消費税の税務調査の注意点と事例|2026年10月の70%控除に備える

請求書と帳簿を確認しながら消費税の処理を点検する事業者と会計担当者のイメージ
税務調査で消費税について注意すべきポイントと、実際に指摘を受けやすい具体的事例を紹介します。インボイス制度(適格請求書等保存方式)は令和8年度税制改正で経過措置が見直され、2026年(令和8年)10月1日から、免税事業者等からの仕入れに認められる控除割合が80%から70%に切り替わります。切替を目前にひかえた実務の備えまで、国税庁の公表情報にもとづいて整理しました。

消費税に関する注意点

消費税の税務調査は、法人税や所得税の調査と一緒に行われることが多いですが、単独で行われるケースもあります。赤字であっても消費税の納付義務はあるため注意が必要です。消費税は最も身近な税金なので簡単に考えてしまいがちですが、その経理処理は意外と複雑です。なぜなら、すべての取引が課税対象となるわけではなく、非課税・不課税のものが含まれるからです。 例えば、土地の貸付けや住宅家賃は原則非課税ですが、貸付期間が1ヵ月未満の場合は課税となります。また、国内出張の旅費・日当は課税仕入れになりますが、海外出張は課税仕入れになりません。 事業者の納税義務についても確認しておきましょう。前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は、その年の消費税の納税義務が原則として免除されます。ただし、前年の1月1日から6月30日まで(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超える場合は、課税事業者に該当します(給与等支払額で判定することも可能です)。 このように課税・非課税の区分は細かく、税法改正によって取扱いが変わることもあるため、専門的な知識が欠かせません。

インボイス制度導入後の留意点

2023年(令和5年)10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。これにより、原則として「適格請求書(インボイス)」の保存がなければ仕入税額控除を受けられない仕組みに変わっています。適格請求書には、登録番号・適用税率・税率ごとに区分した消費税額などの記載が必要です。 免税事業者など適格請求書発行事業者以外からの仕入れについては、急激な負担増を避けるための経過措置が設けられており、一定割合の仕入税額控除が認められています。この経過措置は令和8年度税制改正で見直され、適用期限が2年延長されるとともに、控除割合が段階的に縮小されることになりました。現在の80%控除が使えるのは、2026年(令和8年)9月30日までに行う課税仕入れまでで、同年10月1日以後は70%控除に縮小されます(当初は2026年10月から50%に下がる予定でしたが、改正で引き下げが緩やかになりました)。控除割合が80%→70%→50%→30%と下がっていくことから、国税庁の資料では「7・5・3割控除」と呼ばれています。
課税仕入れを行った時期控除できる割合備考
2023年10月1日〜2026年9月30日仕入税額相当額の80%現行(2026年9月末で終了)
2026年10月1日〜2028年9月30日仕入税額相当額の70%令和8年度改正で新設
2028年10月1日〜2030年9月30日仕入税額相当額の50%
2030年10月1日〜2031年9月30日仕入税額相当額の30%
2031年10月1日以後控除不可経過措置の終了
なお、2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、同一の相手先(適格請求書発行事業者以外の者)からの課税仕入れの合計額が年または事業年度で1億円(税込)を超える場合、その超えた部分には経過措置を適用できないという上限も設けられます(改正前は10億円)。上限が10分の1になるため、免税事業者である外注先や仕入先への支払いが大きい事業者は、相手先ごとの年間支払額をあらかじめ集計しておくと安全です。

80%と70%の分かれ目は「課税仕入れを行った日」

切替をまたぐ取引で迷いやすいのが、どちらの割合を使うかという判定です。控除割合は請求書の日付でも支払日でもなく、「課税仕入れを行った日」で判定します。商品の仕入れであれば引渡しを受けた日、役務の提供であれば提供を受けた(完了した)日が基本です。 たとえば、9月中に納品を受けて10月に支払った仕入れは80%控除、9月末に発注して10月に納品された仕入れは70%控除、という整理になります。9月末をまたぐ取引は、請求書ではなく納品書・検収書・作業完了報告書など「いつ引渡し・提供があったか」を示す資料で確認できるようにしておきましょう。調査で最も説明を求められやすいのは、まさにこの境目の取引です。 会計システムの設定も見落としがちです。多くの会計ソフトは取引ごとに控除割合の区分を選ぶ仕様になっていますが、「70%控除」の区分が選べる状態になっているか、帳簿の摘要に付している「80%控除対象」といった表示や記号の注記を改める必要がないかを、9月中に確認しておくことをおすすめします。 税務調査では、登録番号の記載漏れや、適格請求書の要件を満たさない書類で仕入税額控除を行っていないかなど、インボイス対応の正確性も確認されます。請求書の保存・記載要件は従来より厳格になっている点に注意しましょう。

