節税と租税回避の境界|税務調査で否認されない判断軸と備え

帳簿と資料を確認しながら経費の妥当性を検討する経営者のイメージ

節税と租税回避を分けているのは、金額の大きさでも手法の名前でもありません。その支出や組織の形に「事業上の目的」があり、「実際に使った記録」で説明できるか——税務調査で結論を左右するのは、ほぼこの一点です。

同じ支出でも、目的と実態を説明できるかどうかで扱いが変わります。ここでは調査で問題になりやすい代表的なケースを取り上げ、境界がどこにあるのかを現場の視点で整理します。制度そのものも毎年のように動いているため、2026年9月時点の取り扱いにそろえて説明します。

否認の根拠は「同族会社等の行為計算の否認」(法人税法132条)

個別のケースに入る前に、税務署が租税回避を否認できる法的な根拠を押さえておきましょう。中心にあるのが法人税法第132条「同族会社等の行為又は計算の否認」です。

条文は、同族会社等の法人税について更正または決定をする場合に、その法人の行為・計算を容認すると法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるときは、税務署長が認めるところにより課税標準や税額を計算できる、という構造になっています。

問題は「不当」の中身です。裁判例では、純経済人として不合理・不自然な行為や計算、すなわち経済的合理性を欠くものという基準が積み重ねられてきました。国税庁の税務大学校論叢でも、租税負担を不当に減少させる行為計算は「不合理又は不自然」なものと解されている、と整理されています。

裏を返せば、経済的に合理的な説明がつく取引は、税負担が下がっても否認の対象にはなりません。以降のケースは、すべてこの「経済的合理性を説明できるか」という一本の軸で読んでください。

ケース1|会社を分割する(分社化)

中小法人(各事業年度終了時の資本金または出資金が1億円以下の普通法人など)には、所得のうち年800万円以下の部分に軽減税率15%が適用されます。本来19%の本則税率を租税特別措置で引き下げているもので、2025年度(令和7年度)税制改正により適用期限が2年延長されました。

一方、年800万円を超える部分には本則の23.2%が適用されます(国税庁タックスアンサーNo.5759「法人税の税率」)。

この「800万円以下は税率が低い」という仕組みを利用し、大きくなった会社をいくつもの小さな会社に分けて、それぞれで軽減税率の枠を使おうとする動きがあります。会社を分けること自体は合法ですが、会社を分ける合理的な目的がないと「租税回避」と判断されるおそれがあります。

そもそも「分ければ必ず15%」ではありません(2025年度改正)

分社化を考える前に押さえておきたいのが、軽減税率には資本金1億円以下という入口以外にも複数の除外要件があることです。2025年度(令和7年度)税制改正では、次の見直しが行われました。

  • 所得の金額が年10億円を超える事業年度は、年800万円以下の部分に適用される税率が15%ではなく17%になります。
  • 適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等)は、年800万円以下の部分も本則の19%です。
  • 適用対象法人の範囲から通算法人が除外されました。中小通算法人等については、年800万円を通算グループ内の法人の所得の金額の比で配分した金額以下の部分に19%が適用されます。

つまり、規模の大きなグループが会社の数を増やしても、「800万円の枠が会社の数だけ単純に増える」とは限らない設計になっています。数字の面でも、分社化は「税率が下がるから」という理由だけでは説明がつきにくくなっているのが現状です。

2026年4月からは「防衛特別法人税」も始まっています

さらに、2026年(令和8年)4月1日以後に開始する事業年度から、防衛特別法人税が課されています。各事業年度の所得に対する法人税を課される法人が納税義務者です。

税額は、基準法人税額から年500万円の基礎控除額を差し引いた課税標準法人税額に4%を乗じて計算します。課税事業年度が1年に満たない場合は、500万円を12で除して月数を乗じた金額が基礎控除額になります。

実務上の注意点は申告義務です。基準法人税額が0の場合や、基礎控除額の控除により課税標準法人税額が0となる場合でも、防衛特別法人税確定申告書の提出は必要とされています。申告書は法人税・地方法人税と一体の様式ですが、記載欄が別葉になるため提出漏れが起きやすい点にも注意してください。

なお、2027年(令和9年)4月1日以後に開始する課税事業年度からは、法人税の中間申告書を提出すべき法人は防衛特別法人税についても中間申告が必要になります。

基礎控除の存在から「会社を分ければ枠が増える」と考えたくなるかもしれませんが、判断軸はこれまでとまったく変わりません。税負担を下げること自体が目的で、事業としての実態も必要性も説明できない組織再編は、租税回避として否認されるおそれがあります。

