税務調査対策

ネット収入の税務調査|情報技術専門官と申告・所得区分の基準

自宅でネットビジネスの取引記録と領収書を整理するイメージ

ネットで得た収入も、税務署から見れば店舗を構えた商売と変わりません。国税庁にはネット取引を専門に調べる調査官(情報技術専門官)が配置され、アフィリエイト・ネット販売・フリマ・暗号資産といった取引を継続的に確認しています。しかも令和6事務年度の実績では、こうしたネット分野の調査は1件当たりの申告漏れ所得金額が実地調査全体の平均を上回っています——「匿名だから分からない」「副業の小遣い程度だから」は、もう通用しません。

とはいえ、いきなり調査官が訪ねてくるわけではありません。実際の入口は文書や電話による「お尋ね」が大半です。そして備えとしてやるべきことも、取引を記録して帳簿書類を残すことと、自分に申告義務があるかを最新の控除額で確かめることの2つに絞られます(本記事は2026年9月時点の制度にもとづく内容です)。

ネット収入専門の税務調査官「情報技術専門官」とは

ネットビジネスの取引データを確認する税務調査のイメージ

情報技術専門官とは、IT分野の研修を重点的に受けた、ネット取引に強い調査官のことです。かつて税務署はIT関連に弱いとされていましたが、近年はネットビジネスに対応できるよう、情報技術専門官が各税務署に配属され、さまざまな税務調査にあたっています。

情報技術専門官の業務の特徴

情報技術専門官はITやネットに通じた税務調査官で、アフィリエイト・ネットオークション・ネット販売・各種プラットフォーム取引などを中心に調査します。もともとIT関連の知識が豊富なうえ、日々ネットビジネスを調べているため、その知見はかなりのものです。

情報技術専門官が注目するポイント

国税庁は、ネット上の取引を継続的に確認する電子商取引専門調査チーム(電子商取引監視チーム)を設けています。ネットビジネスはオンライン上に取引記録が残るため、調査では売上記録に加え、データの削除履歴・作成日付などが確認されます。会計データの不正や誤入力、パソコン内の記録やメールなど、関係する資料は幅広く確認されます。

あわせて、フリマアプリやECモール、決済代行などの事業者には、税務署から取引情報の照会が行われることもあります。「匿名だから分からない」と考えるのは禁物です。

調査時にやってはいけないこと

もっとも重要なのは、税務調査があるからといって履歴を改ざんしたり、データを削除したりしないことです。慌てて消しても、現在は履歴やデータが復元できるといわれます。履歴の改ざんやデータ削除は、場合によっては重加算税の対象や、より重い責任を問われることもあるため、調査にはできる限り協力的に対応しましょう。

ただし、パソコン内には事業と無関係な個人情報も含まれます。提示の範囲に迷うときは、税務調査の連絡が来た段階で早めに税理士へ相談するのがおすすめです。調査当日までの流れを一通り把握しておきたい方は、はじめての税務調査ガイド(流れ・事前準備・当日の対応)もあわせてご覧ください。

ネット取引・無申告への調査は年々強化されています

国税庁が公表した令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の所得税調査の状況を見ると、ネット取引への監視の強さがよく分かります。インターネット上のプラットフォームを介したシェアリングエコノミー等新分野の経済活動(ネット広告=アフィリエイト等、デジタルコンテンツ、ネット通販・ネットオークション、民泊・配達代行などのシェアリングビジネス)に係る取引を行う個人に対しては、実地調査(特別・一般)が1,155件行われ、1件当たりの申告漏れ所得金額は1,595万円と、実地調査(特別・一般)全体の平均1,486万円を上回りました。

暗号資産(仮想通貨)等の取引を行う個人への実地調査も613件(前の事務年度535件)と増えており、1件当たりの申告漏れ所得金額は2,538万円、1件当たりの追徴税額は745万円と、実地調査全体の平均(299万円)の2.5倍にのぼります。無申告者への調査も重点分野で、所得税の無申告者に対する実地調査(特別・一般)による追徴税額は総額252億円・1件当たり524万円と、いずれも公表開始以降の最高となりました。個人事業主が対象に選ばれる理由と備え方は個人事業主にも税務調査は入る?最新データと対象になる理由・対策で整理しています。

令和6事務年度の実地調査1件当たり申告漏れ所得金額の比較(全体・シェアリングエコノミー等・暗号資産・無申告者)
ネット取引(シェアリングエコノミー等)・暗号資産・無申告者への調査は、1件当たりの申告漏れ所得金額が実地調査全体の平均を上回る。

国税庁の公表資料には、調査対象の選定にAIを活用していることも明記されています。実地調査と、文書・電話等で申告の誤りを是正する「簡易な接触」を合わせた追徴税額は1,431億円と過去最高で、「小規模な副業だから見つからない」といえる状況ではなくなっていることがうかがえます。

実際に多いのは「調査官が来る」より「税務署から連絡が来る」ケース

調査というと自宅や事務所に調査官が来る場面を想像しがちですが、件数の内訳を見ると実態は少し違います。令和6事務年度の所得税の「調査等」73万6千件のうち、実地調査は4万7千件にとどまり、残る68万9千件は「簡易な接触」でした。簡易な接触とは、原則として税務署の職員が自宅等に出向かず、文書・電話による連絡や来署依頼による面接で申告内容の誤りを是正するものです。しかもこの簡易な接触は、前の事務年度の55万8千件から大きく増えています。

つまり、ネット収入の申告漏れが疑われた場合、最初の接点は税務署からの「お尋ね」の文書や電話であることが多い、ということです。心当たりがあるなら、放置せずに取引履歴を整理して回答することが第一歩になります。回答を避けたり、事実と違う説明をしたりすると、より深度のある実地調査に移行する可能性があります。

申告漏れが目立つ業種にもIT系が並んでいます

国税庁は毎年、事業所得を有する個人で1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種を公表しています。令和6事務年度は、ネット・IT系の職種として「コンテンツ配信」が7位(1件当たり1,936万円)、「システムエンジニア」が10位(同1,631万円)にランクインしました。いずれも実地調査(特別・一般)全体の平均1,486万円を上回る水準です(業種別の顔ぶれは税務調査が入りやすい業種は?法人・個人別の最新データで詳しく扱っています)。

令和6事務年度の1件当たり申告漏れ所得金額。コンテンツ配信1,936万円、システムエンジニア1,631万円、実地調査(特別・一般)全体の平均1,486万円
ネット・IT系の職種も、1件当たりの申告漏れ所得金額では実地調査全体の平均を上回っている。

コンテンツ配信は前の事務年度も3位に入っており、継続的に注目されている分野だと分かります。在庫や店舗を持たず、パソコンひとつで完結する業種でも、決して調査の対象外ではないということです。

公表された調査事例には、給与収入のほかにゲーム機やスマートフォンなどの転売による収入があるのに申告していなかった人が、パソコンやスマートフォン内の取引データ、取引先への反面調査によって収入を把握され、7年分で約7,600万円の申告漏れを指摘されたケースも紹介されています。売上に関する書類を破棄していたことが隠蔽行為と判断され、通常の加算税より重い重加算税も課されました。

その収入は「事業所得」?「雑所得」?──分かれ目は帳簿書類の保存

ネット収入の申告でつまずきやすいのが、所得区分の判断です。事業所得なら青色申告特別控除や損益通算が使えますが、雑所得ではそれらが使えません。ここを取り違えると、申告のやり直しや追徴につながります。

国税庁は令和4年10月の所得税基本通達の改正で、判定の考え方を次のように整理しています。まず原則は、その所得を得るための活動が「社会通念上、事業と称するに至る程度」で行われているかどうかで判定します。そのうえで、その所得に係る取引を記録した帳簿書類を保存しているかどうかが実務上の大きな目安になります。

年間の収入金額帳簿書類の記帳・保存あり帳簿書類の記帳・保存なし
300万円超概ね事業所得
(※個別判断となる場合あり)
概ね業務に係る雑所得
(事業所得と認められる事実があれば事業所得)
300万円以下概ね事業所得
(※個別判断となる場合あり)
業務に係る雑所得

※帳簿書類を保存していても、①収入金額が僅少と認められる場合(例えば例年300万円以下で、主たる収入に対する割合が10%未満)、②営利性が認められない場合(例年赤字で、赤字を解消するための取組を行っていない)には、事業と認められるかどうかを個別に判断することとされています。

ここから読み取れる実務上の結論はシンプルです。ネットビジネスを事業として続けるつもりなら、金額の大小にかかわらず、まず記帳して帳簿書類を保存すること。これが所得区分を安定させ、税務調査の場面で説明できる状態をつくります。

雑所得になる場合の書類保存の義務

雑所得だからといって、何も残さなくてよいわけではありません。業務に係る雑所得がある方には、前々年分の収入金額に応じて次の取扱いがあります。

  • 前々年分の収入金額が300万円超:請求書・領収書などの現金預金取引等関係書類の保存が必要です。
  • 前々年分の収入金額が1,000万円超:確定申告書に収支内訳書などの添付が必要です。
  • 前々年分の収入金額が300万円以下:その年に収入した金額・支出した費用で計算する「現金主義の特例」を選べます(適用を受ける旨を確定申告書に記載する必要があります)。

また、雑所得の計算上生じた損失は、給与所得など他の所得と損益通算できません。「赤字だから給与から差し引ける」と考えていると、修正が必要になります。

個人でネットビジネスをしている方の確定申告

アフィリエイトやオークションなどのネットビジネスで税金の問題が起きやすいのは、副業・小遣い稼ぎとして取り組む人が多く、納税意識が低くなりがちだからです。ここでは、ネットビジネスをしている個人の確定申告について整理します。記帳や申告そのものでつまずきやすい点は確定申告でありがちなミス|税務調査で指摘されやすい間違いと対策にまとめています。

確定申告が必要な人

ネットビジネスで得た所得は確定申告で申告します。確定申告はすべての人に必要なわけではなく、一定以上の所得がある人が対象です。考え方は、給与収入があるかどうかで分かれます。

  • 会社員など給与をもらっている人の副業:給与所得・退職所得以外の所得(ネットビジネスの所得など)が年間20万円を超えると、確定申告が必要です(この20万円のルールは令和7年分でも変わっていません)。
  • 給与収入がない人(専業の主婦・学生・無職など):所得(収入−経費)が基礎控除などの所得控除の合計額を超えると所得税が生じ、確定申告が必要です。

ここで注意したいのが、判断のベースになる基礎控除が令和7年度税制改正で見直され、合計所得金額に応じた段階的な金額になった点です。以前の解説でよく使われた「38万円」「48万円」という基準は最新ではありませんし、「令和7年分からは一律58万円」と覚えるのも正確ではありません。国税庁が示す金額は次のとおりです(2026年9月時点)。

