税務調査の対応|やってはいけないことと準備する帳簿・書類を解説

税務調査に備えて帳簿や書類を整理した事務所のデスクのイメージ
税務調査への対応で結果を分けるのは、当日の受け答えよりも連絡を受けてから当日までの数日間の使い方です。とくに売上げが確認できる帳簿をすぐ提示できる状態にしておけるかどうかは、加算税が最大10%重くなるかどうかを直接左右します。やってはいけないこと、事前通知で伝えられる内容、調査項目ごとに用意する書類、そして調査が終わったあとの流れまでを、税務調査の現場に精通した専門家の視点で順に整理しました。正しく備えれば、調査は決して怖いものではありません。

まず押さえる「やってはいけないこと」

税務調査には強制調査と任意調査がありますが、よほど悪質な脱税の疑いがある場合を除き、実施されるほとんどは任意調査です。「任意」とはいっても、正当な理由なく調査を拒否することはできません(受忍義務)。調査当日までの準備が欠かせませんが、その前に「やってはいけないこと」を押さえておきましょう。

調査を受ける側のNG行動

調査の拒否のほか、妨害や忌避も認められません。調査官の質問に答えない、偽りの答弁をする、嘘の記載や記録のある帳簿書類を提出する、といった行為も同様です。これらを行うと、国税通則法第128条により「1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」が科される可能性があります(質問検査権に対する不答弁・虚偽答弁・検査の拒否等)。 なお、2025年6月1日に施行された改正刑法で、従来の「懲役」は「拘禁刑」に一本化されました。古い記事や書籍では「1年以下の懲役」と書かれていることがありますが、現在の条文上の表記は「拘禁刑」です(罰金額に変更はありません)。 もっとも、国税庁は「罰則があることをもって強制的に検査を行使することは考えていない」と明言しており、帳簿書類の提示・提出は必要である旨を説明したうえで、理解と協力を得て行うとしています(国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問3)。過度に身構える必要はありませんが、聞かれたことに誠実に答える姿勢が前提になります。

調査する側のNG行動

調査する側にも、やってはいけないことがあります。調査官が税務調査を行えるのは質問検査権の範囲内とされており、相手を拘束したり、勝手に差し押さえをしたりすることはできません。また、事業に無関係の私物や自宅については、本人の同意がない限り検査することはできません。 会社に私物を置いていると、調査の流れのなかで目に触れてしまうことも考えられます。事業に関係のないものは自宅に持ち帰っておいたほうが安心です。 なお、調査官が帳簿書類を預かる「留置き」も、必要性を説明したうえで納税者の理解と協力のもと、承諾を得て行うものとされています。留め置く必要がなくなったときは遅滞なく返還されますし、業務で使う必要があるなど理由があって返還を求めた場合も、支障がない限りすみやかに返してもらえます。

事前通知では何が伝えられるのか

「ある日突然、調査官が来るのでは」と心配される方が多いのですが、実際にはほとんどの実地調査は事前の連絡から始まります。何が伝えられるのかを知っておくだけでも、心の準備は大きく変わります。

通知される内容と、日程は相談できること

実地の調査を行う場合、原則として、対象となる納税者(税務代理人がいればその税理士)に対し、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話などで実地の調査を行う旨・調査を開始する日時・調査を行う場所・対象となる税目と課税期間・調査の目的などが通知されます。 また国税庁は、事前通知に先立って納税者や税理士の都合を聴取し、必要に応じて日程を調整するとしています。通知を受けた後であっても、一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情などがあれば日程変更を申し出ることができ、合理的と考えられれば変更が検討されます。申し出の方法に決まった様式はなく、口頭で構いません。「断ってはいけない」と思い込んで無理な日程を受ける必要はありません。

事前通知がない調査もある

一方で、申告内容・過去の調査結果・事業内容などから、事前に通知すると(1)違法または不正な行為を容易にし、正確な課税標準または税額等の把握を困難にするおそれがある、(2)その他、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある——と判断された場合には、事前通知が行われないことがあります。現金商売など、証拠を確認しにくい業種で行われることがあるのはこのためです。どのような会社が調査対象に選ばれやすいかは、税務調査が入る基準とは?選ばれやすい会社・個人の特徴で整理しています。 ただし通知がない場合でも、臨場後すみやかに、対象となる税目・課税期間や調査の目的などは説明されることになっています。

