、宗教法人で一般的に行われている事業について具体的な判定の考え方が示されています。実務で迷いやすいものを整理すると次のとおりです。

事業の内容収益事業への該当ポイント
墓地の貸付け(永代使用料を含む)該当しない使用期間に応じて地代を継続徴収するものも、一括徴収の永代使用料も対象外
墓地以外の不動産の貸付け原則 該当する(不動産貸付業)国・地方公共団体に直接貸し付ける場合など一定の要件に当たるものを除く
境内地・本堂・講堂等の席貸し原則 該当する(席貸業)不特定多数の遊興・遊覧・慰安目的は全て該当。会議・研修等の用でも一定の要件を除き該当
宿泊施設の経営原則 該当する(旅館業)ただし宗教活動に関連して利用される簡素な共同宿泊施設で、宿泊料が全利用者につき1泊1,000円(2食付きで1,500円)以下のものは対象外
境内の駐車場(時間極め・月極め)該当する(駐車場業)駐車場用地を一括して貸し付ける事業も該当
神前結婚式・仏前結婚式の挙式該当しない本来の宗教活動の一部と認められる範囲
挙式後の披露宴での会場貸し・飲食物提供・衣装貸付け・記念写真の撮影等該当するあっせん行為も含めて収益事業
茶道・生花等の教授該当する(技芸教授業)書道・華道・料理・写真など特定の技芸の教授は対象。通信教育や資格・称号の付与も含む
所蔵品を常設の宝物館等で観覧させる行為該当しない—

収益事業に該当するかどうかは「宗教法人が行っているか」ではなく「事業の実態」で判断されます。該当すれば法人税だけでなく事業税の課税要件にも関わってくるため、区分の判断は早めに固めておくほうが安全です。金銭の受け渡しが現金かキャッシュレス決済かによって結論が変わることもありません。判断に迷うものがあれば、自己判断で非課税として処理せず、所轄税務署や税理士に確認しておくことが結果的に安全です。

収益事業がなくても提出が必要な書類がある

見落とされやすいのが、収益事業を行っていない宗教法人でも、年間の収入金額の合計額が8,000万円を超える場合は、損益計算書(収支計算書)を所轄の税務署長に提出する必要があるという点です(提出期限は事業年度終了後4か月以内)。帳簿・記録の整備は、こうした提出義務への対応や、調査時の説明資料としても重要になります。

源泉徴収漏れを指摘されたときのペナルティ

源泉徴収すべき所得税及び復興特別所得税を徴収しなかったとき、あるいは徴収したのに納期限までに納付しなかったときは、本税に加えて加算税・延滞税を負担することになります。宗教法人の税務調査で追徴額が膨らむのは、この上乗せ部分が大きいためです。

種類割合内容
不納付加算税本税の10%(一定の場合5%)源泉所得税を法定納期限までに納付しなかった場合に課される。税務調査の通知等を受ける前に自主的に納付したときは5%に軽減される
重加算税本税の原則35%収入の一部を除外して住職等の個人的な費用に充てるなど、不正に源泉徴収を免れていた場合に不納付加算税に代えて課される
延滞税年2.8%/年9.1%(2026年)法定納期限の翌日から2か月以内は年2.8%、2か月を超えると年9.1%(令和8年1月1日〜12月31日)。割合は年ごとに変わるため、計算例は延滞税の税率と計算方法を参照

ここで押さえておきたいのは、単純な計上漏れであれば不納付加算税で済むのに対し、私的流用を隠していたと判断されると35%の重加算税に跳ね上がるという点です。前述のとおり、5年間で追徴を受けた宗教法人の約2割で所得隠しが認定されています。法人の資金と住職・宮司個人の家計を明確に分けて記録しておくことが、最も効果的な防御策です。

令和8年4月から「防衛特別法人税」の申告が必要になります

収益事業を行っている宗教法人に関わる新しい制度として、防衛特別法人税が創設されました。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

  • 納税義務者…各事業年度の所得に対する法人税を課される法人(=収益事業を行い法人税の納税義務がある宗教法人も対象)
  • 税額…基準法人税額から年500万円の基礎控除額を差し引いた金額に4%の税率を乗じて計算
  • 申告期限…原則として各課税事業年度終了の日の翌日から2か月以内(法人税・地方法人税の申告書別表に欄が追加される予定)

基礎控除が年500万円あるため、収益事業の規模が小さい宗教法人では納付税額が生じないケースが多いと考えられます。ただし計算の結果、納税額が生じない場合でも申告義務は失われず、いわゆる「零申告」が必要とされています。この点は見落としやすいため、収益事業を行っている宗教法人は事前に顧問税理士へ確認しておくことをおすすめします。なお中間申告の規定は令和9年4月1日以後に開始する課税事業年度からの適用です。制度の詳細は国税庁「防衛特別法人税に関する納付手続等について」で確認できます。

申告漏れ・所得隠しの指摘を受けた事例

宗教法人の税務に対する国税当局の目は年々厳しくなっています。近年報道された事例には、次のようなものがあります。

  • 2011年2月:京都の観光地として有名な金閣寺(鹿苑寺)・銀閣寺(慈照寺)を管理する住職が、掛軸を書いて得た収入を宗教法人へのお布施として処理し個人所得としなかったとして、3年間で約2億円の申告漏れを指摘されたと報じられました(2011年当時の事例)。
  • 2024年(令和6年)9月:東京都北区の神社が東京国税局の調査を受け、2023年までの7年間で約2億5,000万円の所得隠しを指摘されたと報じられました。賽銭やお守りの売上などを宮司が私的に流用しており、流用分は法人から宮司への給与にあたるとして源泉徴収漏れが認定され、重加算税を含め法人と宮司に約1億3,000万円が追徴課税されたとされています。

いずれも「非課税の宗教収入」と「代表者個人の所得」の区分が曖昧になっていた点が問題となっています。適正に区分し記録していれば防げるトラブルであり、日頃の経理管理の重要性がうかがえます。

税務調査 過去帳の開示には応じなければいけない?

寺院・神社・宗教法人の税務調査では、非課税収入(布施、奉納金、会費、献金、賽銭、寄附金等)がきちんと計上されているかが重点的にチェックされます。その過程で、故人の逝去日から葬儀日を逆算して布施や奉納金が反映されているかを確認するため、調査官から過去帳の提出を求められる場合があります。

過去帳を提出しなければいけない法的根拠はありません。しかし実際には、その場の雰囲気に圧されて資料として提出してしまうケースが多いとされています。逆に頑なに拒んでも「何か隠しているのでは」と疑われることもあります。

過去帳は故人やその親族の個人情報であり、寺社仏閣への信頼の証でもあることから、提出を拒む方も多くいます。提出を求められた際はその場では即答せず、税務調査の対応に精通した税理士に相談のうえ、調査官との対応を依頼することをおすすめします。立会いを依頼する場合の費用は事務所によって異なり、たとえば税理士法人ウィズは立合料80,000円と金額を明示しています。顧問契約の有無で扱いが変わることもあるため、依頼前に確認しておくとよいでしょう。

宗教法人が税務調査に備えるためのポイント

税務調査で指摘が多い源泉所得税と収益事業の申告漏れを防ぐために、日頃から以下の点を意識して帳簿・経理を整理しておくことが重要です。

確認事項内容注意点
給与・報酬の源泉徴収住職・職員・税理士等への支払に源泉徴収を適切に行い、納付する現物給与(飲食代・学費の負担等)も対象になる場合がある
収益事業の区分経理宗教活動と収益事業(物品販売・駐車場等)を帳簿上明確に区分する区分が不明確だと課税対象の判断で不利になりやすい
収支計算書の提出収益事業がなくても年収8,000万円超なら損益計算書を提出する提出期限は事業年度終了後4か月以内
帳簿・領収書の保存収入・支出の帳簿と証票類を保存する(原則7年間)帳簿がないと推計課税のリスクがある
過去帳・記録の管理葬儀日・布施の受入れ等の記録を整備する調査時に提出を求められた場合は税理士に相談のうえ対応を
納期の特例の管理給与の支給人員が常時10人未満なら年2回納付の特例を利用できる納期限は7月10日と翌年1月20日。納付税額がない場合も納付書の提出が必要

よくある質問(FAQ)

Q. 収益事業を一切行っていない宗教法人も税務調査の対象になりますか?

A. はい。収益事業がなく法人税の納税義務がない場合でも、職員等に給与を支払っていれば源泉徴収義務者となるため、源泉所得税に関する調査は受ける可能性があります。令和4事務年度の調査では7割超の宗教法人で源泉徴収漏れが指摘されており、他人事ではありません。

Q. お守りやお札の販売は収益事業に該当しますか?

A. お守り・お札・おみくじなど喜捨金と認められるものは収益事業に該当しません。一方、絵葉書や御朱印帳、キーホルダーなど一般に市販されているものと同程度の価格で販売するものは、物品販売業として課税対象になります。「御利益がある」という主張だけで非課税にはなりませんので、販売品目ごとに判断することが大切です。判断に迷う場合は税理士にご相談ください。