納税者本人の合計所得金額令和7年分・令和8年分令和9年分以後
132万円以下95万円95万円
132万円超 336万円以下88万円58万円
336万円超 489万円以下68万円58万円
489万円超 655万円以下63万円58万円
655万円超 2,350万円以下58万円58万円
2,350万円超 2,400万円以下48万円48万円

※令和6年分以前は、合計所得金額2,400万円以下なら一律48万円(令和元年分以前は合計所得金額にかかわらず一律38万円)でした。合計所得金額が2,400万円を超えると控除額は32万円・16万円と段階的に減り、2,500万円を超えると0円になります。なお、令和7年分の上記規定は令和7年12月1日に施行されています。

つまり、給与収入がない人がネットビジネスだけで所得を得ている場合、その年の合計所得金額に対応する基礎控除(など)を超えるかどうかが確定申告の要否の目安になります。控除額の見直しで申告が必要になる水準も変わっているため、ご自身に当てはまる控除額は国税庁「No.1199 基礎控除」で当てはめて確認してください。なお、所得税の確定申告が不要な場合でも、お住まいの自治体への住民税の申告が別途必要になることがあります。

不用品を売っただけなら申告は不要です

フリマアプリの普及で増えているのが、「家にあった服や家具を売っただけでも申告が必要ですか」という質問です。税法上は、家具・じゅう器・通勤用の自動車・衣服など「生活に通常必要な動産」の譲渡による所得には、所得税は課税されません。不用品の整理として売った分は、原則として申告の対象外です。

ただし、次の2点には注意してください。

  • 貴金属・宝石・書画・骨とうなどで、1個または1組の価額が30万円を超えるものの譲渡による所得は、この非課税の対象から除かれます。
  • 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡は、生活用動産の売却ではなく事業所得または雑所得として扱われます。仕入れて売る「転売」を繰り返している場合は、こちらに当たります。

前述の調査事例で問題になったゲーム機・スマートフォンの転売は、まさに後者です。「フリマアプリで不用品を売っただけ」と「転売を反復している」は、税務上まったく別の扱いだと理解しておきましょう。

白色申告と青色申告

確定申告には白色申告と青色申告があります。副業レベルで収入が少ないうちは、手間の少ない白色申告でも構いません。一方、ネットビジネスで生計を立てているなど一定以上の収入がある方は、節税メリットの大きい青色申告を検討しましょう(青色申告特別控除の対象は事業所得・不動産所得・山林所得で、雑所得では使えません)。

青色申告特別控除は、複式簿記による記帳と、貸借対照表・損益計算書を添付した期限内申告などの要件を満たすと55万円を所得から差し引けます。さらに、期限内にe-Taxで電子申告するか、仕訳帳・総勘定元帳について「優良な電子帳簿」の要件を満たして電子データで保存し、届出書を提出すると、控除額は65万円になります。これらの要件に当てはまらない青色申告者は10万円です。手間はかかりますが、節税効果は大きい制度です。

なお、ネットビジネスの規模が大きくなった場合は、法人化が選択肢になることもあります。判断材料の一つが消費税で、基準期間(原則2年前)の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になります。法人化のメリット・デメリットは状況により異なるため、税理士に相談すると安心です。

インボイス制度と消費税

2023年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。ネットビジネスでも、取引先(販売先・広告主など)が仕入税額控除のために適格請求書(インボイス)の発行を求める場合があります。インボイスを発行するには適格請求書発行事業者の登録が必要で、登録すると売上規模にかかわらず消費税の課税事業者になります。自分の取引先や事業形態に登録が必要かどうか、早めに確認しておきましょう。

飲食料品を扱う方に関わるのが、消費税率をめぐる動きです。2026年8月5日に政府が「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定し、その経過措置として令和9年(2027年)4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品に係る消費税率を1%とする方針が示されました。その後、2026年9月11日に自民党と日本維新の会の税制調査会が、この減税を柱とする税制改正大綱案をそれぞれ了承したと各社が報じています。報道によれば、引き下げ期間は「臨時的に2年限り」と明記され、政府は9月15日の閣議決定を目指し、関連法案は10月召集が見込まれる臨時国会に提出される見通しです。

ただし、2026年9月12日時点で進んでいるのは「政党の税制調査会が大綱案を了承した」段階までで、閣議決定も法案の成立もこれからです。対象品目の細目や経過措置は確定していません。ネットで飲食料品を販売している方は、実施されれば税率が複数並走することになり、受注・レジ・帳簿の税率区分やシステム改修に影響し得ます。準備の検討を始めるのは早すぎませんが、「決まったこと」として値付けや契約に織り込むのはまだ避けるべき段階です。

ネットビジネスの経費について

個人のネットビジネスはパソコンと作業スペースがあれば始められるため、利益率が高くなりがちです。一方で経費として認められるものも多いので、適切に計上して節税につなげましょう。代表的な経費は次のとおりです。

  • パソコン代
  • 通信費
  • 電気代
  • レンタルサーバー代
  • 情報商材・教材費
  • 書籍代
  • 郵送代
  • 交通費
  • 家賃
  • その他ネットビジネスに要した費用

家賃は、自宅と事業の両方で使っている場合、事業に使う割合(家事按分)の分だけを経費に計上します。通信費・電気代も同様に、プライベートと兼用なら全額を経費にはできません。按分の割合に迷うときは税務署や税理士に相談しましょう。なお、パソコンなど使用可能期間が1年以上で一定金額を超えるものは、その年に全額を経費とせず減価償却で分割して計上するのが原則です。

セミナー参加費なども経費として認められます。領収書は必ず保管し、裏面に用途をメモしておくと、税務調査の際に何の支出かを説明する証拠になります。

よくある質問(FAQ)

Q. フリマアプリで不用品を売っただけでも申告が必要ですか?

A. 衣服や家具など「生活に通常必要な動産」を売った所得には所得税が課税されないため、原則として申告は不要です。ただし1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・宝石・書画・骨とうは対象外で、仕入れて売る転売を反復している場合は事業所得または雑所得になります。

Q. 副業のネット収入は事業所得と雑所得のどちらになりますか?

A. 社会通念上、事業と称する程度で行っているかどうかで判定します。実務上は取引を記録した帳簿書類を保存しているかが大きな目安で、保存がない場合は、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除き、業務に係る雑所得となります。

Q. 暗号資産の利益は何所得になりますか?

A. 原則として雑所得(その他雑所得)に区分され、総合課税で申告します。その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合は、帳簿書類の保存があれば原則として事業所得、保存がなければ原則として業務に係る雑所得となります。なお、暗号資産の証拠金取引はFXと異なり申告分離課税の対象ではなく、総合課税です。

Q. 税務署から「お尋ね」の文書が届いたら、どうすればよいですか?

A. 件数としては実地調査よりもこの「簡易な接触」のほうがはるかに多く、いきなり調査官が来るとは限りません。まずは取引履歴・入出金・経費の資料を整理し、期限までに事実に沿って回答することが大切です。金額が大きい、複数年にわたるなど不安がある場合は、回答前に税理士へご相談ください。

Q. ネットの取引は匿名だから分からないのでは?

A. プラットフォームには取引記録が残り、税務署はプラットフォーム事業者へ情報照会を行うこともあります。匿名性を理由に申告漏れが見逃されるわけではありません。

Q. 過去に申告していなかったらどうすればよいですか?

A. 自分から早めに期限後申告・修正申告をすれば、調査で指摘されてから申告するよりペナルティ(加算税)が軽くなります。まずは税理士に相談しましょう。

まとめ

ネットビジネスの市場は年々拡大しており、それに伴い税務調査の件数も増えています。情報技術専門官による調査体制の整備が進み、シェアリングエコノミーや暗号資産の取引、無申告者への調査は1件当たりの申告漏れ金額が平均を上回る重点分野になっています。一方で、日々の接点として多いのは実地調査よりも文書・電話による「簡易な接触」です。

備えとしてやるべきことは、突き詰めれば2つです。取引を記録して帳簿書類を保存すること(これは所得区分の判定にも直結します)、そして自分に当てはまる申告の要否を最新の控除額で確認すること。この2点ができていれば、連絡が来ても落ち着いて説明できます。判断に迷うときは、税務調査に強い税理士に相談しましょう。

※基礎控除の金額や消費税をめぐる制度は改正の途中にあり、記載は2026年9月12日時点の内容です。確定した取扱いは国税庁・財務省の公式情報でご確認ください。

【参考】

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税務調査官とは?なり方・採用試験と調査で見られる点を解説

帳簿と資料を確認する税務調査官のイメージ
税務調査官は、国税局や税務署に所属し、申告の内容が正しいかどうかを調べる国家公務員です。ドラマで描かれる強制調査(いわゆる「マルサ」)を担うのは別の職名で、一般の事業者が実際に対面するのは原則として「国税調査官」——通常の税務調査は、脱税の摘発ではなく申告内容の確認です。どんな試験と研修を経た人が、何を見に来るのか。相手の輪郭がつかめるだけでも、当日の受け答えはずいぶん落ち着きます。

税務調査官は国税局・税務署に勤める国家公務員

税務調査官とは、国税局や税務署に勤務し、税務調査を行うための専門的な教育を受けてきた職員のことです。立場としては国家公務員であり、調査官への入口となる採用試験は主に次の2つです。
  • 税務職員採用試験……高校卒業程度の人を対象とした試験
  • 国税専門官採用試験……大学卒業(見込みを含む)程度の人を対象とした試験
受験資格は年度ごとに定められており、2026(令和8)年度実施の試験では次のようになっています(人事院 税務職員採用試験/同 国税専門官採用試験・2026年9月確認)。
  • 税務職員採用試験……2026年4月1日において、高等学校または中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して3年を経過していない人(2023年4月1日以降に卒業した人が該当)と、2027年3月までに卒業する見込みの人
  • 国税専門官採用試験……1996年4月2日〜2005年4月1日生まれの人。加えて、2005年4月2日以降に生まれた人でも、大学(短期大学を除く)を卒業した人・2027年3月までに卒業見込みの人は受験できます
つまり国税専門官は「年齢だけ」で線が引かれているわけではなく、若くても大学卒業(見込み)であれば受験できる仕組みです。なお国税専門官採用試験は2023年度から「国税専門A(法文系)」と「国税専門B(理工・デジタル系)」の2区分に分かれており、理数系の基礎知識を問うBの枠が別に設けられています。税務行政のデジタル化にともない、法律・会計だけでなくICTの素養を持つ人材も採られるようになった、ということです。 これらの採用試験に合格すれば調査官への道が拓かれますが、合格時点で税務の専門知識が深い人はごく少数です。そのため、合格後は国税庁が所管する「税務大学校」で体系的な教育を受けることになります。