逆に、事業ごとに損益を明確に把握するため、事業ごとに金融機関からの融資を受けやすくするため、事業特性に合わせて社員教育を徹底するためなど、分社化の合理的な理由を説明できれば租税回避とはみなされません。

ポイントは「税負担を下げること」ではなく「事業上の必要性」を説明できるかどうかです。分社化を検討する際は、その理由を取締役会の議事録や事業計画など、後から第三者が確認できる形で残しておくことをおすすめします。

ケース2|生命保険加入による節税

法人で加入する生命保険は、従業員が在職中に万一のことがあった場合に遺族へ支払われ、退職金のような役割を果たします。福利厚生費として一定の節税効果が期待できますが、保険料が従業員の給与水準に比べて不自然に高額な場合などは、税務調査で否認されることがあります。

また、法人保険を使った「保険料を全額損金にしてすぐ解約する」といった過度な節税は、2019年(令和元年)6月の法人税基本通達の改正で損金算入のルールが大きく見直され、令和元年7月8日以後の契約分から、解約返戻率に応じて損金にできる割合が制限されるようになりました。現行の取り扱いの骨格は次のとおりです。

  • 保険期間3年以上で最高解約返戻率が50%を超える定期保険・第三分野保険は、その返戻率の区分に応じて保険料の一定割合を資産に計上し、後の期間で取り崩して損金にします(法人税基本通達9-3-5の2)。
  • 最高解約返戻率が50%以下のものは、原則として支払った期の損金に算入できます。
  • 例外として、最高解約返戻率が70%以下で、かつ1人の被保険者あたりの年換算保険料相当額が30万円以下のものは、返戻率が50%を超えていても原則どおり損金算入できます。

契約内容によって取り扱いが細かく分かれるため、加入前に必ずそのときの取り扱いを確かめることが大切です。線引きが曖昧な部分が多いので、高額な法人保険を検討する際は、税理士に相談したうえで判断するのが安全です。

参考:国税庁タックスアンサー No.5364「定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」

ケース3|海外出張費・海外視察費

海外渡航にかかった費用は、税務調査で指摘されやすい項目のひとつです。法人税基本通達では、役員・使用人の海外渡航に際して支給する旅費について、その渡航が業務の遂行上必要であり、かつ渡航のために通常必要と認められる部分の金額に限り旅費として経理することを認めています(法人税基本通達9-7-6)。

観光渡航の許可を受けた渡航、一般的な団体旅行への参加、同業者団体が主催する観光色の強いツアーなどは、業務との関連を説明できず、経費として否認されやすい典型例です。

なお、渡航の直接の動機が特定の取引先との商談や契約の締結などで、その機会に観光を併せて行った場合は、業務を遂行する場所までの往復の旅費は業務の遂行上必要なものとして扱われます(同9-7-9)。この場合でも観光に要した部分の費用まで旅費になるわけではないため、日程表などで業務日と観光日を区分できるようにしておくことが実務上の備えになります。

家族を同伴した場合、親族や業務に常時従事していない人の旅費を会社が負担すると、原則としてその役員に対する給与として扱われます(同9-7-8)。

ただし、身体障害者の補佐人を同伴する場合、外国語に堪能な人や高度の専門的知識をもつ人が必要で社内に適任者がいない場合、国際会議への出席などで配偶者の同伴が必要な場合など、渡航の目的を達成するために明らかに必要な同伴と認められるときは、通常必要と認められる費用はこの限りではありません。

もし海外渡航費が否認され、業務外の支出と判断されると、その費用は役員・従業員への「給与」として扱われ、源泉所得税の負担が増えるおそれがあります。渡航の目的・日程・面談相手・持ち帰った成果などの記録を残しておくことが重要です。

参考:国税庁タックスアンサー No.5388「海外渡航費の取扱い」

ケース4|会社名義での高級車・クルーザーの購入

過去には、会社名義で高級車(モーガン)とクルーザーを購入し減価償却資産とした事例で、高級車は減価償却費として認められ、クルーザーは否認されたという判断がありました。

両者を分けたのは「事業に使った記録が残っているか」という一点です。クルーザーは社員の福利厚生として購入したとされていましたが、実際に業務・福利厚生で使った実態を証明できませんでした。