「税務調査」と「行政指導」は別物

見落とされがちですが、税務署からの電話がすべて税務調査とは限りません。提出された申告書に計算誤り・転記誤り・記載漏れなどがあるのではないかと思われる場合に、「行政指導」として自主的な見直しを促す連絡が入ることがあります。国税庁は、担当者が調査または行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、どちらに当たるのかを納税者に明示するとしています。 両者の違いは、その後の負担に直結します。行政指導に基づいて自主的に修正申告書を提出した場合、過少申告加算税は賦課されません(期限後申告となる無申告のケースでは、無申告加算税5%が賦課されます)。ただし、いずれの場合も延滞税は納付が必要になることがあります。 電話を受けたら、まず「これは税務調査でしょうか、それとも行政指導でしょうか」と確認すること。これだけで、その後の対応の組み立てが変わります。

実地調査は減り、電話や書面での接触は増えている

この「どちらなのか」の確認が以前より重要になっているのは、税務署の接触の仕方が変わってきているためです。国税庁が2025年12月に公表した令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要によると、法人に対する実地調査は5万4千件(前年比▲7.4%)と減った一方、書面照会・電話連絡・来署依頼といった「簡易な接触」は8万5千件(同+13.4%)に増えています。 同時に、実地調査1件あたりの追徴税額は634万円(同+15.4%)、法人税・消費税の追徴税額の総額は3,407億円と直近10年で最も高い水準になりました。国税庁は、AIを活用した予測モデルで調査必要度の高い法人を抽出し、申告書や資料情報とあわせて調査官が実施の要否を最終判断している、と同資料で説明しています。
法人税・消費税の追徴税額が令和6事務年度に3,407億円と直近10年で最高になったことを示す折れ線グラフ
令和6事務年度の追徴税額(法人税・消費税)は3,407億円で直近10年の最高値。実地調査の件数は前年より減っています。
つまり、件数を絞り込んで精度を上げる方向に動いているということです。裏を返せば、税務署から連絡が来た時点で「なぜ自社が選ばれたのか」に見当がつく程度には、自社の数字を説明できるようにしておく意味があります。

主な調査項目と対応のポイント

税務調査で質問される項目は、ある程度決まっています。次のような内容で事前に調査のシミュレーションを行い、必要書類を準備したり、質問に速やかに答えられるようにしたりしておくことが重要です。実際にどんな聞かれ方をするのかは、税務調査で聞かれること|当日の質問と答え方もあわせてご覧ください。

会社や事業の概況

会社の経営全般の状況や、日常業務の流れについて質問されます。会社案内や組織図、商品案内などの資料を用意し、具体的に説明できるようにしておきましょう。

売上処理

受注してから売上が計上されるまでの流れについて質問されます。計上のタイミングが曖昧な説明にならないよう注意し、注文書・納品書・請求書が流れに沿って発行され、自社の基準どおりに売上が計上されていることがわかる資料を用意します。

仕入・外注処理

取引日が明確にわかる仕入や外注費に関する書類を準備しておきます。金額に正当性があることを説明できるよう、根拠を明らかにしておくことがポイントです。

現金管理

現金出納帳と、金庫などにある現金残高が一致しているかを確認されます。机やロッカーなどに簿外の現金があると不正な処理を疑われるため、そうしたことがないよう調査当日までにチェックしておきます。

人件費

架空の人件費が計上されていないか、支払い方法はどうなっているか、などが調査されます。社員名簿・タイムカード・源泉徴収簿・給与の振込がわかる通帳などの証拠書類を用意しておきます。

関連会社との取引

関連グループ会社間の取引で売上が操作されていないかが調査されます。契約書や議事録などを用意し、取引や金額の妥当性を説明できるようにしておきます。

その他の経費

交際費や家電製品の購入費など、公私混同が起きやすい項目は重点的に調査されます。目的・金額の妥当性・時期などを明確に答えられるよう、領収書などの証拠書類をそろえておきましょう。

調査項目と準備書類の早見表

当日あわてないために、調査項目ごとに「何を確認されるか」「何を用意しておくか」を整理しておくと安心です。
調査項目確認されるポイント用意しておく主な書類
事業の概況経営状況・業務の流れ会社案内・組織図・商品案内
売上処理計上のタイミングと正確性注文書・納品書・請求書・売上帳
仕入・外注取引日と金額の正当性仕入・外注の請求書・契約書
現金管理帳簿残高と実残高の一致現金出納帳・金種表
人件費実在性・支払の事実社員名簿・タイムカード・源泉徴収簿・通帳
その他経費事業との関連性・公私の区分領収書・利用目的のメモ