Q. 賽銭やお布施を代表者の生活費に使うと、なぜ源泉徴収漏れになるのですか?

A. 賽銭やお布施そのものは宗教法人の非課税収入ですが、それを住職・宮司などの代表者が個人的な生活費や飲食に流用した場合、その金額は法人から代表者への「給与」にあたると扱われます。給与である以上、法人は源泉所得税を天引き・納付する義務があり、これを行っていないと源泉徴収漏れとして追徴の対象になります。私的流用が悪質と判断されれば重加算税が加わることもあります。法人の資金と個人の家計は明確に分けて管理することが重要です。

Q. 檀信徒会館や境内を地域の集まりに貸した場合、税金はかかりますか?

A. 境内地や本堂・講堂等の席貸しは、原則として収益事業(席貸業)に該当します。不特定または多数の人の慰安・遊興・遊覧のために貸す場合は全て該当し、会議・研修等の用に供する場合も、国や地方公共団体の用に供するためのものなど一定の要件に当たるものを除いて該当します。「宗教法人が貸しているから非課税」という整理はできません。使用料を受け取る貸し出しがある場合は、収益事業として区分経理が必要かどうかを確認してください。

Q. 宿坊で参拝者を泊めていますが、旅館業として課税されますか?

A. 宗教法人が所有する宿泊施設に信者や参拝人を宿泊させて宿泊料を受ける行為は、名目を問わず原則として収益事業(旅館業)に該当します。ただし宗教活動に関連して利用される簡素な共同宿泊施設で、宿泊料の額が全ての利用者につき1泊1,000円(食事を提供するものは1,500円)以下となっているものの経営は、収益事業に該当しないとされています。金額基準を超えている場合は課税対象になりますので、実際の宿泊料の設定を確認しておきましょう。

Q. 税務調査の通知が来たらどうすればよいですか?

A. 税務調査の事前通知(原則として電話や書面)を受けたら、まず税務調査の対応に詳しい税理士に相談することをお勧めします。調査日程の調整や提出資料の準備など、税理士が立ち会ったうえで対応することで、余計なトラブルを避けることができます。帳簿・領収書・源泉徴収簿等の書類を事前に整理しておくことも重要です。事前通知で伝えられる調査対象期間・税目を確認し、その範囲の帳簿から先に手を付けると準備が進めやすくなります。

※本記事に記載の件数・割合・税率は、いずれも国税庁の公表資料(2026年9月確認)にもとづくものです。制度や割合は改正されることがあるため、最新情報は国税庁ホームページでご確認ください。

サラリーマンの副業と税務調査|申告基準と178万円の壁・暗号資産

夜の自宅デスクで副業の記録と領収書を整理する会社員のイメージ

お勤めの方は、会社が毎月の給与から所得税・住民税を源泉徴収して納めているため、原則として確定申告の必要はありません。住宅ローン控除の手続きが必要なマイホーム購入や相続など特別な事情がない限り、サラリーマンが税務調査の対象になることは基本的に多くありません。

それでは、法人・個人事業主ではないサラリーマンは税務調査と無縁なのでしょうか。実は、サラリーマンやパート・主婦の方も税務調査の対象となる場合があります。とくに近年は、副業収入を無申告にしているサラリーマンへの調査が強化されています。

サラリーマンは『副業』で調査が入る

サラリーマンに税務調査が入る大きな要因は『副業・サブビジネス』です。

2018年1月に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し(その後2020年9月・2022年7月に改定)、大手企業やベンチャー企業でも副業を認める動きが定着しました。スキルを活かした副業で、確定申告が必要な所得を得ているケースが増えています。副業人口の広がりとともに、税務調査の対象となるサラリーマンも今後さらに増えていくと考えられます。

暗号資産・ネットオークション・シェアリングエコノミーも申告が必要

近年は『副業(収入)』という認識のないまま(あるいは意識的に)収入を得て、無申告となっているケースが増えています。

暗号資産(仮想通貨)の取引:ビットコインをはじめとした各種暗号資産の売買・交換・レンディング等で生じた利益は、2026年9月時点では原則として雑所得となり確定申告が必要です(後述のとおり、将来的に申告分離課税へ移行することが決まっています)。国税庁は暗号資産取引への調査を継続して強化しており、令和6事務年度では暗号資産等取引を行う個人の1件当たり追徴税額が745万円と、所得税の実地調査(特別・一般)全体(299万円)の約2.5倍に達しています。

ネットオークション・フリマアプリでの販売収益:1回ごとの取引利益は少額でも、日常的に出品している場合や、引越しなどで一度に大量の取引を行った場合には総額がふくらみ、確定申告の対象となることがあります。

動画・コンテンツ配信・シェアリングエコノミー:動画投稿の広告収益、民泊・カーシェアなどシェアリングサービスによる収益、ライバー・インフルエンサー収益なども申告対象となる所得です。

副業で申告が必要になる条件は?いくらから?

サラリーマンの副業で申告が必要となる条件は、副業の種類により異なります。

副業がパート・アルバイト(給与)の場合

1月1日から12月31日までの、本業以外の給与収入が20万円を超える場合は確定申告が必要です。

副業が暗号資産・ネットオークション等の場合

1月1日から12月31日までの『所得』が20万円を超える場合は確定申告が必要です。

※所得とは、売上・売却益から仕入原価・必要経費を差し引いた金額です。なお、所得が20万円以下で所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は別途必要です。

令和8年分から控除がさらに引き上げられました――課税最低限は「178万円」に

ここで、パートやアルバイトで働く方、家族を扶養している方に大きく関係する改正に触れておきます。令和8年度税制改正により、基礎控除の額と給与所得控除の最低保障額がさらに引き上げられました。この改正は令和8年(2026年)12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されます。令和8年11月までの毎月の源泉徴収に変更はなく、12月に行う年末調整で1年分の税額を計算し直して精算するという進め方になっている点が、今年ならではの特徴です。

基礎控除の額は、合計所得金額に応じて次のように変わりました。

合計所得金額令和8年分・9年分の基礎控除額令和7年分(改正前)
132万円以下104万円95万円
132万円超336万円以下88万円88万円
336万円超489万円以下68万円68万円
489万円超655万円以下67万円63万円
655万円超2,350万円以下62万円58万円

あわせて、給与所得控除の最低保障額が65万円から74万円へ引き上げられました(令和8年分・9年分)。給与収入だけの方であれば、給与所得控除74万円+基礎控除104万円=178万円までは所得税がかからない計算になります。長く「103万円の壁」と呼ばれ、令和7年分に160万円へ引き上げられた水準が、令和8年分ではさらに178万円まで上がった、というのがこの改正の中身です。

所得税がかからない給与収入の上限が令和6年分103万円、令和7年分160万円、令和8年分178万円と引き上げられたことを示す棒グラフ
給与所得控除の最低保障額と基礎控除額の合計。令和8年分は74万円+104万円=178万円です(特定支出控除などの適用がある場合を除く)。

ただし、金額の一部は期限を区切った措置である点に注意が必要です。合計所得金額132万円以下の方の基礎控除104万円などは令和8年分・9年分の措置とされ、令和10年分以後は基礎控除99万円(合計所得132万円以下の場合)、給与所得控除の最低保障額も改めて計算する仕組みに切り替わることが法律で決まっています。「一度上がったら、そのままずっと同じ」ではありません。

扶養している家族の「所得要件」も変わりました

基礎控除の引上げにともない、扶養控除などの対象になる家族の所得要件も引き上げられました。扶養親族・同一生計配偶者などは、合計所得金額58万円以下から62万円以下(収入が給与だけなら123万円以下から136万円以下)へ変更されています。19歳以上23歳未満の子について、合計所得金額62万円超123万円以下の場合に受けられる特定親族特別控除(最高63万円)もあります。勤労学生の所得要件も85万円以下から89万円以下(給与だけなら163万円以下)に上がりました。

この改正で新たに扶養親族等の要件を満たすことになった家族がいる場合は、扶養控除を受けるために勤務先へ「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。年末調整の書類が届いたら、家族の年収を確認したうえで記入してください。

そのうえで、税務調査との関係では次の3点を押さえておきましょう。

  • 副業の「20万円ルール」は変わっていません。上で説明した確定申告の要否の基準は今回の改正の対象外です。「178万円まで大丈夫」と誤解して副業所得の申告を省略しないでください。
  • 住民税には別の基準があります。所得税がかからない場合でも住民税がかかることがあり、申告先も自治体です。詳細はお住まいの市区町村でご確認ください。
  • 社会保険の加入基準は税制とは別の制度です。要件の見直しも進められているため、加入の可否は勤務先や年金事務所にご確認ください。

暗号資産は「申告分離課税20%」へ――ただし適用が始まるのはこれから

暗号資産の税金についても、大きな見直しが決まっています。令和8年度税制改正では、金融商品取引法等の改正を前提に、居住者が暗号資産取引業者(仮称)の取り扱う暗号資産をその業者に譲渡等した場合の所得を、他の所得と分けて20%(所得税15%・住民税5%)で課税する「申告分離課税」とする措置が講じられました。分離課税の対象となる取引で生じた損失について3年間の繰越控除を認めることや、暗号資産取引業者に対して取引に係る報告書を税務当局へ提出する義務を整備することも、あわせて示されています。