税務大学校の研修は採用後も段階的に続く

採用後の研修は、税務職員採用試験と国税専門官採用試験で内容が異なります。 税務職員として採用された人は、税務大学校の地方研修所に全寮制で入校し、約12か月の「普通科」研修を受けます。税法科目のほか簿記会計学や法律・経済科目まで幅広く学び、1年のうち最後の3か月ほどは税務署での実地研修にあてられます。配属後の実務へスムーズに移れるようにするためで、班は15人程度に分けて編成されます。 国税専門官として採用された人は、まず約3か月間の「専門官基礎研修」で税法・簿記などの基礎を学んでから各税務署に配属され、その後約1か月間の「専攻税法研修」を受講します。さらに約2年間の実務経験を積んだうえで、約7か月間の「専科研修」に進み、ここを経て国税調査官・国税徴収官などに任用されます。採用されたその日から「調査官」なのではなく、数年かけて任用される——これが実際の姿です。

2つの採用試験の違い(早見表)

比較の観点税務職員採用試験国税専門官採用試験
対象高校卒業程度大学卒業(見込み含む)程度
2026年度の主な要件2026年4月1日時点で高校等の卒業から3年以内、または2027年3月卒業見込み1996年4月2日〜2005年4月1日生まれ。以降の生まれでも大学卒業(見込み)なら可
試験の区分地域ごと(北海道・東北・関東甲信越ほか9区分)国税専門A(法文系)/国税専門B(理工・デジタル系)
2026年度の第1次試験日9月6日(日)5月24日(日)
採用後の研修税務大学校(地方研修所・全寮制)で約12か月の普通科研修。最後の約3か月は税務署での実地研修専門官基礎研修 約3か月 → 税務署へ配属 → 専攻税法研修 約1か月 → 実務約2年 → 専科研修 約7か月
仕事内容採用試験は異なるが、配属後の業務内容(税務調査・徴収など)は基本的に同じ

2026年度はどれくらいの人が受け、何人が合格したのか

「調査官になるのは狭き門なのか」は気になるところでしょう。人事院が公表した2026年度の実施状況では、国税専門官採用試験の申込者は9,693人、最終合格者は3,385人でした。倍率は申込者ベースで2.9倍、受験者ベースで2.0倍です(人事院「国税専門官採用試験実施状況」2026年8月12日更新)。
2026年度 国税専門官採用試験の申込者9,693人・第1次試験受験者6,679人・最終合格者3,385人を比べた棒グラフ
申込者ベースの倍率は2.9倍、受験者ベースでは2.0倍でした(国税専門A・Bの合計)。
区分別に見ると、国税専門Aが申込9,369人・最終合格3,291人(申込ベース2.8倍)、国税専門Bが申込324人・最終合格94人(同3.4倍)。採用予定数は国税専門A 約1,000名・国税専門B 約100名と案内されており、最終合格者は辞退者を見込んで多めに決定される仕組みです。合格=採用ではなく、合格者名簿(5年間有効)に載ったうえで面接を経て採用先が決まります。 高校卒業程度の税務職員採用試験は、2026年度の申込者が3,216人。第1次試験は9月6日に行われ、第1次試験合格者の発表は10月8日、最終合格者の発表は11月17日と案内されています。 給与面では、国税専門官の採用当初の額は318,480円(税務職俸給表1級22号俸・東京都特別区に勤務する場合/2026年4月1日の例)、地域手当が支給されない地域では265,400円とされています。ここに扶養手当・住居手当・通勤手当などの諸手当と、年間で俸給等の約4.65月分の期末・勤勉手当が加わります。

「調査官」「徴収官」「査察官」はどう違うのか

国税の職場には、名前の似た職名がいくつかあります。それぞれの役割は次のように分かれています。
  • 国税調査官……納税義務者である個人・法人を訪ね、適正な申告が行われているかの調査・検査を行い、申告に関する指導もあわせて行う
  • 国税徴収官……定められた納期限までに納付されない国税の督促や滞納処分を行い、納税に関する指導を行う
  • 国税査察官……裁判官の許可を得て、悪質な脱税者に対する捜索・差押えなどの強制調査を行い、刑事責任を追及するために告発する
一般の事業者が受ける任意調査で対応するのは、原則として「国税調査官」です。テレビドラマで描かれる、いわゆる「マルサ」の強制調査(査察)とは、根拠となる手続きも目的も異なります。通常の税務調査=脱税の摘発、ではありません。この点を取り違えると必要以上に不安が大きくなるため、まず整理しておきたいところです。調査そのものの種類や、どこが担当するのかは税務調査とは?目的・種類・対象の選ばれ方と担当組織で詳しく整理しています。

数字で見る税務調査(令和6事務年度の調査事績)

国税庁は毎年、その年に処理した調査の実績を公表しています。令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月に処理を終えた分。2025年12月公表)の法人に対する調査事績は次のとおりです。
  • 法人税等の実地調査の件数……5万4千件(前年比▲7.4%)
  • 申告漏れ所得金額の総額……8,198億円(同▲15.8%)
  • 実地調査による追徴税額(法人税・消費税)……3,407億円(同+6.6%/直近10年で最高)
  • 調査1件当たりの追徴税額……634万2千円(同+15.4%)
  • 法人税の不正発見割合……23.5%(前年から+1.2ポイント)
注目したいのは、実地調査の件数はむしろ減っている一方で、1件当たりの追徴税額は増えている点です。件数を広く追うより、調査が必要と見込まれる先を絞り込む方向にあることがうかがえます。どのような会社が絞り込まれやすいのかは税務調査で狙われやすい会社・業種とはと税務調査が入る基準でまとめています。 また、国税庁は実地調査とは別に、書面照会・電話連絡・来署依頼といった「簡易な接触」も行っています。法人税・消費税に関する簡易な接触は同じ事務年度で8万5千件(同+13.4%)と、実地調査の件数を上回りました。簡易な接触による申告漏れ所得金額は565億円、追徴税額は265億円です。
令和6事務年度の実地調査5万4千件と簡易な接触8万5千件を比べた棒グラフ
税務署からの連絡は実地調査だけではなく、書面照会・電話連絡・来署依頼といった「簡易な接触」のほうが件数は多くなっています。
税務署から連絡が来た=必ず実地調査、ではありません。まずは何についての連絡なのかを落ち着いて確認することが大切です。 なお、法人税・消費税とは別に源泉所得税の実地調査も6万4千件(前年比▲6.7%)行われており、うち非違があったのは2万1千件、追徴税額は404億円でした。給与や報酬の源泉徴収は「本業の利益とは別」と思われがちですが、調査の対象としては同じ土俵に載っています(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」)。

税務調査官に「ノルマ」はあるのか

税務調査と聞くと、「回収する税額にノルマがあるのではないか」と気になる方もいるでしょう。国税庁は金額のノルマを公式に設けているわけではありませんが、実務上は調査の件数や成果が、調査官の評価に関わるといわれます。

調査件数

調査官は一定の調査件数をこなすことが求められるといわれます。件数を達成できなくても直接のペナルティがあるわけではありませんが、評価に関わる要素とされており、現場では重視されると考えられます。

「増差」とは

評価に関わるもう一つの要素として、しばしば挙げられるのが「増差(ぞうさ)」です。増差とは、当初の申告額よりも多く把握された税額、つまり調査によって追加で課されることになった税額のことを指します。件数をこなしたうえで、こうした成果がどれだけ上がったかも、調査官の評価につながると考えられています。

税務調査官がチェックするポイント

調査官がどこを見ているのかを知っておくと、調査を受けたときの対応がスムーズになります。

現場に向かう前の準備

調査官は実際に現場へ向かう前に、統括官から対象法人の資料を受け取ります。その際、なぜその法人が調査対象になったのかという理由も共有されることが多いものです。調査官はその資料をもとに、どこを重点的に調べるかの計画を立て、十分に準備を整えたうえで現場にやってきます。 近年は、この「調査先の選び方」自体が変わってきています。国税庁は、AIを活用した予測モデルで調査の必要度が高い法人を抽出し、想定される不正のパターン(売上・原価・経費など)を判定する取り組みを進めていることを公表しています。ただし、最終的に調査を実施するかどうかを判断するのは調査官自身とされており、AIの判定に申告書や国税組織が持つ資料情報を重ねて分析したうえで決められます。 実務上の意味はシンプルです。決算書の数値が過去と比べて不自然に動いていないか、その説明が資料で裏づけられるか——ここを整えておくことが、そのまま備えになります。

臨場調査でのポイント

臨場調査は、実際に納税者と対面して行う調査です。ここで確認されているのは、おおまかにいえば「会社の実態と経理処理の整合性」です。設備や事業内容に変化があった場合、それが経理にどう反映されているか、説明と資料に食い違いがないか、といった点が見られます。

現物確認でのポイント

現物確認では、金庫の中などをチェックします。預金通帳などを確認し、帳簿に載っていない簿外の預金がないかを確かめます。帳簿に記録されていない通帳などが見つかると、さらに深い調査につながることがあります。とくに同族会社では、この部分が入念に確認される傾向があります。

よくある質問(FAQ)

Q. 調査官は何人で来ますか?

A. 規模や事案によりますが、個人事業者や小規模法人では1〜2名で行われることが一般的です。大規模法人や複雑な事案では、複数名・複数日にわたることもあります。

Q. 税務署から電話が来たら、それは税務調査ですか?

A. 必ずしもそうとは限りません。国税庁は実地調査のほかに、書面照会・電話連絡・来署依頼といった「簡易な接触」により申告内容の自発的な見直しを求める取り組みも行っています。令和6事務年度は、法人税・消費税の簡易な接触が8万5千件と実地調査(5万4千件)を上回りました。まずは用件・対象の税目・対象年分を確認し、そのうえで対応を考えれば十分です。

Q. 税務調査官になるには何年かかりますか?

A. 国税専門官の場合、採用後に約3か月の専門官基礎研修を受けて税務署に配属され、約1か月の専攻税法研修、約2年の実務経験、約7か月の専科研修を経て国税調査官・国税徴収官などに任用されます。採用からおおむね3年前後を要する流れです。

Q. 調査官に強い口調で来られたら、言い返してよい?

A. 感情的に対立する必要はありません。事実に基づいて、わからないことは「確認して回答します」と落ち着いて伝えれば十分です。不安が大きい場合は、元国税調査官が在籍する事務所など、税務調査に詳しい税理士に立ち会いを依頼すると安心です。

Q. 「増差を稼ぎたいから厳しく見られる」って本当?

A. 調査官個人の評価事情にかかわらず、日頃から正しく記帳し、根拠資料をそろえておくことが最大の備えです。説明できる状態を整えておけば、過度に身構える必要はありません。

Q. AIで選ばれたら、もう何を言っても覆らないのでしょうか?

A. そのようなことはありません。国税庁の説明でも、AI・データ分析は調査必要度の高い法人を「抽出」する段階での活用であり、調査を行うかどうかの最終判断は調査官が行うとされています。調査の場でも、取引の実態を資料で説明できるかどうかが結論を左右する点は変わりません。