「少額特例」は2029年9月末まで――対象者と判定単位に注意

少額の取引について、インボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められるのが「少額特例」です。上で説明した7・5・3割控除とは別の制度で、次の条件を満たす場合に使えます。
  • 対象者…基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者
  • 対象期間…2023年(令和5年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日までに行う国内での課税仕入れ
  • 対象取引…支払対価の額(税込)が1万円未満の課税仕入れ
注意したいのは1万円未満かどうかの判定単位です。国税庁は、一回の取引の課税仕入れに係る金額(税込)で判定するとしており、商品1点ごとの金額で判定するものではないと明示しています。1回の納品で合計1万5,000円になる取引を、単価が安いからと少額特例で処理していると、調査で否認される可能性があります。 なお、少額特例の期限(2029年9月30日)は7・5・3割控除の期限(2031年9月30日)とは異なります。2つの制度は期限も要件も別物ですので、混同しないようにしてください。

小規模事業者は「2割特例」の終了時期にも注意

免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者が、納付税額を売上税額の2割に抑えられる「2割特例」は、2026年(令和8年)9月30日までの日の属する課税期間をもって終了します。個人事業者であれば2026年分(令和8年分)の申告が最後、3月決算法人であれば令和9年3月期が最後、という形になります。 令和8年度税制改正では、個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の申告について納付税額を売上税額の3割とできる「3割特例」が新たに設けられました。適用を受けるための主な要件は次の3点です(法人は対象外です)。
  • 個人事業者であること
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前。令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)の課税売上高が1,000万円以下であること
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること
法人は2割特例の終了後、本則課税か簡易課税へ移行することになります。このとき役に立つのが、あわせて創設された簡易課税制度への円滑な移行措置です。簡易課税は本来、適用を受けようとする課税期間が始まる前日までに届出書を出す必要がありますが、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税を選びたい場合は、その課税期間の申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すればよいとされています(2割特例を適用した課税期間の翌課税期間が2026年9月30日以前に終了する場合は、その課税期間の末日までです)。 特例が切り替わる時期は申告方式の有利不利が変わりやすく、業種によっては簡易課税のほうが有利になることもあります。切替の年は、本則課税・簡易課税・3割特例の3通りで試算してから決めるのが確実です。

【2026年9月1日から】特定金属くず特例が創設されました

令和8年度税制改正では、金属くずの取引に関する新しい特例も設けられました。盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(金属盗対策法)に規定する特定金属くずについて、従来の古物商特例・再生資源等特例の対象から外したうえで、同法の特定金属くず買受業の届出を行っている事業者が適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産(消耗品を除く)として買い受ける場合に限り、帳簿のみの保存で仕入税額控除を認めるという内容です。2026年(令和8年)9月1日以後に行う課税仕入れから適用されます。 この特例を使う場合、帳簿には「特定金属くず特例の対象となる旨」と「課税仕入れの相手方の住所または所在地」の記載が必要です(金属盗対策法上、住居等の確認を行うこととされていないものは住所等の記載を要しません)。裏を返せば、届出をしていない事業者が特定金属くずを買い受けても仕入税額控除はできないということです。金属スクラップを扱う事業者は、届出の有無と帳簿の記載事項を早めに点検しておいてください。

消費税に関連する税務調査の事例

消費税に関して指摘を受けるのは、納税者側が正しいと思って行っていた処理が、実は誤っていたというケースが多くなっています。具体的な事例を見てみましょう。
  • B社では、同業者が集まる組合に加入して毎月支払っている会費を消費税の課税仕入れとして処理していましたが、税務調査で「対価性がない」という理由から課税仕入れに該当しないと指摘され、修正申告をすることになりました。
  • Y社では、消費税の仕入税額控除を受けるために法人クレジットカードの利用明細書を保存していましたが、税務調査で「販売会社が発行した請求書ではない」ため仕入税額控除の要件を満たしていないと指摘されました。インボイス制度導入後は、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要なため、こうした書類の整備はいっそう重要になっています。
  • 雑貨の卸売業者であるF社は、海外からの注文も受け付けて商品を輸出していました。手続きが煩雑になるため、国内の業者を経由して販売し代金もその業者から受け取っていましたが、税務調査で「輸出ではなく国内取引に該当するので免税にならない」と指摘されました。
  • 消費税の課税事業者になったばかりのG社は、取引先の倒産により免税期間に発生していた売掛金が回収不能となり、貸倒れに係る消費税控除の申告をしました。ところが税務調査で「免税期間の売掛金は消費税額の控除の適用にならない」と指摘を受け、修正申告を行いました。
いずれも、取引の実態と区分の判定を誤ったことが原因です。判断に迷う取引がある場合は、自己判断で処理せず専門家に確認することが、後の指摘を防ぐ近道になります。