ここで誤解しやすいのが、「もう20%になった」わけではないという点です。この措置は金融商品取引法等の改正を前提としており、いつから適用されるかはその施行に合わせて定められます。2026年9月時点では適用は始まっておらず、現在の確定申告は従来どおり(原則として雑所得・総合課税)です。「税率が下がるらしいから、今年の分は申告しなくてもよいだろう」といった判断は成り立ちません。適用開始の時期と対象範囲は、今後の国税庁の公表資料でご確認ください。

むしろ実務で重く効いてくるのは、取引業者から税務当局へ報告書が提出される仕組みが整えられることです。上場株式の年間取引報告書と同じように、誰がどのような取引をしたかが把握しやすくなります。「取引所のデータは税務署にはわからない」という前提は、今後いっそう成り立たなくなると考えておくべきでしょう。

副業の所得は「事業所得」か「雑所得」か――調査で必ず見られる論点

副業の申告で判断に迷いやすいのが所得区分です。雇用契約にもとづかない副業(請負や自分で商売をしている場合)は、事業所得か、業務に係る雑所得かのどちらかになります。この区分は令和4年10月の所得税基本通達の改正で整理され、帳簿書類の保存の有無が主な目安とされました。帳簿書類を保存していれば概ね事業所得、保存がなければ概ね業務に係る雑所得、という考え方です。

ただし国税庁は、収入金額が300万円を超える場合には、帳簿書類の保存がないという事実のみで所得区分を判定せず、事業所得と認められる事実があるときは事業所得として取り扱うとしています。形式だけで機械的に決まるわけではなく、その活動が社会通念上の「事業」といえるかが問われます。

区分が実務に効いてくるのは、次の2点です。

  • 損益通算:業務に係る雑所得の損失は、給与所得など他の所得と損益通算できません。副業の赤字を給与と相殺して還付を受ける申告は、区分を誤っていると調査で否認されます。
  • 記帳・保存の義務:業務に係る雑所得でも、前々年分の収入金額が300万円を超える場合は現金預金取引等関係書類の保存が必要です。さらに前々年分の収入金額が1,000万円を超える場合は、確定申告書に収支内訳書などの添付が必要になります。

いずれの区分でも、請求書・領収書・入出金の記録を残しておくことが最大の備えです。「事業所得として申告したい」のであれば、帳簿と証憑をそろえておくことが前提になります。

副業の無申告。なぜバレる!?

副業で得た収入を申告しなかった場合、どのようにして税務署に把握されるのでしょうか。代表的なものを挙げます。

  • 副業収入の支払先から税務署へ提出される支払調書により発覚
  • 取引先や暗号資産交換業者などに調査が入り、芋づる式に発覚
  • 給与収入に対して不釣り合いな金額の住宅や車を購入して発覚
  • 税務署への第三者からの情報提供(タレコミ)で発覚
  • 情報技術専門官によるオンライン取引の追跡で発覚

加えて、上で触れたとおり暗号資産取引業者から税務当局へ報告書を提出する仕組みの整備も決まっています。制度が動き出せば、把握の網はさらに細かくなります。

「心当たりはあるが、税務署から連絡は来ていないから大丈夫」と考えるのは危険です。税務調査は、申告をしなかった直後の年に来るとは限りません。

追徴課税は最大7年前まで遡って行われることがあるため、3〜5年ほど経ってから突然連絡が来るケースも少なくありません。

副業のネット収入・インターネット取引の無申告は危険

国税庁は毎年、インターネット取引を行う個人に対する調査結果を公表しています。令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況(2025年12月公表)によると、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引を行う個人への実地調査は1,155件、1件当たりの申告漏れ所得金額は1,595万円、1件当たりの追徴税額は305万円となっています。

なかでも暗号資産等取引を行う個人の1件当たり追徴税額は745万円と特に高額で、所得税の実地調査(特別・一般)全体(299万円)の約2.5倍に達します。

所得税の調査等(実地調査+簡易な接触)全体でみると、令和6事務年度の申告漏れ所得金額の総額は9,317億円、追徴税額の総額は1,431億円(過去最高)を記録しました。調査等の件数を効率化しつつ追徴税額を伸ばしており、調査対象の選定精度が高まっていることがうかがえます。

「金額が少ないからバレない」「副業収入だからわからないだろう」は通用しません。国税庁はAIを活用したデータ分析やKSKシステム(国税総合管理システム)を駆使し、副業収入・暗号資産取引の申告漏れを効率的に把握する体制を強化しています。

申告をしていなかったという方は、まず税理士に相談してください。すでに確定申告や税務調査の連絡が来てしまった場合は、税務調査に詳しい税理士へ相談することをおすすめします。

申告漏れに気づいたときにそろえておきたい資料

過去の副業収入を申告していなかった場合、まず必要になるのは「いくら入ってきて、いくら経費として出ていったか」を示す資料です。次のものを年ごとに整理してから相談すると、話が早く進みます。

そろえる資料どこから入手するか確認されるポイント
入金の記録取引に使った銀行口座の入出金明細入金の合計額と、申告額との差
プラットフォームの売上明細フリマアプリ・動画配信・広告サービスの管理画面年ごとの売上、手数料の控除前後の区別
暗号資産の取引履歴暗号資産交換業者の年間取引報告書売却・交換・使用による損益の計算
経費の証憑領収書・請求書・クレジットカードの明細副業との関連性(誰に・何のために)
本業の源泉徴収票勤務先給与所得と合算したうえでの税額

なお、税務調査の事前通知を受ける前に自主的に期限後申告をすれば、無申告加算税が軽減されます。気づいた時点で早く動くほど、負担は小さくなります。

FAQ:サラリーマンの副業と税務調査に関するよくある質問

Q1:副業の所得が20万円以下なら何もしなくてよいですか?

所得税の確定申告は不要ですが、住民税については金額にかかわらず申告が必要です(お住まいの自治体への住民税申告)。また、20万円以下であっても、医療費控除やふるさと納税などで確定申告を行う場合には、副業収入も含めて申告しなければなりません。

Q2:会社に知られずに副業の申告ができますか?

確定申告書第二表の「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」欄で「自分で納付(普通徴収)」を選択することで、副業分の住民税を会社経由ではなく自分で納付できます。ただし、会社の就業規則で副業が禁止されている場合の取り扱いは別途ご確認ください。

Q3:税務調査が来るとしたら、いつ頃ですか?

申告しなかった直後の年に来るとは限りません。追徴課税は最大7年前まで遡ることがあるため、3〜5年経ってから突然連絡が来るケースもあります。「まだ来ないから大丈夫」と安心せず、心当たりのある方は早めに税理士へご相談ください。

Q4:令和8年から「壁」が178万円になったと聞きました。副業の申告基準も変わりましたか?

変わっていません。178万円というのは、給与所得控除74万円と基礎控除104万円を合わせた「給与収入だけの人に所得税がかからない上限」です(令和8年分・9年分)。副業について確定申告が必要かどうかは、これまでどおり20万円を基準に判断します。両者を混同すると無申告になりかねないため注意してください。

Q5:副業が赤字でした。給与所得と相殺できますか?

所得区分によります。業務に係る雑所得の損失は、給与所得など他の所得と損益通算できません。事業所得であれば損益通算の対象になりますが、区分は帳簿書類の保存状況や活動の実態から判断されるため、実態を伴わない「事業所得」での申告は調査で否認されることがあります。判断に迷う場合は税理士にご相談ください。

Q6:暗号資産の利益は、今年の確定申告から20%になりますか?

いいえ。申告分離課税とする改正は令和8年度税制改正で措置されましたが、金融商品取引法等の改正を前提としており、適用が始まる時期はその施行に合わせて定められます。2026年9月時点では適用は始まっていません。現在の申告は従来どおり(原則として雑所得・総合課税)で行ってください。制度が切り替わる年は取扱いを誤りやすいため、適用開始の時期は国税庁の公表資料でご確認ください。

Q7:年末調整のとき、家族の扶養について何か注意はありますか?