一方、高級車は社長の通勤用として使用実態を示せたため認められたのです。金額の大小や「いかにも贅沢か」ではなく、その資産が事業目的に沿って使われた記録があるかが決め手になります。

中小法人の法人税率の棒グラフ。年800万円以下は15%、所得10億円超の事業年度は17%、800万円超は23.2%
中小法人の所得800万円以下は軽減税率15%(本則19%を租税特別措置で引き下げ)、所得10億円超の事業年度は17%、超過分は本則23.2%。適用除外事業者と通算法人は特例の対象外で19%。

節税と租税回避の境界——比較で整理

ここまで見てきたケースを、「認められる節税」と「否認される租税回避」に分けて整理すると、共通する判断軸が見えてきます。

項目認められやすい(節税)否認されやすい(租税回避)
分社化事業ごとの損益管理・融資・教育など合理的な目的がある税負担を下げる以外の目的が説明できない
法人保険給与水準に見合う保障で、現行の損金ルール(返戻率の区分)に沿っている給与に比べ不自然に高額/早期解約を前提にした加入
海外渡航費業務上の必要性・面談記録・日程が残っている観光目的・業務との関連を示せない
同伴者の旅費通訳や介助など、渡航目的の達成に必要な同伴と説明できる家族の慰安が目的(役員給与として課税されうる)
社用資産(車・船など)事業目的での使用実態・記録がある購入名目だけで使用実態を証明できない

いずれのケースも、結論を分けているのは金額の大きさではなく、「事業上の目的」と「実際に使った記録」を説明できるかという点に集約されます。これは前述の経済的合理性の基準と同じことを、実務の言葉に置き換えたものです。

どの論点が実際に調査で取り上げられやすいかは、税務調査で指摘されやすいポイントもあわせて確認しておくと全体像がつかめます。

よくある質問(FAQ)

Q. 節税と租税回避、脱税は何が違うのですか?

A. 節税は法律が認めた範囲で税負担を軽くすること、租税回避は形式的には合法でも実態の伴わない取引などで税負担を不当に減らし否認されうるもの、脱税は売上を隠す・架空経費を計上するなど事実を偽る違法行為です。脱税は重い加算税や刑事罰の対象になります。

Q. 会社を分ければ、必ず軽減税率15%を使えますか?

A. いいえ、そうとは限りません。所得が年10億円を超える事業年度は17%、直前3年の所得の年平均額が15億円を超える適用除外事業者は本則19%です。グループ通算制度の通算法人は特例の対象から外れ、中小通算法人等は年800万円をグループ内の所得の比で配分した金額までが19%になります。

Q. 以前に認められた節税は、今も大丈夫ですか?

A. 必ずしもそうとは限りません。法人保険の損金算入ルールのように、過去に有効だった手法が通達・税制改正で制限されることがあります。逆に、防衛特別法人税のように新しい税負担が加わることもあります。「前はできたから」と続けるのではなく、その都度、そのときの取り扱いを確かめることが大切です。

Q. 税務調査で否認されないために、何を準備すればよいですか?

A. 「その支出が事業に必要だった理由」と「実際に使った記録」を残しておくことが最も効果的です。出張なら日程・面談先・成果、社用資産なら使用記録、分社化なら意思決定の経緯など、第三者が見ても業務性が分かる証跡を整えておきましょう。

Q. 否認されると、追加の税金はどれくらいかかりますか?

A. 不足していた本税に加えて、過少申告加算税や延滞税が上乗せされます。事実を仮装・隠蔽していたと判断されると、さらに重い重加算税の対象になります。税率や計算方法は税務調査でやってはいけない対応の早見で確認してください。

判断に迷ったらプロ(税理士)に相談を

これまで見てきたとおり、節税か租税回避かは一本の線できれいに引けるものではありません。最も大切なのは、その支出にきちんとした事業上の理由付けと記録があるかです。

また、税制や通達は毎年のように改正されるため、自分だけで最新の取り扱いを追い続けるのは簡単ではありません。調査の対象になりやすい会社の傾向は税務調査で狙われる理由でも整理しています。

最新の税制を踏まえた判断や、税務調査での対応に不安がある場合は、税務の専門家である税理士に相談することで、合法的な節税の範囲を確認しながら安心して対策を進められます。

※本記事で示した税率・取り扱いは2026年9月時点のものです。税制は毎年改正されるため、最新の制度は国税庁の公式サイトでご確認ください。

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