※受験資格・試験日程・研修内容・調査事績の数値は、年度や制度改正によって変わります。最新情報は人事院・国税庁の公式サイトでご確認ください。

税務調査が入りやすい業種は?法人・個人別の最新データで解説

帳簿や領収書を整理して税務調査に備える事業者のイメージ
結論:法人でもっとも税務調査で不正が見つかりやすいのはバー・クラブ(不正発見割合62.3%)で、上位は現金取引の多い飲食・美容・建設が占めます。個人事業主では指標が変わり、1件当たりの申告漏れ所得金額が最も大きいのはキャバクラ(4,164万円)、次いで眼科医(3,894万円)です。ただしこれは「調査対象を限定するリスト」ではありません。共通しているのは「記録が残りにくく、第三者が検証しにくい」という構造で、業種にかかわらず売上や利益の急変・経費の突出があれば対象になり得ます。
  • 法人と個人で、国税庁が公表している業種ランキングの指標が違う理由
  • 令和6事務年度の最新データが示す「件数は減り、1件あたりの追徴は増える」流れ
  • 業種のタイプ別に、あらかじめそろえておきたい資料
税務調査に入られやすい業種と会社のパターン、そして調査官が「どこを見て対象を選んでいるのか」を、国税庁が公表している最新データ(令和6事務年度・令和7年12月公表)にもとづいて解説します。あわせて、法人と個人事業主では、国税庁が公表している「業種ランキング」の指標そのものが違うという、見落とされやすい点も整理しました。該当する項目があっても、正しく記帳し、適正に申告していれば恐れる必要はありません。傾向を知り、備えるための材料としてお読みください。

データで見る「いまの税務調査」――件数は減り、1件あたりの追徴は増えている

国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和6年7月~令和7年6月に処理を終了した調査を集計)によれば、法人に対する実地調査の件数は5万4千件で、前事務年度の5万9千件から7.4%減りました。申告漏れ所得金額の総額も8,198億円と、前年比15.8%減っています。 その一方で、法人税・消費税を合わせた追徴税額の総額は3,407億円と直近10年で最高になり、調査1件当たりの追徴税額は634万2千円(前年比15.4%増)と、直近10年で2番目に高い水準になりました。実地調査のうち不正計算が見つかった割合(不正発見割合)も23.5%と、前年から1.2ポイント上がっています。 つまり、税務当局は「調査の数を絞り、調査の必要度が高い先を選んで深く調べる」方向に舵を切っています。同資料では、AIを活用した予測モデルで調査必要度の高い法人と想定される不正パターンを判定し、申告書や保有資料と併せて分析したうえで、調査官が最終的に調査の要否を判断する仕組みが紹介されています。「うちは小さいから見られない」という発想は、以前ほど通用しなくなったと考えたほうがよいでしょう。 なお、見落とされがちですが、源泉所得税の実地調査は法人税の調査とは別に6万4千件行われています。追徴税額の総額は404億円(直近10年で2番目の高水準)で、調査1件当たりの追徴税額は63万3千円と直近10年で最高値になりました。役員・従業員への支払いだけでなく、非居住者や外国法人への支払い(報酬・使用料など)の源泉徴収漏れも指摘の対象になります。「法人税と消費税さえ合っていればよい」わけではない点は押さえておいてください。
令和6事務年度の不正発見割合が高い10業種を示す横棒グラフ
現金取引の多い業種が上位に並びます(令和6事務年度)。

【法人】不正発見割合が高い10業種(令和6事務年度)

すべての会社を調査することは不可能なので、税務署はある程度ターゲットを絞り込みます。過去に不正のあった会社は調査の間隔が短くなる傾向があり、不正が多い業種は、それだけ調査の対象になりやすいと考えられます。 国税庁が公表している「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」によれば、不正発見割合が高い10業種と、不正1件当たりの不正所得金額は次のとおりです。
順位・業種不正発見割合不正1件当たりの不正所得金額前年順位
1 バー・クラブ62.3%約4,466万円1位
2 その他の飲食45.2%約3,176万円2位
3 外国料理40.2%約902万円3位
4 美容34.5%約3,166万円5位
5 大衆酒場、小料理34.4%約1,770万円―
6 自動車修理32.9%約638万円―
7 船舶31.0%約1,630万円9位
8 土木工事30.4%約1,750万円4位
9 職別土木建築工事30.1%約1,694万円7位
10 中古品小売30.1%約2,713万円―
バー・クラブは前年に続きトップで、不正発見割合は62.3%と高水準です。上位には、不特定多数の個人を相手に現金でやり取りする業種が並びます。会社同士の取引と違い、注文書や請求書が必ずしも発行されないため、売上の計上を省くことが物理的に可能になってしまうからです。 土木・建築関係は、日雇いの労働者へ現金で報酬を支払い、支払いの記録が十分に残っていない、あるいは受け取った側が申告していないといったケースが目立ちます。 金額の面では、割合の順位と必ずしも一致しない点にも注目してください。たとえば外国料理は不正発見割合こそ3位ですが、不正1件当たりの不正所得金額は約902万円で、上位10業種のなかでは小さいほうです。「見つかりやすさ」と「見つかったときの大きさ」は別の話であり、調査官はどちらの観点からも対象を検討しています。 この10業種に入っていない業種でも、現金取引が多ければ調査のターゲットになり得ます。現金商売そのものが悪いのではなく、「記録が残りにくい=第三者が検証しにくい」という構造が、調査官の関心を引くのだと理解しておいてください。

【個人事業主】見るべき指標は「不正発見割合」ではなく「申告漏れ所得金額」

ここは混同されやすいところです。上の10業種は法人の調査結果であり、国税庁が個人について公表しているのは「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」という別の指標です。「不正が見つかった割合」ではなく「1件あたりいくらの申告漏れが見つかったか」を示すもので、法人のランキングと直接は比べられません。 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)による上位10業種は次のとおりです。
個人事業主の1件当たり申告漏れ所得金額が高額な上位10業種を示す横棒グラフ
現金商売に加え、眼科医・経営コンサルタント・システムエンジニアなどの専門職も上位に入っています(令和6事務年度・特別調査/一般調査)。
順位・業種1件当たりの申告漏れ所得金額1件当たりの追徴税額(加算税含む)前年順位
1 キャバクラ4,164万円1,474万円―
2 眼科医3,894万円964万円―
3 ホステス、ホスト2,968万円475万円2位
4 経営コンサルタント2,734万円878万円1位
5 太陽光発電2,142万円757万円7位
6 バー1,968万円425万円12位
7 コンテンツ配信1,936万円462万円3位
8 ブリーダー1,876万円498万円5位
9 スナック1,873万円353万円9位
10 システムエンジニア1,631万円287万円17位
(注)「前年順位」は前事務年度の上位20位に入っていた業種のみ記載されています(「―」は圏外)。この集計は特別調査・一般調査の結果にもとづくものです。 現金商売が並ぶ点は法人と共通しますが、個人では眼科医・経営コンサルタント・システムエンジニア・コンテンツ配信といった専門職や1人事業が上位に入っているのが特徴です。売上先が限られていても、報酬の受取方法が複数にまたがっていたり、自宅兼事務所の家事按分があいまいだったりすると、金額の大きな指摘につながります。システムエンジニアが前年の17位から10位へ上がったことからも、対象が「夜の商売」に限られないことがわかります。 個人に対する調査全体の規模も押さえておきましょう。令和6事務年度の所得税の「調査等」(実地調査+簡易な接触)は73万6千件で前事務年度の60万5千件から増加し、追徴税額の総額は1,431億円と過去最高でした。このうち実地調査は4万7千件で、1件当たりの追徴税額は241万円(特別調査・一般調査に限れば299万円)です。件数の伸びを支えているのは、臨場しない「簡易な接触」(文書・電話・来署依頼)で、こちらは68万9千件に達しています。税務署からの1通の「お尋ね」も、調査等の一部と考えて丁寧に対応してください。 個人事業主の調査については、個人事業主にも税務調査は入る?対象になる理由と対策もあわせてご覧ください。

業種の一覧に載っていなくても見られている――譲渡所得・富裕層・消費税

業種ランキングは調査の入口のひとつにすぎません。同じ資料には、業種とは別の切り口で調査対象が選ばれていることがはっきり表れています。

不動産・株式の譲渡は「調査等の8割で非違」

令和6事務年度の譲渡所得に関する調査等は1万6千件で、そのうち申告漏れなどの非違があったのは1万3千件=非違割合80.4%、申告漏れ所得金額は1,541億円でした。株式等に限れば非違割合は90.7%に達します。取得費の計算、特例の適用要件、複数の証券口座の合算など、間違えやすい論点が多い分野です。自宅や相続した不動産を売った年、株式や金地金を売った年は、業種にかかわらず確認されやすいと考えてください。

「富裕層」は業種ではなく資産と所得で選ばれる

有価証券・不動産の大口所有者や経常的な所得が特に高額な個人は、業種と関係なく調査対象として位置づけられています。令和6事務年度の富裕層に対する調査の1件当たり追徴税額は855万円で、所得税の実地調査(特別・一般)全体の299万円の2.9倍。海外投資を行っている富裕層に限ると1,595万円(5.3倍)です。CRS情報(非居住者金融口座情報)や国外送金等調書が活用されており、国外の口座や不動産は「見えていない」わけではありません。

個人事業者の消費税は「調査等」が前年の1.5倍に

見落とされがちなのが消費税です。個人事業者の消費税の調査等(実地調査+簡易な接触)は18万5千件と前事務年度の12万件から約1.5倍に増えました。伸びているのは臨場しない簡易な接触で、9万4千件から15万7千件へと大幅に増加しています。インボイス制度の開始で課税事業者が増えたことを踏まえ、所得税は合っていても消費税の届出・区分・税額計算で誤りがないかを確認しておきましょう。

税務署が調査に入る会社のパターン

税務署はやみくもに調査を行うわけではありません。調査が行われる会社には一定の傾向があります。 代表的な特徴をご紹介しますので、当てはまっていないかどうか確認してみましょう。

設立して3期程度の確定申告を終了した会社

税務調査は設立してすぐの会社には基本的に入りません。だいたい設立3年以降の会社が税務調査の対象になりやすくなります。 また多くの企業は設立から10年以内に一度は税務調査を受けますが、これはその会社がどのような事業をしているのかを把握するためでもあり、必ずしも脱税を疑って調査に入るわけではありません。

前回調査から5年以上経過している会社

確定申告に特に異常な計数もなく、資料にも不備が見られない会社は通常、調査の対象から外れますが、前回調査から5年以上が経過し、売上金額や申告所得がある程度ある会社は、定期的な確認の意味で調査の対象になる場合があります。

以前の調査で大きな追徴課税を受けた会社

前回の調査で不正な処理が見つかり、大きな追徴課税を受けた会社は、その後きちんと是正されているかを確認する必要があるため、以後も調査の対象になりやすくなります。

売上や粗利益率などが大きく変化している会社

売上が前期に比べて大きく増加しているのに、営業利益や申告所得が減っていたり、経費が例年より多かったりする会社は、その理由を確認するために調査の対象になる可能性があります。変化そのものではなく、「変化の理由を説明できるか」が問われます。