令和8年分から、扶養親族・同一生計配偶者などの所得要件が合計所得金額58万円以下から62万円以下(収入が給与だけなら123万円以下から136万円以下)へ引き上げられました。この改正で新たに要件を満たすことになった家族について扶養控除を受けるには、勤務先へ「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。扶養控除の適用誤りは源泉所得税の調査で指摘されやすい論点なので、家族の年収を確認してから記入してください。

※本記事の制度内容は2026年9月時点のものです。税制は改正されることがありますので、最新の内容は国税庁の公式サイトでご確認ください。

税務調査に強いおすすめ税理士事務所リスト【東京編】

自営業・個人事業主・フリーランスの税務調査|流れ・備え・加算税

自宅の仕事机で帳簿と領収書を整理する個人事業主のイメージ

自営業・個人事業主・フリーランスとして働く方は全国に数多くいますが、「従業員のいない自分には税務調査など無縁だ」と思われている方も少なくありません。しかし、規模の大小にかかわらず、税務署が「追加で納めるべき税金がある」と判断すれば、税務調査の連絡が来る可能性は誰にでもあります。

本ページでは、税務調査の現場を知る立場から、自営業・個人事業主・フリーランスの方が知っておきたい税務調査のポイントを、いたずらに不安を煽らずに整理します。記載内容は2026年9月時点の制度にもとづくものです。正しく備えておけば、調査は決して怖いものではありません。

青色申告・白色申告について

確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、まずは比較表で違いを確認しておきましょう。

青色申告 白色申告
申請手続き 「青色申告承認申請書」を提出する必要がある(原則その年の3月15日まで。新規開業の場合は開業日から2か月以内) 不要
記帳 正規の簿記(原則、複式簿記)で帳簿を揃える必要がある 現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳などの簡易な帳簿
メリット ・青色申告特別控除(最大65万円)が使える ・青色事業専従者給与を必要経費にできる ・赤字(純損失)を最長3年繰り越せる 複式簿記の知識がなくても確定申告ができる
デメリット 複式簿記の知識が必要(税理士やクラウド会計ソフトの活用が無難) ・青色申告特別控除がない ・専従者給与を全額は経費にできない(事業専従者控除に限られる) ・赤字の繰越ができない

【重要】青色申告特別控除の金額は要件で変わります。2020年(令和2年)分の申告から制度が改正され、複式簿記で記帳し貸借対照表・損益計算書を添付して期限内に申告した場合の控除額は原則55万円です。これに加えて、e-Taxによる電子申告を行うか、優良な電子帳簿の保存を行う場合に、最大65万円の控除を受けられます(簡易簿記の場合は10万円)。「青色=一律65万円」ではない点に注意してください(出典:国税庁 タックスアンサー No.2072)。

白色申告の「推計課税」に要注意

推計課税とは、売上・所得・経費などの実額が帳簿から把握できない場合に、税務署が「近隣の同規模・同業者の差益率(仕入金額に対する収入金額の比率)」や、水道光熱費などの経費額から売上・所得を推計して課税することをいいます。帳簿の信頼性や保管状態が悪いと発生しやすく、必要な帳簿が簡易的な白色申告では特に注意が必要です。

事業を長く続けていく予定であれば、節税メリットの大きい青色申告に切り替えていくことをおすすめします。

帳簿の不備そのものが加算税を重くする(令和5年分以降)

ここ数年で個人事業主に直接効いてきているのが、「帳簿を出せない・売上が記帳されていない」こと自体にペナルティが上乗せされる仕組みです。令和4年度税制改正で設けられたもので、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税(申告所得税では令和5年分の確定申告以降)から適用されています。

具体的には、税務調査で帳簿の提示または提出を求められたときに、次の状態だと通常の過少申告加算税・無申告加算税に上乗せがされます。

  • 帳簿を提示・提出しなかった場合、または帳簿に記載した売上金額が、本来記載すべき金額の2分の1未満だった場合……10%を加算
  • 帳簿に記載した売上金額が、本来記載すべき金額の3分の2未満だった場合……5%を加算

つまり、申告漏れの中身以前に「帳簿がない・売上が抜けている」という状態そのものが不利に働きます。逆にいえば、日々の記帳を積み重ねて調査当日にすぐ提示できるようにしておくことが、そのまま負担軽減につながるということです(出典:国税庁 タックスアンサー No.2026、国税庁「売上げに関する帳簿を作成・保存していない事業者の方は加算税が重くなります」)。

売上900万円前後は要注意

売上が900万円前後で推移している事業者は、税務調査で注意が必要といわれます。これは消費税の課税事業者になるかどうかの基準が、基準期間(原則2年前)の課税売上高1,000万円であるためです。1,000万円以下であれば免税事業者となり、受け取った消費税の一部が手元に残る仕組み(いわゆる益税)があるため、「1,000万円をわずかに下回る売上」が何年も続いていると、税務署に売上調整の疑いを持たれやすくなります(出典:国税庁 タックスアンサー No.6501)。

なお、2023年10月に始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、免税事業者のままだと取引先が仕入税額控除を受けにくくなる場面が増え、あえて課税事業者として登録するケースも広がっています。自分の売上規模とインボイス登録の要否は、取引先との関係も含めて確認しておきましょう(出典:国税庁 インボイス制度特設サイト)。

2026年(令和8年)は「2割特例」の区切りの年――令和9年分からは個人事業者に「3割特例」

インボイス制度を機に免税事業者から登録した小規模事業者が使える2割特例(納付税額を売上に係る消費税額の2割にできる負担軽減措置)は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が属する各課税期間で適用が終わります。暦年で申告する個人事業者の課税期間は1月〜12月なので、令和8年分(2026年分・申告は2027年3月)が最後の適用となります(出典:国税庁「2割特例の概要」)。

ただし、そこで一気に負担が跳ね上がるわけではありません。令和8年度税制改正で、個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の申告について納付税額を売上税額の3割とできる「3割特例」が新たに設けられました。主な適用要件は次の3点です(法人は対象外)。

  • 個人事業者であること
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前。令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)の課税売上高が1,000万円以下であること
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること

2割特例と同じく、売上に係る消費税額が分かれば計算でき、仕入れ側のインボイスを保存していなくても適用できるのが利点です。事前の届出も要りません。

免税事業者への支払いは「80%控除」から70%へ――2026年10月1日の切替

取引先や外注先が免税事業者である場合に関係するのが、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れについて、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置です。この割合が、2026年(令和8年)10月1日以後に行う課税仕入れから80%→70%に引き下げられます。

当初は2026年10月に80%から50%へ一段階で下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で適用期限が2年延長され、あわせて割合が細かく刻まれました。国税庁はこれを「7・5・3割控除」と呼んでいます。「2026年10月から50%になる」という以前の説明は、現在は誤りです。

免税事業者等からの課税仕入れについて控除できる割合が80%、70%、50%、30%、0%へ段階的に縮小することを示す棒グラフ
令和8年度税制改正により、2026年10月からは70%控除となり、その後50%・30%と段階的に縮小して2031年10月以後は控除できなくなります。
課税仕入れを行った時期控除できる割合期間
2023年10月1日〜2026年9月30日仕入税額相当額の80%現行(2026年9月末で終了)
2026年10月1日〜2028年9月30日仕入税額相当額の70%2年間
2028年10月1日〜2030年9月30日仕入税額相当額の50%2年間
2030年10月1日〜2031年9月30日仕入税額相当額の30%1年間
2031年10月1日以後控除不可経過措置の終了

あわせて、同一の相手先(適格請求書発行事業者以外の者)からの課税仕入れの合計額が、その年で税込1億円を超える場合、その超えた部分には7・5・3割控除を適用できないという上限も設けられました(改正前は10億円。2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用)。

また、80%と70%の分かれ目は「課税仕入れを行った日」で判定します。請求書の日付でも支払日でもなく、商品の仕入れなら引渡しを受けた日、役務の提供なら提供を受けた(完了した)日が基準です。9月末をまたぐ取引は、納品書や検収書で「いつ引渡し・提供があったか」を示せるようにしておきましょう。取引先が免税事業者のままである場合は、値決めや請求のやりとりにも影響しますので、早めに確認しておくと安心です(出典:国税庁「令和8年度税制改正特集」)。

2割特例・3割特例の適用が終わった後は、簡易課税と本則課税のどちらで申告するかをあらかじめ検討しておく必要があります。簡易課税は原則として適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに届出が必要ですが、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税を選びたい場合に限り、その課税期間の申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すればよいという円滑な移行措置が設けられています。個人事業者が令和10年分まで3割特例を使った場合、令和11年分から簡易課税を選ぶ届出は令和12年4月1日までで間に合う、という形です。簡易課税は選択したら原則2年間の継続適用が必要なので、みなし仕入率(建設業などの第3種は70%、サービス業の第5種は50%など)と実際の仕入れの状況を見比べて判断してください。

何年分(いつから)の調査が行われるか?

税務調査では、まず直近3年分を確認するのが一般的です。この3年の確認で申告内容に大きな誤りが見つかると5年に、さらに金額が大きい申告漏れや、偽りその他不正の行為(いわゆる脱税)が疑われる場合には最長7年まで遡って調査が行われます。

国税通則法では、更正・決定などができる期間(除斥期間)は原則5年、偽りその他不正の行為があった場合は7年と定められています。7年遡及は悪質なケースに限られ、通常の申告誤りで7年に及ぶことは多くありません。調査官も追徴税額という「成果」を意識して調査しているため、意味なく調査範囲を広げることはないのが実情です。

自営業・個人事業主・フリーランスの税務調査の実態

個人宅(自宅)まで調査されるのか

自宅兼事務所で仕事をしているケースなどさまざまですが、税務署が「必要だ」と判断する重要な嫌疑がない限り、プライベートスペースである個人宅の生活部分にまで立ち入ることは通常ありません。ただし、事務所として100%を経費計上している場所で生活の実態がある場合は、税務上は業務スペースとみなされるため、その部分が確認対象となる可能性は高くなります。

想定される追徴課税とペナルティ

調査の結果、申告内容に問題がなければ「是認」となりますが、これは比較的少なく、多くの場合は何らかの追徴課税が発生します。国税庁が公表した令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の「所得税及び消費税調査等の状況」によると、所得税の実地調査(特別・一般)における1件当たりの申告漏れ所得金額は約1,486万円、1件当たりの追徴税額は約299万円でした(医師など高額所得者を含む全業種の平均値です)。