帳簿や書類をデータで持っている場合の出し方

会計ソフトやクラウドで帳簿を管理し、請求書や領収書もデータで受け取っている——という事業者は珍しくありません。国税庁は2026年(令和8年)7月1日に「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」を改訂し、求められた帳簿書類等が電磁的記録(データ)である場合の出し方を明示しました。 それによると、「提示」は、その内容をディスプレイの画面上で調査担当者が確認できる状態にする方法によります。「提出」は、画面で確認できる状態でプリントアウトしたものを手渡す、調査担当者が持参した記録媒体へコピーする、e-Tax・オンラインストレージサービス・メールを利用して送るといった方法が示されています。提出を求める際には、税務当局におけるデータの取り扱いも説明されることになっており、提出を受けたデータは国税庁が定めた規則等に基づき厳重に管理され、保存期間の経過後は確実に廃棄(消去)されるとされています。 実務上のポイントは、当日その場で画面に出せるかどうかです。会計ソフトのログイン情報がわからない、保存先のクラウドに事務所からアクセスできない、担当者が不在——といった理由で画面に出せないと、紙の帳簿が見当たらないのと同じ状態になりかねません。どの範囲の書類をどれだけ保存しておく必要があるかは、税務調査の事前準備|必要書類・帳簿の保存期間で確認できます。

売上げの帳簿を出せないと、加算税が最大10%重くなる

準備のなかでも軽視できないのが売上げに関する帳簿です。令和4年度税制改正で加算税の加重措置が設けられ、2024年(令和6年)1月1日以後に法定申告期限が到来する申告所得税・法人税(地方法人税)・消費税から適用されています。申告所得税なら令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、3月決算法人なら令和6年3月決算期分から対象です。 税務調査で「売上げ(業務に係る収入を含む)に関する調査に必要な帳簿」の提示等を求められたのに遅滞なく応じなかった場合や、帳簿に記載された売上金額が本来記載すべき金額に届かなかった場合には、その帳簿に記載すべき事項に関する申告漏れ等に課される過少申告加算税・無申告加算税の割合が5%または10%加重されます。
帳簿の不提示や記載不足による過少申告加算税の加重を示す棒グラフ
過少申告加算税の原則部分(10%)を基準にした場合の加重後の割合。加重は帳簿に記載すべき事項に関する申告漏れ等の部分に適用されます。
調査でのできごと加重される割合補足
帳簿の提示・提出をしなかった+10%納税地で保存し、すぐ出せる状態にしておく
売上金額の記載が、本来記載すべき金額の2分の1未満+10%記帳漏れが大きいケース
売上金額の記載が、本来記載すべき金額の3分の2未満(2分の1未満を除く)+5%記帳が部分的に欠けているケース

※対象は申告所得税・法人税(地方法人税)・消費税の過少申告加算税・無申告加算税で、重加算税・不納付加算税は加重の対象外です。本税の割合が重くなるわけでもありません。詳しくは国税庁「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置に関するQ&A」をご確認ください。

対象となる帳簿は、青色申告者・青色申告法人の仕訳帳・総勘定元帳、白色申告者などの売上帳といった、売上げ(収入)の金額が確認できる帳簿です。請求書の控えを袋に入れて保管しているだけでは帳簿とは認められませんが、取引の年月日・相手方・金額が記載された請求書控えを日付順に整理して保存しているなど、帳簿に相当する規則性を持たせて保存していれば帳簿として扱われます。 一方で、災害・システム障害・入院など「納税者の責めに帰すべき事由がない場合」には適用されません。また、仕訳帳・総勘定元帳が出せなくても、現金出納帳など他の帳簿に売上げが正しく記載されていれば加重されません。 裏を返せば、調査の開始日時までに帳簿を遅滞なく提示できるよう準備してあれば、この加重が生じることはありません。事前通知の段階で調査対象の帳簿は伝えられますから、そこから当日までの数日間の使い方が結果を分けます。