売上の計上時期を変更している会社

売上を計上する時期が不自然に変わっている場合、利益の出る時期をずらしていると見られ、調査の対象となりやすくなります(期ズレは調査で最も指摘の多い論点の一つです)。

過度に経費が計上されている会社

経費が過大に計上されていると調査が入りやすくなります。 特に、突然経費計上が増えた場合や、同業他社と比べて経費の割合が明らかに多い場合は要注意です。納税を不当に抑えようとしていると見なされることがあります。 国税庁が公表しているAI活用の調査事例でも、取引実態のない外注費、偽りの請求書による原価の水増し、架空の人件費といった手口が把握されたことが紹介されています。原価や経費の不自然な増加は、決算書の分析で真っ先に目に留まる部分です。

大きな利益を出している会社

利益が大きい会社は、仮に誤りがあったときの税額への影響も大きいため、調査の優先度が上がりやすい傾向にあります。好調なときほど、会計処理は丁寧に。

急激に事業規模が拡大している会社

急拡大している会社は、業務量に経理体制が追いつかず、処理漏れが起きやすいため調査の対象になりやすい傾向があります。赤字であっても調査の対象になることはありますので、規模の拡大期こそ会計処理には細心の注意が必要です。

現金収入の多い会社

現金収入の多い会社は、売上の計上漏れや不正な領収書の利用が起こりやすいため、調査のターゲットになりやすいといえます。 規模の小さなお店であっても、証拠があれば当然に追徴課税の対象となります。

内部告発があった会社

内部告発は、経営者の身内や従業員などから寄せられることがあります。税務署にとっては価値の高い情報で、内部告発をきっかけに調査へ発展するケースは少なくありません。 日頃から税理士の指導のもとで正しい経理処理を心掛けることが、結局は最善の備えになります。

メディアに取り上げられた会社

テレビ・新聞・雑誌・ネットなどで話題になった会社は、売上が急に伸びるケースが多く、調査の対象となりやすくなります。目立つ会社ほど、当局の目にも留まりやすいという側面があります。

実体のない関連会社がある会社

利益をプールする目的でコンサル会社などの関連会社を設立し、実質的な活動がないまま多額の支払いを計上している――このような形は、調査で必ずと言ってよいほど確認されます。関連会社間の取引は、実体(役務提供の内容・時間・成果物)を説明できる資料をそろえておくことが不可欠です。

取引先が税務調査された会社

取引先の調査をきっかけに、こちらにも調査が入ることがあります(反面調査)。その際は、取引先の売上と自社の経費、数量、単価などが一致しているかが確認されます。

税理士を通さず確定申告をしている個人事業者

個人事業主の場合、売上が1,000万円を超えていても、確定申告を税理士に依頼せず自分で行う人が多くいます。 その結果、帳簿や書類に不備が生じやすく、調査の対象となりがちです。

ある特定の経費が突出して多い事業者

年間の売上に対して、旅費交通費や接待交際費などが突出して多いケースはよく見られます。 個人事業主の交際費は法人のような損金算入の上限がない一方、事業との関連性(誰と・何の目的で)が説明できなければ経費として認められません。これが調査のきっかけになりやすいのです。

景気がよい業種や実態の掴みづらい業種は狙われやすい

税務署では、毎年どの業種を重点的に調査するかを決めています。不正発見割合が高い業種以外で対象となりやすいのは、景気がよく売上・利益が伸びている業種です。調査する側からすれば、赤字続きの業種より、時代の波に乗って利益を上げている業種を選ぶほうが効率的だからです。

好調業種・実態の掴みづらい業種は狙われやすい

景気は変動し、儲かる業種も年によって変わるため特定の業種を固定的に挙げることはできませんが、売上が急伸している業種や、現金取引・訪日客対応が多い業種は特に注意が必要です。インバウンド需要で好調な宿泊・飲食・小売業は、近年、税務当局の関心が高い分野です。また、IT系・コンテンツ販売など実態が把握しにくい業種には、専門の調査チームが組まれています。

副業・小遣い稼ぎも対象になる

インターネット通販やアフィリエイト広告、フリマアプリやSNSを通じた販売収入など、実態が掴みにくい収入についても、国税局は専門の調査チームを組んで対応を強化しています。数字にもはっきり表れており、令和6事務年度はシェアリングエコノミー等の新分野の取引を行う個人への実地調査が1,155件(1件当たりの申告漏れ所得金額1,595万円・1件当たりの追徴税額305万円)、暗号資産等の取引を行う個人への実地調査が613件(1件当たりの追徴税額745万円)行われました。暗号資産の1件当たり追徴税額は、所得税の実地調査(特別・一般)全体の299万円の2.5倍です。 副業としてお小遣い稼ぎ程度に考えていたものでも、軌道に乗って売上が見込めるようになったら、きちんと帳簿を付けて確定申告をしておくことが必要です。詳しくはネット収入も税務調査の対象に|最新調査データと確定申告の基準で解説しています。 2023年10月に開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、誰が課税事業者で誰が免税事業者かの把握が進み、取引の記録も残りやすくなりました。事業規模が小さくても、無申告や過少申告にはリスクが伴います。

無申告は「調査が入ったとき」の負担がもっとも重い

業種以上に注意したいのが、そもそも申告をしていない状態です。令和6事務年度に所得税の無申告者へ行われた実地調査(特別・一般)は4,812件で、1件当たりの追徴税額は524万円と過去最高になりました。所得税の実地調査全体(299万円)の1.8倍です。消費税の無申告者に対する1件当たりの追徴税額も296万円と、こちらも過去最高を更新しています。 法人も同様で、無申告法人に対する実地調査は法人税2,089件・消費税1,767件と前年より増え、追徴税額の合計は約355億円に達しました。追徴が重くなる大きな理由は、無申告や仮装・隠蔽があった場合に本来の税額に上乗せされる加算税です。税率と仕組みは重加算税とは?税率の仕組みと課されないための対策で整理しています。 「申告が必要かどうか分からない」まま放置するのが、いちばん高くつきます。迷ったら、期限内に申告したうえで、後から必要に応じて修正するほうが負担は軽く済みます。

業種のタイプ別・見られやすい論点と備え

自社がどのタイプに近いかを確認し、あらかじめ「説明できる資料」をそろえておくことが、いちばんの調査対策です。
業種のタイプ見られやすい論点そろえておきたい資料
飲食・バー・美容など現金商売売上の計上漏れ、レジ記録との整合、自家消費日報・レジジャーナル・予約台帳・仕入との対応関係
建設・土木・職別工事外注費と給与の区分、期ズレ(完成基準)、日雇いへの現金支払請負契約書・作業日報・支払明細・工事ごとの原価集計
小売・EC・中古品在庫の計上、ネット売上の網羅性、送料・手数料の処理棚卸表・プラットフォームの売上明細・決済口座の履歴
IT・コンテンツ・広告売上の帰属時期、外注先の実体、海外取引・源泉徴収業務委託契約書・成果物・請求書・入出金の記録
医療(自由診療の比率が高い)保険外収入の計上、窓口現金の管理、自費メニューの単価と件数レセプトと自費売上の区分帳票・予約/施術記録・釣銭金の管理記録
個人事業・副業経費の事業関連性(交際費・車両費など)、家事按分、無申告帳簿・領収書(用途のメモ付き)・按分の根拠

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よくある質問

Q. 不正発見割合の上位10業種に入っていなければ、調査は来ませんか?

A. いいえ、来ます。10業種はあくまで「不正が見つかった割合が高い業種」であり、調査対象を限定するリストではありません。上位に入っていない業種でも、現金取引が多い、売上や利益が急に変動している、前回調査から年数が経っているなどの事情があれば、調査の対象になり得ます。

Q. 法人のランキングと個人のランキングは、どちらを見ればよいですか?

A. 自社の形態に合うほうを見てください。法人は「不正発見割合」、個人事業主は「1件当たりの申告漏れ所得金額」と、公表されている指標そのものが違うため、両者を並べて「どちらが危険か」を比べることはできません。法人成りを検討している方は、両方に目を通しておくと、業種としてどこを見られやすいかがつかめます。

Q. 赤字が続いていれば調査は来ませんか?

A. 赤字であっても調査は行われます。法人税が発生しなくても、消費税や源泉所得税に誤りがあれば追徴の対象になりますし、赤字の原因(過大な経費計上や売上除外)そのものが調査の動機になることもあります。「赤字だから安心」とは考えないでください。

Q. AIで調査先が選ばれていると聞きました。何か対策はありますか?

A. 国税庁は、AIを活用した予測モデルで調査必要度の高い法人と想定される不正パターンを判定し、申告書や保有する資料情報と併せて分析していることを公表しています。対策は「AIを避けること」ではなく、数値の異常に見える動きに理由をつけて説明できる状態にしておくことです。売上や利益率が大きく動いた期は、その要因(新規取引・単価改定・一時的な費用など)をメモとして残しておくと、調査時の説明がスムーズです。

Q. 現金商売ですが、どこまで記録を残せばよいですか?

A. 売上の総額が第三者の記録(レジ、予約台帳、仕入数量、キャッシュレス決済の履歴など)と突き合わせできる状態にしておくことが基本です。売上を記録した日報とレジのジャーナル、預金への入金額が整合していれば、調査官の疑問の多くはその場で解消します。

Q. 副業やネット販売でも調査は入りますか?

A. 入ります。国税局は電子商取引専門の調査チームを設けており、プラットフォーム側から取引情報を入手する仕組みもあります。継続的に収入が発生しているなら、金額の大小にかかわらず記帳と申告を行ってください。

Q. 調査の連絡が来たら、まず何をすればよいですか?

A. 落ち着いて日程を調整し、顧問税理士(いなければ税務調査に対応している税理士)に速やかに相談してください。その場で即答せず、帳簿・請求書・契約書・預金通帳など、調査官が確認する可能性の高い資料を年度ごとに整理しておくことが有効です。当日までの段取りは税務調査の流れ|事前通知から当日・修正申告・不服申立てまでにまとめています。

まとめ

税務調査に入られる会社・事業者には、たしかに一定の傾向があります。現金商売、売上や利益の急変、経費の突出、前回調査からの経過年数――いずれも「数字の動きに理由を説明できるか」が問われる場面です。 最新のデータが示しているのは、調査の件数は絞られる一方で、選ばれた先での追徴は増えているという現実です。法人は不正発見割合、個人事業主は1件当たりの申告漏れ所得金額と、公表される指標は違いますが、「記録が残りにくく、第三者が検証しにくいところが見られる」という点は共通しています。 裏を返せば、日頃から正しい記帳と申告を行い、根拠となる資料を残していれば、調査を過度に恐れる必要はありません。不安があるときは、早い段階で税理士に相談し、説明できる状態を整えておきましょう。 ※本記事の統計は国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」および「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(いずれも令和7年12月公表)にもとづきます。最新の情報は国税庁ホームページでご確認ください。

個人事業主にも税務調査は入る?最新データと対象になる理由・対策

帳簿と領収書を整理する個人事業主の机のイメージ

個人事業主でも税務調査の対象になります

帳簿と領収書を確認する個人事業主   「個人事業主だから税務調査は入らないだろう」と考えていませんか。実際には、法人か個人かで調査の有無が決まるわけではありません。ここでは国税庁が公表している最新の調査実績(令和6事務年度)をもとに、個人事業主に税務調査が入る実態と、選ばれやすいケース、そして日ごろからできる備え方を整理します。過度に不安になる必要はありませんが、「知らなかった」で不利になる場面は確実に減らせます。  

個人に対する税務調査は年間どれくらい行われている?