同じ資料では、実地調査と簡易な接触を合わせた「調査等」の件数が73万6千件(前事務年度60万5千件)、追徴税額の総額は1,431億円で過去最高と報告されています。国税庁は調査対象の選定にAIを活用していることも明記しており、「小規模だから見られない」という前提は成り立ちにくくなっています。

とくに重いのが無申告です。同資料では、所得税の無申告者に対する実地調査の1件当たりの申告漏れ所得金額は2,992万円と、実地調査全体(1,486万円)の約2倍にのぼりました。消費税無申告者に対する実地調査の1件当たり追徴税額296万円も過去最高です(出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」)。

令和6事務年度の所得税実地調査における1件当たり申告漏れ所得金額が、全体1,486万円に対し無申告者は2,992万円であることを示す棒グラフ
無申告者に対する調査は、1件当たりの申告漏れ所得金額が実地調査全体の約2倍にのぼります。

追徴課税では、本来納めるべき税額(本税)に加えて、次のようなペナルティが上乗せされる点に注意が必要です。

  • 過少申告加算税:申告額が少なかった場合。原則10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)。
  • 無申告加算税:期限内に申告しなかった場合。原則15%(50万円超の部分は20%、300万円超の部分は30%。令和6年1月以後)。
  • 重加算税:仮装・隠ぺいがあった場合。過少申告なら35%、無申告なら40%と重くなります。
  • 延滞税:納付が遅れた期間に対してかかる利息的な税金。令和8年(2026年)は、納期限の翌日から2か月以内は年2.8%、2か月経過後は年9.1%です(割合は年ごとに見直されます。出典:国税庁 タックスアンサー No.9205)。

加算税・延滞税の早見表(令和8年時点)

種類割合押さえておきたい点
過少申告加算税10%(一定額を超える部分は15%)調査の事前通知前に自主的に修正申告すれば課されない
無申告加算税15%(50万円超20%/300万円超30%)令和6年1月以後の期限到来分。過去5年内に無申告加算税等があると10%加重
重加算税過少申告35%/無申告40%仮装・隠ぺいがあった場合に加算税に代えて課される
帳簿不備による加重+10%または+5%令和5年分以降。帳簿の不提示や売上の記載不足が対象
延滞税年2.8%(2か月経過後は年9.1%)令和8年中の割合。割合は毎年見直される

これらは遡及した年数の分だけ積み上がるため、本税だけでなく加算税・延滞税を含めた負担は想像以上に大きくなりがちです。だからこそ、日頃から正確な申告と帳簿保存を心がけることが最大の備えになります。

個人口座・通帳はどこまで調べられるか

特に事業用と個人用の入出金を1つの口座で混在させている場合は、その口座の提示を求められると考えてよいでしょう。反面、事業用と個人用を明確に分けている場合は、原則として個人用口座まで提示する必要はありません。日頃から口座を分けておくことが、調査対応をスムーズにするうえでも有効です。

メール・クラウドで受け取った請求書のデータ保存

フリーランスや個人事業主は、請求書・領収書をメールやクラウドサービスでやりとりすることが多いはずです。こうした電子取引のデータは、令和6年1月1日以後にやりとりしたものから、原則として電子データのまま保存することが必要になっています(従来の「紙に出力して保存すればよい」という宥恕措置は令和5年12月31日で終了しました)。

保存にあたっては、改ざん防止の措置をとること、「日付・金額・取引先」で検索できるようにしておくことなどのルールがあります。もっとも、要件どおりに保存できないことについて所轄税務署長が「相当の理由」があると認め、かつ調査の際にデータのダウンロードの求めと、出力した書面の提示・提出の求めの両方に応じられる場合には、猶予措置が適用されます(事前の届出は不要)。

いずれにしても、調査の場では「そのデータをすぐ出せるか」が問われます。取引先ごと・月ごとにフォルダを分けておく、ファイル名に日付と金額と取引先を入れておくといった素朴な工夫でも十分に役立ちます(出典:国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)。

顧問税理士がいないと税務調査に入られやすい?

結論からいえば、顧問税理士がいないことは、税務調査に入られやすくなる一因になり得ます。税理士が関与している申告は、書面添付制度(税理士が申告書の内容を保証する書面を添付する制度)が使われていれば、調査の前に税理士への意見聴取が行われることもあり、税務署から見た信頼性が高まるためです。

事業規模が大きいなど影響範囲が大きい場合は、税務署から調査の連絡があった後からでも遅くありません。立会いや事前準備を税理士に依頼することを検討するとよいでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 税務調査の連絡は突然来るのですか?

A. 無予告調査など一部の例外を除き、通常は事前に電話などで連絡があり、日程を調整したうえで実施されます。連絡が来ても慌てる必要はありません。まずは調査対象の税目・年分を確認し、必要書類の準備を進めましょう。顧問税理士がいる場合は速やかに連絡を取ることをおすすめします。

Q. どんな書類を準備しておけばよいですか?

A. 帳簿(総勘定元帳・仕訳帳など)、請求書・領収書・レシート、通帳、契約書、確定申告書の控えなどが基本です。帳簿書類の保存期間は原則7年(一定の書類は5年)とされているため、日頃から整理・保存しておくことが備えになります(出典:国税庁 タックスアンサー No.5930)。

Q. 申告に間違いが見つかったらどうなりますか?

A. 誤りが見つかった場合は修正申告や更正により本税を納め、状況に応じて上記の加算税・延滞税が加わります。ただし、調査の通知を受ける前に自主的に誤りを修正すれば、加算税が軽減または不適用となる場合があります。気づいた時点で早めに対応することが大切です。

Q. 売上が数百万円規模でも調査の対象になりますか?

A. 売上の大小だけで対象が決まるわけではありません。国税庁は調査対象の選定にAIを活用しており、取引先から提出された資料情報と申告内容の食い違いなども端緒になります。規模よりも「申告内容と実態が合っているか」が見られると考えておくのが実情に近いでしょう。

Q. すでに廃業していますが、過去の年分について調査はありますか?

A. 廃業していても、更正・決定ができる期間内であれば過去の年分について調査が行われることはあります。帳簿書類の保存義務も廃業によってすぐに消えるわけではないため、保存期間が満了するまでは帳簿・請求書・通帳などを手元に残しておくようにしてください。

Q. 記帳を会計ソフトに任せていれば安心ですか?

A. 会計ソフトは記帳の正確性を高めてくれますが、銀行口座やカードの自動連携から漏れた現金売上・手渡しの報酬などは自分で入力しないと反映されません。調査で最も指摘されやすいのはこうした「記録に残りにくい売上」です。年に一度は入金明細と売上台帳を突き合わせて、抜けがないか確認しておきましょう。

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建設業・土木工事業の税務調査|指摘されやすい論点と外注費の備え

建設現場の事務所で工事台帳と書類を整理する場面のイメージ

建設業・土木工事業は、税務署が古くから重点的に見てきた業種のひとつです。工期が長く、下請け・孫請けが重なり、現金でのやり取りも残る——この業界特有の商習慣が、そのまま「指摘されやすいポイント」になっているためです。

ここでは、税務調査の現場を知る立場から、建設業・土木工事業に調査が入りやすい理由と、実際に指摘されやすい論点、そして日頃の備えを整理します。内容は2026年9月時点の制度にもとづくものです。2026年10月1日には、免税事業者の一人親方などへの支払いに関する仕入税額控除の割合が切り替わりますので、この点も後半で詳しく取り上げます。

建設業・土木工事業に税務調査が入る頻度・確率は?

建設業・土木工事業は、飲食業などと並んで税務調査が入りやすい業種といわれます。国税庁が毎年公表している「法人税等の調査事績の概要」では、「不正発見割合の高い業種」として上位10業種が示されますが、一般土木建築工事・職別土木建築工事・土木工事といった建設・土木関連の業種が、繰り返し上位10業種に入ってきました(例えば令和2事務年度は、この3業種がいずれも上位10業種にランクインしています)。近年は現金取引の多い飲食・接客系の業種が上位を占める年もあるため、最新の順位は国税庁の公表資料でご確認ください(出典:国税庁 法人税等の調査事績の概要)。

1件あたりの売上が高額になりやすく、工事期間が長期にわたるといった業界特有の事情から、1回の調査で発見される不正・申告漏れの金額も大きくなる傾向があります。実際、国税庁の令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)法人税等の調査事績の概要(令和7年12月公表)では、法人税・消費税の実地調査は約5万4千件(前事務年度比▲7.4%)と件数が減った一方で、追徴税額の総額は3,407億円と直近10年で最高値、調査1件当たりの追徴税額も約634万円と高い水準でした。

件数を絞りながら追徴額が増えている背景として、同資料はAIを活用した予測モデルにより調査必要度の高い法人を抽出し、想定される不正パターンとあわせて調査先を選定していることを明記しています。「規模が小さいから見られない」という前提は成り立ちにくくなっていると考えておくのが実情に近いでしょう(出典:国税庁 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要)。

こうした背景から、建設業・土木業では税務調査の頻度も比較的高く、おおむね5年から10年に一度の周期で調査が入るケースが多いようです。また、元請け・下請けや取引先に調査が入ったことをきっかけに、芋づる式に調査が広がることがあるのもこの業界の特徴です。一人親方や家族経営が多く、いわゆる「どんぶり勘定」になりがちなことも、指摘を受けやすい一因といえます。

なぜ建設業・土木工事業は税務調査が多いのか?