調査が終わったあとの流れも知っておく

調査は「当日」で終わりではありません。終わり方を知っておくと、当日の受け答えにも余裕が生まれます。

非違がなければ書面が届く

実地の調査の結果、更正決定等をすべきと認められない場合には、その旨を記載した書面(いわゆる是認通知)が届きます。ただし、その後の別の調査で新たに得られた情報に照らして非違があると認められるときは、同じ税目・課税期間でも再調査が行われることがあります。

修正申告に応じるかは納税者の任意

非違があると認められた場合は、その内容(追加で納めることになる金額とその理由など)が説明され、原則として修正申告または期限後申告が勧奨されます。この勧奨に応じるかどうかは納税者の任意で、応じなかったからといって不利な取扱いを受けることは基本的にありません。応じない場合は、調査結果に基づく更正処分が行われます。 注意したいのは、修正申告を行うと、その後に不服申立てをすることはできないという点です(更正の請求はできます)。内容に納得できない部分が残るなら、その場で押し切られず、更正処分を待って再調査の請求・審査請求で争う選択肢もあります。争い方の実務は税務調査の対策【応用編】|交渉・不服申立て・加算税の実務にまとめています。判断に迷うときは税理士に相談しましょう。

2026年9月24日の国税システム更改で変わること

調査の前後で修正申告や更正の請求、各種届出を予定している方は、国税庁が2026年(令和8年)9月24日に予定している国税システムの更改にも注意してください。国税庁「国税システムの更改について」で案内されている内容のうち、実務に効くのは次の4点です。
変わること内容
e-Taxが使えない期間がある2026年9月19日0:00〜9月24日8:30と9月26日0:00〜24:00はメンテナンスのため利用不可(e-Tax公式のお知らせ)
申告書等の様式が変わる一部の書面の申告書・申請書・届出書・法定調書が新様式に。申告書の控用はなくなり、配色は原則白黒に
通知に「お問い合わせ番号」が付く税務署から届く通知等に13桁の番号が印字され、問い合わせの際に伝えるとやり取りが早くなる。納付書の「整理番号」欄(8桁)もこの番号欄に変わる
処分通知等の電子交付が拡大電子交付の対象が広がり、同意方法が「手続の都度」から「事前の一括同意」へ。これまで電子交付を使っていた方も、9月24日以降にe-Tax上で一括同意の手続が必要
調査結果に基づく更正処分の通知をどう受け取るかにも関わる変更ですので、顧問税理士がいる場合は受け取り方法を早めにすり合わせておくと安心です。

場面別・税務調査のよくある疑問(FAQ)

Q. 調査の連絡が電話で来たら、まず何をすればよいですか?

A. 慌てて即答せず、「調査か行政指導か」と「対象の税目・課税期間」を確認してください。そのうえで顧問税理士がいれば必ず共有し、立ち会いを依頼しましょう。日程は業務の都合に応じて相談できます。

Q. 税務調査は何年分さかのぼって行われますか?

A. 一般的には直近3年分が中心ですが、申告内容に応じて5年分、偽りその他不正の行為(仮装・隠蔽)がある場合は最大7年分まで対象になり得ます。日頃から帳簿と証憑を整理しておくことが最善の備えです。

Q. 通知された税目・期間以外の書類も見せてと言われたら応じるべきですか?

A. 通知された年度の申告内容を確認するために他の年度の資料が必要になることはあり、これは対象が広がったわけではありません。一方、通知していない年度や税目に非違が疑われる場合は、あらためて説明と同意を得たうえで対象が追加されることがあります。理由の説明までは義務づけられていないため、納得できない点は率直に質問し、記録しておきましょう。

Q. その場で答えられない質問をされたらどうすればよいですか?

A. 推測で曖昧に答えると、かえって誤解を招きます。わからないことは「確認してから回答します」と伝え、後日正確に回答すれば問題ありません。無理に取り繕わないことが大切です。

Q. 帳簿の一部が見当たらない状態で調査日を迎えそうです

A. 事前通知から当日までの間に、売上げが確認できる帳簿(売上帳・現金出納帳など)をそろえることを最優先にしてください。加重措置は仕訳帳・総勘定元帳だけで判定されるわけではなく、他の帳簿で売上げが正しく確認できれば加重されません。災害や入院など不可抗力の場合は、罹災証明書などで事情を説明できるようにしておきましょう。

※本記事は2026年9月時点の法令・国税庁公表資料に基づいています。加算税の割合や手続は改正されることがあるため、最新の取り扱いは国税庁ホームページまたは所轄の税務署でご確認ください。

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