国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(2025年12月公表/対象期間は2024年7月〜2025年6月)によると、所得税の実地調査は4万7千件、文書・電話・来署依頼による「簡易な接触」を合わせた「調査等」の合計は73万6千件でした。実地調査1件当たりの追徴税額は241万円、調査等による追徴税額の総額は1,431億円で過去最高となっています。 同資料で国税庁は「選定にAIを活用するなど、効率的かつ的確に調査等を行った」と明記しています。従来からの国税総合管理システム(KSK)によるデータ分析に加え、対象選定へのAI活用が進んでいるということです。「自分の事業規模なら見られていないだろう」という前提は、もはや成り立ちません。
項目(令和6事務年度)所得税(個人)消費税(個人事業者)
調査等の合計件数73万6千件18万5千件
うち実地調査4万7千件2万8千件
申告漏れ等の非違があった件数36万9千件10万1千件
実地調査1件当たりの追徴税額241万円127万円
調査等による追徴税額の総額1,431億円(過去最高)421億円

出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(2025年12月公表)

ここで注目したいのが、実地調査4万7千件のうち、申告漏れ等の非違があったのは約3万9千件という点です。割合にするとおよそ8割で、「実地調査に入られると、何かしらの指摘は受ける」というのが現場の実態に近いといえます。  

売上が1,000万円を超えると調査されやすい?

「売上が1,000万円を超えると税務調査が入る」とよく言われます。これは、基準期間(個人事業主は原則として前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者になるため、その前後の年に消費税の申告漏れが起こりやすいことが背景にあります。 ただし1,000万円はあくまで「消費税の納税義務」の分かれ目であって、税務調査の基準ではありません。税務署は確定申告の内容を業種ごとの利益率などのデータと突き合わせて分析しており、売上規模が小さくても申告内容に不自然さがあれば対象になり得ます。逆に、売上が大きくても記帳と申告が整っていれば、過度に恐れる必要はありません。  

申告漏れが大きいのはどんな業種か

国税庁は毎年、事業所得を有する個人について「1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」を公表しています。令和6事務年度は次のような結果でした。
令和6事務年度に1件当たりの申告漏れ所得金額が高額だった上位10業種の横棒グラフ
事業所得を有する個人について、特別調査・一般調査の結果を国税庁が集計したもの。
1位のキャバクラ(1件当たり申告漏れ所得金額4,164万円)、2位の眼科医(3,894万円)が上位に並びました。前年1位だった経営コンサルタントは4位(2,734万円)、10位のシステムエンジニアは前年17位からの上昇です。現金商売だけでなく、コンサルティングやコンテンツ配信、システム開発といった「一人で完結しやすい業種」も上位に入っている点は押さえておきたいところです。該当する業種だからといって直ちに調査されるわけではありませんが、同業の平均から離れた数字は目に留まりやすい、と理解しておくとよいでしょう。  

税務調査が個人事業主に入りやすい時期は?

税務調査に「必ずこの時期」という決まりはありません。ただし、税務署の事務年度(7月〜翌年6月)と繁忙期の関係で、実務上の繁閑には一定の傾向があります。 2月〜3月:可能性は低め 確定申告期で税務署内部も多忙なため、個人への実地調査はあまり行われません。 5月〜6月:可能性は低め 3月決算法人の申告対応と事務年度末が重なり、こちらも動きは限られます。 7月:可能性は低め 税務署は6月末で事務年度を終え、7月に人事異動があります。新体制の立ち上げ期にあたります。 8月〜11月:可能性は高め 新しい事務年度が本格的に動き出し、9月から11月ごろが一つのピークとされます。帳簿に不安がある場合は、夏までに整理しておくと落ち着いて対応できます。  

税務調査を受けやすい個人事業主の特徴

税務調査は、正しい税務処理と申告が行われているかを確認するための手続きです。狙われやすい傾向は法人とさほど変わりません。以下は「該当すると必ず調査される」という意味ではなく、説明できる状態にしておきたいポイントとして読んでください。

売上や利益が急に増減している

前年と比べて業績が大きく動いた年は、その理由を確認したいと考えられやすくなります。大口の受注、事業転換、取引先の変更など、変動の理由を数字とセットで説明できるようにしておきましょう。

節税がやりすぎになっている

節税そのものは正当な行為ですが、実態を伴わない経費計上は否認の対象になります。事実を偽って計上していた場合は、隠蔽・仮装とみなされて重加算税が課されることもあります。一度不正と判断されると、その後も調査対象になりやすくなる点にも注意が必要です。

事業が軌道に乗り、数年が経過している

利益が安定して出ている事業者は、対象として選ばれやすい傾向があります。更正・決定ができる期間は原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為によって税を免れた場合は7年とされています(国税通則法第70条)。つまり、直近1年だけでなく複数年分をさかのぼって確認される前提で、帳簿と証憑を保管しておく必要があります。なお、赤字であっても消費税や源泉所得税の課税関係は生じるため、「赤字だから対象外」ということはありません。

確定申告の数字が業種の相場から外れている

税務署には過去の申告データが蓄積されており、業種ごとの利益率や経費率と照合されます。さらに、金融機関からの情報や不動産の登記情報なども分析に使われます。相場から大きく外れた数字は、確認の対象として抽出されやすくなります。

業績は伸びているのに現金預金や在庫が増えていない

売上が伸びれば、通常は預金残高か在庫のどちらかが増えます。所得と在庫・預金のバランスが取れていない場合、売上計上漏れや棚卸資産の計上漏れが疑われます。

所得金額が生活実態に比べて少なすぎる

所得がほとんど出ていないのに事業を継続できている場合、収入の計上漏れや申告書の記載誤りが想定されます。実際、税理士に依頼せず自分で申告している方の記載誤りが確認のきっかけになることもあります。

ネット取引・暗号資産の収入がある

国税庁は、シェアリングエコノミーやネット通販、アフィリエイト、暗号資産などの取引を行う個人に対する調査に力を入れています。令和6事務年度は、シェアリングエコノミー等の新分野の取引について1,155件(1件当たりの申告漏れ所得金額1,595万円)、暗号資産等の取引について613件(1件当たりの追徴税額745万円)の実地調査が行われました。プラットフォーム経由の収入は資料情報として把握されやすいため、「少額だから」「趣味の延長だから」と申告から外さないことが大切です。

そもそも申告していない(無申告)

無申告は特に厳しく対応されています。令和6事務年度の所得税無申告者に対する実地調査(特別・一般)は4,812件で、1件当たりの追徴税額は524万円と過去最高、追徴税額の総額も252億円に上りました。これは所得税の実地調査(特別・一般)全体の1件当たり299万円の約1.8倍です。
実地調査全体と、シェアリングエコノミー等・無申告者・暗号資産等・富裕層に対する調査の1件当たり追徴税額を比べた棒グラフ
いずれも所得税の実地調査(特別調査・一般調査)ベースの数値。
 

日ごろから気をつけておくべきこと

脱税の発想を持たない

事実の隠蔽・仮装があったと判断されると、通常の加算税に代えて重加算税(過少申告の場合35%、無申告の場合50%)が課されます。さらに、期限後申告等があった日の前日から5年前の日までの間に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合には、10%が加算されます。短期間に繰り返すほど負担が重くなる設計です。納めるべきものを納めたうえで、制度に沿った方法で税負担を軽くする。この順番を崩さないことが結果的にいちばん安全です。

預金口座は事業用と私用で分ける

事業用の口座を用意し、生活費の口座と明確に分けましょう。口座を分けると入出金の説明がしやすくなり、記帳の手間も減ります。私用口座に売上を振り込ませて所得を圧縮する、といった処理は、取引先への確認(反面調査)などから把握されます。

説明できる形で証憑を残す

領収書やレシートは、保存しているだけでなく「何のための支出か」を説明できる状態にしておくことが重要です。交際費・旅費交通費・消耗品費など、私的な支出と区別しにくい費目はとくに、相手先や目的をメモしておくと調査当日の説明が格段に楽になります。  

個人事業主は必見!税務調査の失敗・成功のケース

税務調査の失敗ケース

日ごろからの管理

  • 記帳について法改正に対応していなかった
  • 税理士から調査で必要な書類の説明がない
  • 普段から税理士が上から目線、態度が悪い
  • 税理士が専門用語ばかりで説明してくる

税務調査の通知後の事前準備

  • 税理士と事前打ち合わせをせず当日を迎える
  • 税務調査当日の流れがよく分からない
  • 税理士の進め方が税務署寄りの対応

税務調査の本番で

  • 不安を抱えたまま当日を迎える
  • 調査官による質問の意図が分からない
  • 税理士が調査官の言いなりで何も反論しない
  • 内容を理解しないまま調査官の作成した文書に署名、捺印した

結果は…

  • 税理士が調査官と交渉せず、加算税が高額に
  • 税理士の態度が悪く、調査が長引いた
  • 意図的な脱税ではないのに重加算税が加算
  • 調査官の質問に税理士が何も答えられない

税務調査の成功ケース

日ごろからの管理

  • 税務調査を前提とした記帳方法へ変更
  • 税理士が調査で指摘されやすい点を指導
  • 税理士から同業種の傾向をアドバイス
  • 税理士が帳簿や必要書類を事前にチェック

税務調査の通知後の事前準備

  • 事前に税理士と何度も打ち合わせ
  • 税理士が事前に資料を確認し指摘項目を予測
  • 事前に法的根拠に基づいた対策をとっていた
  • 事前に調査当日のシミュレーションを行なった

税務調査の本番で

  • 指摘に対し法的根拠を示しながら調査官へ説明
  • 税理士が過去の裁決・裁判例を示しながら交渉
  • 必要書類が準備できているので調査が短時間

結果は

  • 調査官に対して主張をしっかり通してくれた
  • 対応が早く、予定より早く調査が終了
  • 税理士に任せっきりで何事もなく調査を終えた
  • 今後の対策を考えレポートを提出してくれた