建設業・土木工事業は、業界全体として売上計上や経費処理で誤り・不正が生じやすく、税務署が重点的に見ている業種です。特に指摘されやすいポイントとして、次の3点が挙げられます。

  1. 期ズレによる売上計上漏れ
  2. 受注謝礼金(キックバック)の支払いと交際費の処理
  3. 人件費の現金支給や架空人件費

また、設立から5年ほど経過して売上が伸びている会社も調査対象になりやすい傾向があります。売上を伸ばすことと同時に、正確な会計処理ができているかを日頃から確認しておくことが重要です。

建設業の売上の「期ズレ」は税務調査でどうなる?

建設業・土木業は、売上の繰り延べ(期ズレ)の指摘が非常に多い業界といわれます。意図的に売上を翌期へ先延ばしするケースだけでなく、発注元の都合などで成果物(建物や施工)の引渡しから工事代金の請求・支払いまでに期間が空きやすく、売上計上のタイミングが煩雑になりがちなことも理由です。

特に、期末直前に完了した工事で請求が翌期になった場合、請求時期を基準に翌期の売上へ計上してしまいがちですが、工事の完了・引渡しが当期中であれば当期に計上する必要があります。意図的でなくても加算税の対象となることがあるため、「引渡しが完了した時点で計上する」という会計ルールにのっとって処理することが望ましいでしょう。

実務では、期末前後1〜2か月の工事について「完了報告書・引渡書・検収書の日付」と「売上計上日」が一致しているかを自分でチェックしておくだけでも、指摘のリスクは大きく下がります。調査官も、まさにこの突合から確認を始めます。

建設業・土木工事業の売上げズレ、繰越

受注謝礼金(キックバック)の税務上の扱い

建設業・土木工事業は、他業種にはない独特の諸経費がかかる業種です。工事受注にあたって発注元へ支払う謝礼金、工事遂行の仲立ちを依頼するための地元対策費など、費目は多岐にわたります。

これらを「交際費」として処理すること自体が税法上ただちに問題になるケースは多くありません。しかし、交際費は損金算入に一定の上限があるため、この上限を回避しようとして「業務委託費」「支払手数料」などの科目で処理すると、調査の際に「科目仮装」や「使途秘匿金」として指摘され、重加算税が課されるケースが多く見られます。

交際費の取扱いは令和6年度税制改正で見直されています。中小法人(期末資本金1億円以下等)は、年800万円までの全額損金算入と接待飲食費の50%の損金算入のいずれかを選択でき、この特例の適用期限は令和9年3月31日までに開始する事業年度まで延長されました。あわせて、交際費等の範囲から除かれる飲食費の金額基準が、令和6年4月1日以後に支出するものから1人当たり10,000円以下(改正前は5,000円以下)に引き上げられています。

ここで実務上つまずきやすいのが、1人当たり10,000円を超えた場合、超えた部分だけでなくその費用の全額が交際費等に該当するという点です。また、この基準を使うには参加者の氏名・人数などを記載した書類の保存が必要になります。「誰と、何人で、いくら」を領収書に書き添えておくだけでも、調査時の説明が格段に楽になります(出典:国税庁 タックスアンサー No.5265、国税庁「令和6年度 法人税関係法令の改正の概要」、中小企業庁「交際費課税の特例」)。

科目を付け替えて上限を逃れようとする処理は、税務調査官にとって指摘のしやすいポイントであり、業界内で語られるような「ばれない方法」ではありません。安易な処理は避けるべきです。

現金支給に注意!架空人件費は認められない

建設業・土木業は人の出入りが激しく、日払い雇用や現金支給も珍しくない業界です。特に一人親方の場合、現金支給で作業員を雇うケースが少なくありません。振込であれば問題ありませんが、現金支給かつ支払いを証明できる領収書等がない場合、税務調査が入った際に外注費として支払った事実を立証できず、不利な判断につながります。

日払い雇用であっても、振込で対応するか領収書をきちんと保管しておくなど、備えを怠らないことが重要です。

また、実際には支払っていない賃金を過去の従業員などに支払ったように見せかける「架空人件費」や、実務に従事している従業員を外注先扱いにして「給与」ではなく「外注費」として処理し、源泉所得税や消費税の負担を減らそうとするスキームも、建設業・土木業ではいまだに見受けられます。こうした点は税務調査で必ずチェックされ、悪質と判断されれば重加算税の対象となり、経営に大きな打撃を与えかねません。思い当たる点がある場合は、税務調査に強い税理士などに相談し、修正申告などの対策を早めに講じることでダメージを最小限に抑えられる場合があります。

過少申告加算税10%、無申告加算税15%、重加算税は過少申告分35%・無申告分40%であることを示す棒グラフ
いずれも原則の割合です。過少申告加算税は一定額を超える部分が15%、無申告加算税は50万円超の部分が20%・300万円超の部分が30%になります。

「外注費か給与か」は建設業でいちばん争いになる論点

外注費として処理していたものが給与と認定されると、影響は二重に及びます。源泉所得税の徴収漏れが生じるうえ、給与には消費税の仕入税額控除が使えないため、消費税の追徴も同時に発生するからです。建設業で追徴額が膨らみやすいのは、この二重の効果によるところが大きいといえます。

区分は契約書の名称ではなく、実態で判断されます。調査で見られるのは、おおむね次のような点です。

  • その業務を他人に代替させられるか(本人でなければならないなら雇用に近い)
  • 作業時間や作業場所の指定・拘束があるか
  • 報酬が時間を基礎に計算されているか、出来高・請負単価で決まっているか
  • 材料・工具・重機を誰が負担しているか
  • 天候などで工事ができなかったときに報酬が支払われるか

「本人以外では対応できず、当社の指示どおりの時間に現場へ入り、道具も当社が用意し、日当で支払っている」という形であれば、契約書に「業務委託」と書いてあっても給与と判断される可能性が高くなります。迷う相手ほど、契約書・請求書・作業日報・支払記録をそろえて実態を説明できるようにしておくことが備えになります。

【2026年10月1日】免税事業者の一人親方への外注費は「80%控除」から「70%控除」へ

インボイス制度では、適格請求書発行事業者でない相手(免税事業者の一人親方・協力会社など)への支払いについても、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。この控除割合が、2026年(令和8年)10月1日以後に行う課税仕入れから、80%から70%へ引き下げられます。

もともとは2026年10月に80%から50%へ一段階で下がる予定でしたが、令和8年度税制改正で経過措置の適用期限が2年延長され、あわせて割合が細かく刻まれました。国税庁はこの新しい仕組みを「7・5・3割控除」と呼んでいます。「2026年10月から50%になる」という以前の説明は、現在は誤りです。

課税仕入れを行った時期控除できる割合建設業での目安
2023年10月1日〜2026年9月30日仕入税額相当額の80%現行。2026年9月末で終了
2026年10月1日〜2028年9月30日仕入税額相当額の70%今回の切替。2年間
2028年10月1日〜2030年9月30日仕入税額相当額の50%2年間
2030年10月1日〜2031年9月30日仕入税額相当額の30%1年間
2031年10月1日以後控除不可経過措置の終了

下請けに免税事業者が多い建設業では、この10ポイントの差がそのまま消費税の納税額に効いてきます。免税事業者への年間の外注費が3,000万円(税込)の会社であれば、控除できない金額はおよそ54万円から81万円へと増える計算です(税率10%・積上げではなく概算の目安)。金額の規模を早めにつかんでおくと、予算の組み方も変わってきます。

年1億円を超える支払いには経過措置が使えなくなります(改正前は10億円)

もうひとつ、建設業では見落とせない改正があります。同一の相手先(適格請求書発行事業者以外の者)からの課税仕入れの合計額が、その年または事業年度で税込1億円を超える場合、その超えた部分については7・5・3割控除を適用できません(改正前の上限は10億円)。2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。

上限が10分の1になるため、特定の協力会社に工事を集中して発注している元請けでは、これまで問題にならなかった水準でも上限に触れる可能性があります。免税事業者である外注先ごとに、年間(事業年度)の支払累計を集計できる状態にしておくことが実務上の備えになります。

80%と70%の分かれ目は「課税仕入れを行った日」――工事は引渡しが基準

切替をまたぐ工事で迷いやすいのが、どちらの割合を使うかという判定です。控除割合は請求書の日付でも支払日でもなく、「課税仕入れを行った日」で判定します。工事の請負であれば役務の提供が完了した日(引渡日)が基本です。

したがって、9月に着工して10月に引き渡した工事は、その全体が70%控除の対象になります。出来高で検収している場合は、その検収の区切りごとに判定することになります。9月末をまたぐ工事は、請求書ではなく工事台帳・検収書・引渡書といった「いつ引き渡した(検収した)か」を示す資料で説明できるようにしておきましょう。切替直後の調査で最も説明を求められやすいのは、まさにこの境目の取引です。

会計システムの設定も忘れがちです。「70%控除」の税区分が選べる状態になっているか、帳簿の摘要に付している「80%控除対象」といった表示を改める必要がないかを、9月中に確認しておくことをおすすめします。