2026年秋までにそろえておきたい備え

経過措置の切替が近づく時期は、処理の誤りが集中しやすく、後の調査で説明を求められる場面も増えます。次の5点を9月中に確認しておくと安心です。
確認すること具体的に見るポイント関係する制度
取引先の登録状況継続取引の相手が適格請求書発行事業者かどうかを一覧にする7・5・3割控除
会計システムの区分「70%控除」の税区分が選べるか、帳簿の注記表示を改める必要がないか7・5・3割控除
9月末をまたぐ取引納品書・検収書などで引渡し・役務提供の日を確認できるか控除割合の判定
相手先ごとの年間支払額免税事業者等1社あたり税込1億円を超える見込みがないか経過措置の上限(1億円)
申告方式の選択2割特例の終了後、本則課税・簡易課税・3割特例のどれが有利か試算したか2割特例/3割特例

参考:飲食料品の消費税率を1%とする「基本方針」が閣議決定されました

2026年(令和8年)8月5日、政府は「給付付き税額控除」の制度導入に関する基本方針を閣議決定しました。この中で、給付の本格導入までのつなぎとして、令和9年(2027年)4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品に係る消費税率を1%とする方針が示されています(外食や酒類は軽減税率の対象外のため、この引下げの対象にもなりません)。 ただし、現時点で決まっているのは「基本方針」までです。首相官邸の説明によれば、制度の詳細設計を進めたうえで9月に大綱を決定し、臨時国会に法律案を提出して早期成立を目指すとされています。税率区分やレジ・システムの改修をどう進めるかといった事業者の実務対応は、法案と国税庁の取扱いが示されてから判断してください。現段階で断定的な準備を進めるのは避け、今は上で述べた2026年10月の経過措置の切替に集中するのが現実的です。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字なら消費税の税務調査は来ませんか?

A. 赤字でも消費税の納税義務は生じるため、調査の対象になり得ます。むしろ消費税の還付申告を行っている事業者は、不正還付の防止の観点から重点的に調査される傾向があります。

Q. インボイスの登録番号が記載されていない請求書でも仕入税額控除できますか?

A. 原則として、要件を満たした適格請求書でなければ仕入税額控除はできません。免税事業者等からの仕入れには経過措置があり、2026年9月30日までの課税仕入れは仕入税額相当額の80%、同年10月1日以後は70%の控除が認められています(以後も段階的に縮小され、2031年10月1日以後は控除できなくなります)。最新の内容は国税庁の公式情報でご確認ください。

Q. 9月末に発注して10月に納品された仕入れは、80%と70%のどちらですか?

A. 70%です。控除割合は「課税仕入れを行った日」で判定し、商品の仕入れなら引渡しを受けた日が基準になります。発注日・請求書の日付・支払日ではない点に注意してください。判断に迷う取引は、納品書や検収書で引渡しの事実を残しておきましょう。

Q. 1万円未満の支払いなら、いつでもインボイスは不要ですか?

A. いいえ。「少額特例」の対象になるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間5,000万円以下)の事業者が、2029年9月30日までに行う課税仕入れに限られます。また1万円未満かどうかは一回の取引の合計額(税込)で判定するため、単価で判断すると誤りになります。

Q. 2割特例が終わったら、必ず簡易課税に変えたほうがよいですか?

A. 一概には言えません。みなし仕入率は業種によって40%〜90%と幅があり、実際の課税仕入れが多い事業者は本則課税のほうが有利になることもあります。簡易課税は原則として2年間の継続適用が必要なため、切替の年は複数の方式で試算してから判断してください。個人事業者は令和9年分・令和10年分について3割特例という選択肢もあります。

Q. どんな取引が指摘されやすいですか?

A. 組合会費など対価性が問われるもの、輸出免税・国内取引の判定、住宅家賃や土地貸付けなどの非課税・課税の区分は、判断を誤りやすく指摘されやすい論点です。加えて2026年10月前後は、控除割合の適用時期の誤りが新たな指摘ポイントになると考えられます。

Q. 飲食料品の消費税が1%になると、事業者は何を準備すればよいですか?

A. 2026年8月時点では基本方針が閣議決定された段階で、法律はまだ成立していません。実施時期や対象の細部、税率区分の扱いは今後の法案と国税庁の取扱いで確定します。現段階では情報の収集にとどめ、確定した内容にもとづいて改修計画を立てるのが安全です。 ※本記事の制度内容は2026年8月時点のものです。今後の税制改正で取扱いが変わる場合がありますので、最新の情報は国税庁の公式サイトでご確認ください。

>>税務調査に強いおすすめ税理士事務所を見る

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*