個人事業主が取るべき対処法とは

税務調査が入ることを前提にしたとき、いちばんの土台になるのは日々の記帳と保存です。ポイントを整理します。

①青色申告でも白色申告でも記帳と保存は必要

確定申告には青色申告と白色申告があり、かつては白色申告で所得が一定額以下の場合に記帳義務が免除されていました。しかし2014年1月からは、青色・白色を問わず、事業所得・不動産所得・山林所得を生ずべき業務を行うすべての方に記帳と帳簿書類の保存が義務付けられています。青色申告は複式簿記、白色申告は簡易な方法による記帳という違いはありますが、「帳簿を付けなくてよい個人事業主」は存在しないと考えてください。

②預金通帳は個人と事業を分けておく

記帳の前提として、口座を分けておくと処理が明快になります。分けていないと、入金のひとつひとつについて事業か私用かを説明する手間が発生します。

③帳簿と書類は決められた期間、正しく保存する

保存期間は「すべて7年」ではなく、帳簿と書類、青色と白色で異なります。実務でよく取り違えられる部分なので、下表で確認してください。
区分対象(例)保存期間
青色申告・帳簿仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など7年
青色申告・決算関係書類損益計算書、貸借対照表、棚卸表など7年
青色申告・現金預金取引等関係書類領収証、小切手控、預金通帳、借用証など7年
※前々年分の事業所得・不動産所得が300万円以下なら5年
青色申告・その他の書類請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など5年
白色申告・法定帳簿収入金額や必要経費を記載した帳簿7年
白色申告・任意帳簿/書類上記以外の帳簿、棚卸表、請求書・納品書・領収書など5年

出典:国税庁 No.2070 青色申告制度/個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について

保存はコンプライアンス上の義務であると同時に、あなた自身を守る資料でもあります。とくに近年は、帳簿の提示・提出をしなかった場合や、帳簿に記載すべき売上金額の記載が不十分だった場合に、過少申告加算税・無申告加算税が5%または10%加重される措置が設けられています(令和5年分の確定申告に対する修正申告等から適用)。「探したが見つからない」で済まない場面が増えている、と考えておきましょう。

④電子取引のデータは電子のまま保存する

電子帳簿保存法により、2024年(令和6年)1月から、メールやWebでやり取りした請求書・領収書などの電子取引データは、原則として電子データのまま保存することが必要になりました。紙に印刷して保存するだけでは要件を満たしません。 ただし、保存時に満たすべき要件(改ざん防止措置や検索機能の確保など)に従えなかったことについて所轄税務署長が「相当の理由」があると認める場合は、データを単に保存しておけばよいという猶予措置が設けられています(事前の申請は不要)。システムやワークフローの整備が間に合わないといった事情も対象に含まれますが、「電子データそのものを残していない」状態は救済されません。まずは受け取ったデータを消さずに残すことから始めてください。

⑤自宅兼事務所の家賃・光熱費は按分する

仕事場と自宅を兼ねている場合、家賃や水道光熱費を100%経費に計上することはできません。使用面積や使用時間などの合理的な基準で「按分」し、その計算根拠をメモとして残しておきましょう。根拠が残っていれば、調査の場でも短時間で説明できます。

⑥「自分は個人事業主ではない」という思い込みに注意

開業届を出していないため、自分が個人事業主だという意識を持たないまま収入を得ているケースもあります。不用品を一時的に処分する程度なら問題ありませんが、せどりや転売、ネット販売のように継続的な売買で利益を得ている場合は事業(または雑所得)として申告が必要です。国税庁の公表資料でも、ゲーム機器やスマートフォンの転売収入が無申告だった事例が紹介されています。心当たりがある場合は、放置せず早めに税理士へ相談したほうが、結果的に負担は小さく済みます。  

インボイス制度と消費税の税務調査(2023年10月〜)

2023年10月から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が始まりました。免税事業者であっても「適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)」として登録すれば、消費税の申告・納付義務が生じます。登録番号(Tから始まる13桁)は国税庁の公表サイトで誰でも検索でき、取引先からの確認も容易です。 実際、令和6事務年度は消費税(個人事業者)の「調査等」の件数が18万5千件と前事務年度の約1.5倍に増えています。簡易な接触を活用して幅広く確認する方向にあり、インボイス登録によって消費税の申告義務を負った個人事業主も、当然その対象に含まれます。 税務調査で指摘されやすいポイントは次のとおりです。
  • 発行したインボイスの記載不備:登録番号・適用税率・税率ごとに区分した消費税額等を誤ると、取引先が仕入税額控除を適用できなくなります。
  • 受け取ったインボイスの保存漏れ:仕入税額控除には原則として適格請求書の保存が要件です。電子データで受領したものは、電子帳簿保存法の要件に沿って保存します。
  • 課税方式の選択ミス:簡易課税制度選択届出書の提出忘れ・誤りにより、想定外の納税額になることがあります。

2割特例は2026年分で終了、2027年分からは「3割特例」へ

インボイス制度を機に免税事業者から登録した方が使える「2割特例」(納付税額を売上に係る消費税額の2割にできる特例)は、令和8年(2026年)9月30日までの日の属する課税期間で終了します。個人事業主の場合、令和8年分(2026年分)の申告が2割特例を使える最後の年です。 そのうえで令和8年度税制改正により、個人事業主に限って「3割特例」が創設されました。インボイス発行事業者の登録を受けたことで免税事業者から課税事業者になった個人事業者が、令和9年分(2027年分)・令和10年分(2028年分)の消費税の確定申告で、納付税額を売上税額の3割にできるという内容です。国税庁が示す主な適用要件は次の3点です。
  • 個人事業者であること(法人は3割特例の対象外です)
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前)の課税売上高が1,000万円以下であること(令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること
あわせて、簡易課税制度への円滑な移行措置も設けられました。簡易課税は本来、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければなりませんが、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間については、その課税期間の申告期限までに届出書を提出すれば、その課税期間から簡易課税を適用できます。個人事業主の場合、たとえば令和10年分まで3割特例で申告し、令和11年分から簡易課税に切り替えるなら、届出書は令和11年分の申告期限(令和12年4月1日)までに出せば間に合う、という整理です。 2割特例(2割)→3割特例(3割)→本則課税または簡易課税、と負担割合が段階的に変わっていく設計になっています。業種によっては3割特例より簡易課税のほうが納税額が小さくなる場合もあります。2026年分の申告を終えたタイミングで、翌年以降にどの課税方式を選ぶかを必ず確認しておきましょう。

免税事業者のままでいる方も要注意:取引先が控除できる割合が2026年10月から下がります

インボイス発行事業者にならず、免税事業者のままでいるという選択もあります。ただしその場合、取引先があなたへの支払いについて仕入税額控除できる割合が段階的に下がっていく点は知っておく必要があります。 この経過措置は令和8年度税制改正で適用期限が2年延長されたうえで、控除できる割合が見直されました。国税庁の公表資料によると、控除割合の推移は次のとおりです。
免税事業者等からの課税仕入れについて取引先が控除できる割合が、令和5年10月からの80%、令和8年10月からの70%、令和10年10月からの50%、令和12年10月からの30%を経て、令和13年10月以後は0%になることを示した棒グラフ
令和8年度税制改正で適用期限が2年延長され、80%→70%→50%→30%→0%と緩やかに縮小する形に見直されました。
課税仕入れの時期取引先が控除できる割合
令和5年10月1日〜令和8年9月30日80%
令和8年10月1日〜令和10年9月30日70%
令和10年10月1日〜令和12年9月30日50%
令和12年10月1日〜令和13年9月30日30%
令和13年10月1日以後控除できない(0%)

出典:国税庁 インボイス経過措置の見直し等(令和8年度税制改正特集)

改正前は令和8年10月から3年間50%とされていたため、直近の落ち込みは改正によってむしろ緩やかになりました。とはいえ80%から70%へ下がることに変わりはなく、2026年10月以降、取引先から価格や取引条件について相談を受ける可能性はあります。また買い手側の取扱いとして、1つのインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額(税込み)が、その年または事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合、その超えた部分にはこの経過措置を適用できません(令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用)。登録するかどうかは、取引先との関係と自分の税負担の両面から判断してください。

飲食料品の消費税率をめぐる動き(2026年9月時点)

消費税については、2026年8月5日に政府が「給付付き税額控除」の制度導入の基本方針を閣議決定し、その中で軽減税率の対象となっている飲食料品に係る消費税率を2027年(令和9年)4月1日から2年間、1%とする方針が示されました(外食は対象外)。 その後、報道によれば与党の税制調査会が制度の詳細設計を進めており、税率変更にともなう経過的な対応として、値札の貼り替えが間に合わない事業者に配慮して「総額表示」の義務に猶予期間(税率変更の前後2か月)を設ける案のほか、簡易課税・中間申告・予約販売や通信販売の取扱いに関する特例が検討されていると伝えられています。税制改正大綱は9月中旬をめどに取りまとめ、秋の臨時国会に関連法案を提出する見通しとされています。 ただし2026年9月時点で、税率を変更する法律はまだ成立していません。「2027年4月から食料品は1%になる」と確定した前提で進めるのではなく、レジ・受発注システムの税率区分や値札の運用について「変更が入り得る」前提で早めに棚卸ししておく、という受け止め方が現実的です。確定した内容は必ず国税庁・財務省の公表資料でご確認ください。  

税務調査が決まったときの対策

すでに調査の連絡が来ている場合に、今から取り組めることは次の3点です。

①必要資料を用意して自分で見直す

任意調査では、連絡があってから実施日までに数日〜数週間の間があるのが一般的です。いきなり訪問されるわけではありません。この期間に、対象年分の帳簿・請求書・領収書・預金通帳・契約書をそろえ、内容を確認しておきましょう。

②誤りを見つけたら、加算税の仕組みを踏まえて判断する

自ら誤りに気づいた場合、修正申告のタイミングによって加算税の重さが変わります。主な加算税は次のとおりです。
種類課される場面割合
過少申告加算税期限内申告後に税額の不足が判明したとき10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)
調査の通知前に自主的に修正申告すれば課されない/通知後・更正を予知する前は5%(同超過部分は10%)
無申告加算税期限までに申告しなかったとき50万円までの部分15%、50万円超300万円までの部分20%、300万円超の部分30%
調査の通知前に自主的に期限後申告すれば5%
重加算税事実の隠蔽・仮装があったとき過少申告の場合35%/無申告の場合50%
(加重)過去5年以内に無申告加算税・重加算税を課されたことがあるとき上記に10%を加算
延滞税納付が法定納期限に遅れたとき期間・年により割合が異なるため、国税庁の割合表で確認

出典:国税庁 No.2026 確定申告を間違えたとき/No.2024 確定申告を忘れたとき

調査の通知を受ける前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税は課されない(延滞税は別途かかります)という点は、実務上とても大きな違いです。ただし、通知後の対応は個別事情によって判断が分かれるため、自己判断で進めず税理士に相談することをおすすめします。

③税務調査に慣れた税理士に依頼する

調査官は日常的に調査を行っている専門家です。「見つからなければ大丈夫」という発想ではなく、指摘され得る点はすべて事前に洗い出し、法的根拠を添えて説明できる状態にするのが最善の準備です。税法の知識や交渉の経験に不安がある場合は、税務調査の立会い実績がある税理士に依頼するほうが、時間的にも金額的にも負担が小さくなることが多いといえます。  

FAQ:個人事業主の税務調査に関するよくある質問

Q1:個人事業主は何年に一度、税務調査を受けますか?