なお、登録がないことを理由に一方的に単価を引き下げたり取引条件を不利に変更したりすると、優越的地位の濫用として法令上の問題になる場合があります。単価の見直しが必要な場合も、必ず相手方と協議のうえで進めてください。取扱いの詳細は国税庁のインボイス制度特設サイトでご確認ください。

調査当日までにそろえておきたい書類

建設業・土木工事業の調査では、次のような書類が「工事ごとに突合できる状態か」を見られます。事前通知を受けたら、まずはこの順で手元に集めておくと落ち着いて対応できます。

書類調査で見られるポイント備えとしてやっておくこと
工事台帳・原価管理表工事ごとの売上と原価が対応しているか未成工事支出金の残高と工事の進捗を一致させておく
注文書・請負契約書契約金額・工期・変更契約の有無追加工事や変更分の書面を工事ごとに綴じておく
完了報告書・引渡書・検収書引渡日と売上計上日が一致しているか期末前後の工事はとくに日付を自主点検する
外注先への請求書・支払記録実在する外注か、給与に当たらないか現金払いは領収書を必ず受け取り、振込に切り替える
作業日報・出面帳人工の実態と人件費・外注費の整合誰がどの現場に何日入ったかを残す
領収書・交際費の明細科目の付け替えがないか、参加者が記録されているか飲食費は「相手先・人数・目的」を書き添える
外注先の登録状況の一覧免税事業者への支払いに正しい控除割合を使っているか相手先ごとに登録番号の有無と年間支払額をまとめておく

特別なものを新しく作る必要はありません。いま使っている書類が「工事ごとにひとつながりで説明できるか」——調査で問われるのは結局そこに尽きます。

よくある質問(FAQ)

Q. 期ズレを指摘されると、必ず重加算税になりますか?

A. いいえ。単純な計上時期の誤り(意図的でない期ズレ)であれば、通常は過少申告加算税(原則10%、一定額を超える部分は15%)の対象にとどまります。仮装・隠ぺいなど悪質と判断された場合に限り、重加算税(35%)が課されます。日頃から引渡基準で正しく計上していれば、過度に恐れる必要はありません。

Q. 外注費と給与は、どう区別されますか?

A. 契約書の有無だけでなく、指揮監督の実態、時間的・場所的な拘束、報酬が時間給的か出来高的か、材料や用具を誰が負担しているかなど、実態を総合的に見て判断されます。実態が「雇用」に近ければ外注費として認められず、給与として源泉徴収の対象になります。区分に迷う場合は税理士に確認しましょう。

Q. 9月に着工して10月に引き渡した工事は、80%と70%のどちらですか?

A. 70%です。控除割合は「課税仕入れを行った日」で判定し、工事の請負なら役務の提供が完了した日(引渡日)が基準になります。着工日・契約日・請求書の日付・支払日ではありません。出来高検収の場合は検収の区切りごとに判定するため、検収書の日付を残しておいてください。

Q. 一人親方でも税務調査は来ますか?

A. 来る可能性は十分にあります。規模の大小にかかわらず、売上や経費の処理に疑義があれば調査対象になり得ます。帳簿・請求書・領収書・通帳などを整理し、現金でのやり取りも記録を残しておくことが、いちばんの備えになります。

Q. 元請けに調査が入ると、下請けにも来るのですか?

A. 必ず来るわけではありませんが、元請けの調査で外注費の内容を確認する過程で、支払先へ照会が行われること(反面調査)はあります。元請け側の帳簿と自社の売上計上が食い違っていると疑義を持たれるため、請求書の控えと入金額・入金日を一致させておくことが有効です。

Q. 未成工事支出金の残高が大きいと指摘されますか?

A. 残高が大きいこと自体が問題なのではなく、完成・引渡しが済んだ工事の原価が未成工事支出金に残ったままになっていないかが見られます。決算期ごとに、残高の内訳が「まだ引き渡していない工事」で説明できるかを確認しておきましょう。

Q. 現場の駐車料金や差し入れの飲み物など、少額の現金支出はどう扱えばよいですか?

A. 少額でも事業のための支出であれば経費になりますが、領収書が取れないものは出金伝票に日付・相手先・金額・用途を残すことが必要です。まとめて「雑費」に計上した現金支出が多いと、内容の説明を求められやすくなります。

※本記事の制度内容は2026年9月時点のものです。税制は改正されることがありますので、最新の内容は国税庁の公式サイトでご確認ください。

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保険代理店の税務調査|狙われる論点・インボイス対応と加算税

保険代理店の事務所で書類を整理するイメージ
今回は、金融庁の免許が必要な保険会社(通称「メーカー」)ではなく、主に保険の販売を担う保険代理業(保険代理店)の税務調査の傾向と対策について、現場の視点から解説します。 保険代理業の仕事は、自社が代理店契約を結んでいる保険会社の商品を、加入者を開拓して販売し、契約後の各種サービスを提供することで販売手数料を受け取るものです。売上が手数料収入だけと聞くと会計処理は単純に見えますが、実際には取り扱う商品が多種にわたり、保険会社ごとのキャンペーンや精算ルールも複雑で、税務上の論点は意外と多く生じます。 税務調査では、大きく次の5つが論点になりやすい点です。落ち着いて準備しておけば、いたずらに恐れる必要はありません。順に見ていきましょう。

収益の計上時期と計上額

手数料収入の適正な計上時期と金額が調査されます。 収益の計上時期は、保険代理店が契約者から保険契約書を受領し、これを保険会社へ取り次ぐことで、はじめて保険会社・被保険者・契約者間の契約が成立することが起点になります。つまり、 保険契約の開始日(=契約の成立日)=収益の計上時期 という関係が基本です。 手数料収入の大部分は、集金した保険料から毎月精算されて入金されるため、収入の期間帰属は他の業種に比べて明確です。手数料収入のもとになる保険料の受取日は、保険会社の保険金支払義務の発生日と結びつきます。 調査官は、保険会社が発行する手数料明細と預金通帳の入金を突き合わせ、売上計上の網羅性(計上漏れがないか)と期間帰属(正しい事業年度に計上しているか)の妥当性を確認します。決算月をまたぐ契約の計上時期は特に見られやすいポイントです。 なお、通常の販売手数料だけでなく、保険会社から支払われる募集品質評価に基づく加算金・キャンペーン報奨金・事務手数料など、名称の異なる入金が期末近くに発生することがあります。これらも本体の手数料と同じ考え方で期間帰属を判断するため、精算書の日付と入金日の両方を追えるようにしておくと説明がスムーズです。

架空人件費

保険代理店は小規模な事業者が多く、手数料収入に占める人件費の割合が高くなりがちです。そのため税務調査では、組織図・履歴書・給与台帳・営業日報・タイムカードなどにより実際に人員が存在するかを確認し、実態のない「架空人件費」が計上されていないかをチェックします。 家族や親族への給与(専従者給与を含む)については、勤務実態と支給額の妥当性が問われます。勤務の事実がわかる資料を日頃から整えておくことが、余計な疑いを避ける近道です。 また、募集人として登録している個人に対する支払いが、雇用(給与)なのか、業務委託(外注費)なのかという区分も確認されます。指揮命令の有無、時間や場所の拘束、報酬の決まり方、備品や経費の負担者などの実態から判断されるため、契約書と実態が食い違わないようにしておきましょう。外注費とした支払いが給与と認定されると、源泉所得税の徴収漏れと消費税の仕入税額控除の否認が同時に生じ、負担が大きくなります。

紹介料・リベート

保険代理業でもっとも注意しなければならないのが、紹介料・リベートの扱いです。 保険代理業では、保険加入の紹介者に対して現金や金品でお礼をすることがあります。現金での支払いは、支払先への厳しい反面調査が実施され、実態が確認できなければ架空の交際費・外注費と認定される可能性があります。 個人に対する紹介料は原則として交際費に該当します。交際費等は、原則として損金(税務上の経費)に算入できませんが、資本金1億円以下の中小法人には特例があり、①年800万円までの交際費等を全額損金算入する方法と、②接待飲食費の50%を損金算入する方法の、いずれか有利なほうを選択できます(租税特別措置法61条の4/中小企業庁「交際費課税の特例」)。この特例は、令和9年3月31日までに開始する事業年度まで適用できます。①を選ぶ場合、紹介料が定額控除限度額の800万円を超えると、超えた部分は損金にできません。 あわせて押さえておきたいのが、1人あたり10,000円以下の飲食費は、そもそも交際費等から除外されるという取り扱いです(令和6年4月1日以後に支出する飲食等の費用。それ以前は5,000円以下が基準でした)。ただしこの取り扱いを受けるには、飲食等の年月日・参加した相手方の氏名や名称と関係・参加人数・金額と店舗名や所在地などを記載した書類の保存が必要です。紹介者との会食が多い代理店では、この記録の有無がそのまま調査での説明力になります。 ただし、相手が個人であっても、次の3つの条件を満たせば「情報提供料(役務の対価)」として損金にできます。
  1. あらかじめ締結された契約に基づいて支払われたものであること
  2. 紹介料を受け取るための条件が契約で具体的に明らかにされていること
  3. 紹介料の額が、提供された役務の対価として相当な金額であること
この場合、税務調査では紹介者との契約書の有無と内容が重要なポイントになります。トラブルを避けるためにも、あらかじめ税理士に契約書をチェックしてもらうことをおすすめします。 なお、保険料は保険会社の料率が定まっているため、契約者に対する値引きは禁止されています。しかし実際には、値引きや大口契約に伴うリベートの支払いを求められる場面もあります。代理店が契約者に発行する保険会社名義の領収証には、値引きをしていても正規の保険料が記載されるため、相手方が申告をしなければ「裏リベート」となりやすく、この点が重点的に調査されます。 支払先を明かせない支出は、使途秘匿金として、通常の法人税額に支出額の40%が加算課税されることがあります(措置法62条)。この40%の加算は赤字(欠損)の会社でも課される点に注意が必要です。使途を明確にできない不透明な支出は、そもそも行わないのが最善です。

地代家賃

保険代理業で発生する経費として大きいのが支払家賃です。比較的小規模な代理店では、自宅を店舗兼用にしているケースがあります。その場合には、事務所として使用している面積の割合から、家賃の按分額が適正かどうかが確認されます。 一般的には、自宅の見取図をもとに、事業で専用している面積の割合を求めた資料を準備しておくと、税務調査はスムーズに進みます。水道光熱費や通信費など、家事関連費を按分している経費も同じ考え方で、按分の根拠を説明できるようにしておきましょう。按分の割合そのものより、「なぜその割合なのか」を説明できる資料が残っているかが見られています。

消費税の課否区分とインボイスの経過措置

保険代理業は、消費税の取り扱いを間違えやすい業種です。保険料そのものは消費税が非課税である一方、保険代理店が受け取る代理店手数料は、役務の提供の対価として消費税の課税対象(課税売上)になります(国税庁 質疑応答事例「生命保険料の引去手数料」)。「保険は非課税だから」という思い込みで手数料収入まで非課税として処理すると、課税売上の計上漏れとして指摘されます。集金手数料・事務手数料・報奨金なども、実態が役務の対価であれば課税取引です。

2割特例は令和8年(2026年)9月30日を含む課税期間で終了

インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった小規模な代理店が利用してきた「2割特例」(納付税額を売上税額の2割にできる経過措置)は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間が対象です。個人事業者は令和8年分(2026年分)の確定申告まで、法人は令和8年9月30日を含む事業年度までとなります。 令和8年度税制改正では、その後の受け皿として「3割特例」が創設されました。個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の申告で納付税額を売上税額の3割にできる制度で、基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス発行事業者の登録を受けていることなどが要件です。法人は3割特例の対象外のため、法人の代理店は本則課税と簡易課税のどちらで申告するかを早めに検討しておく必要があります。なお、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税制度を選ぶ場合は、その課税期間の申告期限までに届出書を提出すれば間に合う移行措置が設けられています。 簡易課税を選ぶ場合の事業区分は、日本標準産業分類の大分類(金融業、保険業)から判断され、保険代理業は一般に第5種事業(みなし仕入率50%)に区分されます。個別の判定は取引の実態によって変わることがあるため、所轄の税務署や顧問税理士に確認してください。

免税事業者からの仕入れは「8割控除」から「7・5・3割控除」へ

インボイス発行事業者以外(免税事業者など)からの課税仕入れについては、一定割合を仕入税額として控除できる経過措置があります。令和8年度税制改正で適用期限が2年延長されたうえ、控除できる割合が段階的に縮小されることになりました。
免税事業者等からの課税仕入れについて控除できる割合が80%から70%・50%・30%と段階的に縮小し、令和13年10月以降は控除不可となることを示す棒グラフ
令和8年度税制改正で適用期限が2年延長され、控除割合は段階的に縮小されます。
  • 令和5年10月1日〜令和8年9月30日:80%
  • 令和8年10月1日〜令和10年9月30日:70%
  • 令和10年10月1日〜令和12年9月30日:50%
  • 令和12年10月1日〜令和13年9月30日:30%
  • 令和13年10月1日以降:控除不可
また、同一の相手先からの経過措置の対象となる課税仕入れの合計額(税込)が、その年または事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合、超えた部分には経過措置を適用できません(令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用)。 代理店が外部の募集人や紹介者へ支払う外注費・業務委託料に免税事業者が含まれている場合、令和8年10月をまたぐ取引で控除できる割合が変わります。相手方が登録事業者かどうかの区分と、経理処理の切り替えが正しく行われているかは、今後の調査で確認されやすい部分です。取引先ごとの登録状況を一覧にしておくと、説明の手間が大きく減ります。

税務調査に備えて用意しておきたい書類

保険代理店の税務調査では、次のような資料が確認の中心になります。日頃から整理しておくと、調査当日の負担が大きく軽くなります。
  • 売上関係:保険会社ごとの手数料明細、精算書、預金通帳(入金の裏付け)
  • 人件費関係:給与台帳、源泉徴収簿、組織図、営業日報、タイムカード、雇用契約書
  • 外注費・紹介料関係:紹介者との契約書、請求書・領収書、支払記録、業務委託契約書
  • 経費関係:家賃の按分資料(自宅兼事務所の見取図)、旅費・交際費の精算書と領収書、飲食費の参加者記録
  • 消費税関係:取引先のインボイス登録番号の一覧、受領した適格請求書、課税・非課税の区分がわかる資料
  • 帳簿・申告関係:総勘定元帳、仕訳帳、確定申告書、決算書

指摘された場合のペナルティ(加算税・延滞税)

申告内容に誤りを指摘され、修正申告や更正になると、不足していた本税に加えて加算税・延滞税が課されることがあります。単なる計上ミスと、仮装・隠蔽をともなう場合とでは負担が大きく変わります。また、同じ誤りでも「いつ気づいて、いつ申告したか」で割合が変わる点が重要です。おもな加算税の割合は次のとおりです(国税通則法/令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税)。
加算税の種類課される場面割合の目安
過少申告加算税期限内申告後、修正申告や更正で税額が増えたとき調査の事前通知前の自主的な修正申告=かからない/通知後・更正を予知する前=5%(当初の申告納税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)/調査を受けた後=10%(同じく超える部分は15%)
無申告加算税期限までに申告しなかったとき事前通知前の自主的な期限後申告=5%/通知後・決定を予知する前=10%(50万円超の部分15%、300万円超の部分25%)/調査を受けた後=15%(50万円超の部分20%、300万円超の部分30%)
重加算税仮装・隠蔽があったと判断されたとき過少申告に代えて35%/無申告に代えて40%
このほか、次の加重にも注意が必要です。
  • 繰り返しへの加重:過去に無申告加算税や重加算税を課されたことがある一定の場合は、10%が加算されます。
  • 帳簿の不備への加重:調査で帳簿の提示・提出を求められたのに応じなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来の2分の1未満だった場合は10%、3分の2未満だった場合は5%が加算されます。
  • 延滞税:納期限の翌日から2か月を経過する日までは「年7.3%」と「延滞税特例基準割合+1%」のいずれか低い割合、それ以降は「年14.6%」と「延滞税特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合です。割合は年ごとに変わるため、最新の数値は国税庁サイトでご確認ください。
表からわかるとおり、誤りに自分で気づいて事前通知の前に修正申告をすれば、過少申告加算税はかかりません。決算・申告のあとで計上漏れに気づいたときは、放置せず早めに動くことが最も確実な負担軽減策です。

よくある質問(保険代理店の税務調査)

Q. 手数料収入だけのシンプルな事業でも税務調査は来ますか?

売上が手数料収入中心でも、調査の対象になります。むしろ、人件費や紹介料の割合が高い保険代理業では、その妥当性を確認するために調査が行われることがあります。「シンプルだから来ない」と考えず、根拠資料を整えておくことが大切です。

Q. 紹介者へのお礼は、いくらまでなら経費にできますか?

金額そのものに一律の上限があるわけではありません。前述の3条件(契約に基づく/条件が明確/対価として相当)を満たす情報提供料であれば損金にできますが、条件を満たさない個人への紹介料は交際費となり、中小法人の定額控除限度額(年800万円)の枠内で判断されます。契約書の整備が判断の分かれ目です。

Q. 代理店手数料に消費税はかかりますか?

かかります。保険料は非課税ですが、保険会社から受け取る代理店手数料は役務の提供の対価にあたり、課税売上として消費税の申告対象になります。名目が集金手数料・事務手数料・報奨金であっても、実態が役務の対価であれば同じ扱いです。

Q. 2割特例が使えなくなったら、何を選べばよいですか?

個人事業者は、要件を満たせば令和9年分・令和10年分について3割特例を選択できます。法人は対象外のため、本則課税と簡易課税を比べて有利なほうを選ぶことになります。設備投資や仕入れが少ない代理店では簡易課税が有利になりやすい一方、大きな支出を予定している年は本則課税が有利になることもあります。簡易課税は原則として2年間の継続適用が必要なため、届出の前に試算しておきましょう。

Q. 調査で経費を否認されそうなときは、どう対応すればよいですか?

その場で慌てて回答せず、事実にもとづいて落ち着いて説明することが大切です。判断に迷う指摘については、税務調査に詳しい税理士に相談したうえで対応しましょう。あいまいな返答や、事実と異なる説明は、かえって不利になりかねません。  

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