頻度に法的な定めはありません。国税庁のデータでは個人への実地調査は年間4万7千件規模で、確定申告をしている個人の総数から見れば、実地調査を受ける確率自体は決して高くありません。ただし対象の選定はKSKシステムによるデータ分析やAIの活用によって行われるため、不自然な申告内容があれば規模を問わず抽出されます。「確率が低いから大丈夫」ではなく、「選ばれても説明できる状態にしておく」という備え方が現実的です。

Q2:税務調査の通知(連絡)は何日前に来ますか?

任意調査では、税務署から電話で日程調整の連絡が入り、実際の調査日までおおむね1〜2週間程度の準備期間があるのが一般的です(何日前という法令上の定めはありません)。顧問税理士がいる場合は、必ず事前に打ち合わせをしてください。なお、重大な脱税が疑われる強制調査(犯則調査)は事前の通知なく行われます。

Q3:帳簿・領収書を紛失した場合はどうなりますか?

経費や仕入れの根拠を示せなくなるため、経費が否認され追徴税額が増えるリスクがあります。さらに、帳簿の提示・提出がない場合や売上の記載が不十分な場合は、加算税が5%または10%加重される措置の対象にもなり得ます。紛失に気づいたら早めに税理士へ相談し、預金通帳・カード明細・取引先の控え・電子データなど、代替となる資料で取引を再現できないか検討しましょう。

Q4:調査当日は何を聞かれますか?

多くの場合、まずは事業の概要(いつ開業したか、主な取引先、お金の流れ、従業員の有無など)から始まり、その後に帳簿と証憑の突合に移ります。売上の計上時期、現金の管理方法、家事按分の根拠、外注費の実態などは確認されやすい項目です。分からないことは推測で答えず、「確認して後日回答します」と伝えて構いません。曖昧な回答が誤解の起点になることは、実務上しばしばあります。

Q5:指摘に納得できないときはどうすればよいですか?

その場で署名・押印を求められても、内容に納得できないまま応じる必要はありません。修正申告は納税者が自ら行うものであり、応じない場合は税務署が更正処分を行います。更正処分に不服がある場合は、税務署長への再調査の請求または国税不服審判所への審査請求という手続きが用意されています。判断に迷うときは、税理士に相談したうえで進めてください。

 

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税務調査でやってはいけない対応|加算税・延滞税の早見

帳簿や書類を整えて税務調査に備える事業者のイメージ

税務調査は、対応の仕方ひとつで結果が大きく変わることがあります。同じ申告内容でも、説明の仕方や心構え次第で、追徴課税の有無や金額に差が生じるのです。ここでは「不用意な対応で損をしないために」押さえておきたい基本を、現場の視点から落ち着いて整理します。過度に恐れる必要はありませんが、正しい備えは欠かせません。

税務調査対応でやってはいけないこと

税務調査は、申告内容が事実にもとづいてきちんと経理処理されているか、税務の基本から外れていないかを確認するために行われます。したがって、経理処理が正当であることを示す請求書・契約書・帳簿などの資料をそろえ、質問に対して根拠をもって説明できれば、基本的に問題はありません。

対応の基本は、聞かれたことに、事実にもとづいて簡潔に答えることです。自信がなかったり、何かを取り繕おうとしたりすると、人はつい話しすぎてしまいます。調査官は数多くの現場を見てきたプロですから、そうした不自然さを見逃しません。不正がなくても、疑いを持たれて調査が長引くことにつながりますので注意しましょう。

その場しのぎで曖昧に答えるのは避けたいところです。わからない点は正直に「わからない」と認め、事実関係を確認したうえで後日回答すると伝えれば十分です。憶測でその場を取り繕うより、誠実に確認する姿勢のほうが、結果的に調査をスムーズにします。

帳簿・書類の提示を渋るのは最も損な対応

近年とくに注意したいのが、帳簿書類の提示・提出を求められたときの対応です。国税庁の「税務調査手続に関するFAQ」では、正当な理由がないのに提示・提出を拒んだり、虚偽の記載をした帳簿書類を提示したりした場合には、罰則(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が科されることがあると説明されています。実務上、調査官はいきなり強制的に提示を求めるのではなく、必要である旨を説明したうえで理解と協力を得て行うこととされていますが、「見せたくないから出さない」は選択肢にならないと考えておくべきです。

さらに、令和5年分以降(令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの)については、調査で帳簿の提示等をしなかった場合や、帳簿への売上金額の記載等が本来記載すべき金額の2分の1未満だった場合には加算税に10%が上乗せされ、3分の2未満だった場合には5%が上乗せされます。帳簿をきちんと備えて、求められたら出せる状態にしておくこと自体が、金銭的な負担を抑える備えになるということです。

なお、書類を預けること(留置き)を求められることもありますが、これは納税者の理解と協力のもとで行われるもので、一方的に留め置かれるものではありません。返還を求めたのに応じてもらえない場合は、その理由の説明を受けることができます。

グレーゾーンへの対応が結果を左右する

税務調査では、明らかに誤っているもの(クロ)と明らかに正しいもの(シロ)のほかに、どちらの可能性も考えられる「グレーゾーン」が存在します。調査官は税を適正に課す立場ですから、グレーゾーンについては「申告漏れや誤りがあるのではないか」という視点で確認します。たとえば、役員報酬や退職金が過大ではないか、出張旅費や交際費・慶弔費が高すぎないか、といった具合です。

こうしたグレーゾーンを、事実に照らして正当なものだと説明できるかどうかが、税務調査の結果を大きく左右します。仮に申告の誤りと判断されれば、本税に加えて加算税や延滞税といったペナルティが上乗せされ、内容次第では納税額に小さくない差が生じます。だからこそ、日頃から根拠資料を整え、説明できる状態にしておくことが大切です。

誤りと判断された場合のペナルティ(早見)

申告に誤りがあると、本来納めるべき税金(本税)に加えて、次のような附帯税が課されることがあります。いずれも内容や状況によって割合が決まります。最新の割合や適用条件は必ず国税庁の公式情報でご確認ください。

種類主な割合(現行)どんなときに課されるか
過少申告加算税10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)期限内に申告したが、税額が少なかった場合
無申告加算税50万円までの部分15%/50万円超300万円までの部分20%/300万円超の部分30%期限までに申告しなかった場合(令和5年分以降)
重加算税過少申告分に代えて35%/無申告分に代えて40%仮装・隠蔽など悪質と判断された場合
延滞税本則は年14.6%(2か月以内は年7.3%)。特例で軽減され、2026年(令和8年)中は年9.1%(2か月以内は年2.8%)納付が法定納期限に遅れた場合(日割り)

重加算税は、期限後申告等の日の前日から起算して5年前の日までの間に同じ税目で無申告加算税・重加算税を課されていた場合、さらに10%が上乗せされます(最大で45%・50%)。延滞税の割合は市中金利に合わせて毎年見直されるため、年によって変わります(上記は2026年〔令和8年〕中に適用される割合で、前年までの年2.4%/年8.7%から引き上げられています)。

過少申告加算税・無申告加算税・重加算税の割合を比較した横棒グラフ
金額の区分や状況によって割合は上がります(過少申告加算税は超過部分15%、無申告加算税は50万円超20%・300万円超30%)。ほかに納付の日までの延滞税がかかります。

数字を並べてみると、「うっかりの誤り」と「仮装・隠蔽と判断されること」の差がいかに大きいかがわかります。だからこそ、事実を曲げて取り繕う対応は、あらゆる意味で割に合いません。

気づいた時点で動けば負担は軽くなる

加算税は「いつ動いたか」でも変わります。無申告の場合、調査の事前通知の前に自主的に期限後申告をすれば5%、事前通知の後で調査による決定を予知する前であれば10%(50万円超300万円までの部分は15%、300万円超の部分は25%)、調査を受けた後では上表のとおり15%〜30%です。

過少申告の場合も同様で、事前通知の前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税はかかりません。調査の連絡が来る前に誤りに気づいたなら、迷わず早く動くのが最も有利です。

また、期限後申告であっても、法定申告期限から1か月以内に自主的に申告し、納付すべき税金の全額を法定納期限までに納めているなど一定の要件をすべて満たす場合には、無申告加算税はかかりません(過去5年以内に無申告加算税・重加算税を課されていないことなどが条件です)。

グレーゾーンの折衝は専門家の力を借りる

グレーゾーンの折衝には、相応の税務知識と交渉力が求められます。納税者の代理人として税務上の主張ができるのは税理士だけであり、不用意な回答を避けるうえでも、税務調査対応の実績が豊富な税理士に立ち会いを依頼するのが安心です。事前の打ち合わせで論点を整理しておけば、当日も落ち着いて対応できます。

なお、税務代理を依頼している税理士がいる場合、納税者の同意を税務代理権限証書に記載しておけば、調査の事前通知や調査結果の説明を税理士に対して行ってもらうこともできます。手続きの詳細は依頼している税理士に確認してください。

よくある質問(FAQ)

Q. 調査官に何を聞かれても、すべてその場で答えないといけませんか?

いいえ。事実が確認できない事項を憶測で答える必要はありません。「確認して後日回答します」と伝え、資料を確かめてから正確に回答するほうが適切です。

Q. 少しでも申告に誤りがあると、必ず重加算税がかかりますか?

いいえ。重加算税は仮装・隠蔽など悪質と判断された場合に課されるもので、単なる計算ミスや見解の相違では、通常は過少申告加算税の範囲にとどまります。誠実に説明し、誤りがあれば速やかに修正する姿勢が大切です。

Q. 帳簿の一部が見当たらない場合、正直に伝えても大丈夫ですか?

はい。ないものを取り繕うより、正直に状況を伝えて代わりになる資料(通帳・請求書控え・受発注の記録など)を示すほうが適切です。提示を拒んでいると受け取られると、加算税の上乗せの対象になり得ます。

Q. 調査の連絡が来る前に自分で誤りに気づいたら?

調査の事前通知の前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税はかからず、期限後申告の場合も無申告加算税が5%に軽減されます。気づいた時点で早めに対応することが、結果的に負担を軽くします(いずれの場合も納付の日までの延滞税は別途かかります)。

まとめ

税務調査は「やましいことがなければ恐れる必要はない」ものですが、準備不足や不用意な対応は、不要な疑念や負担を招きます。根拠資料を整え、求められた帳簿は速やかに示し、聞かれたことに事実で答え、グレーゾーンは専門家とともに丁寧に説明する——この基本を押さえておけば、落ち着いて調査に臨めます。

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税務調査の交渉で追徴税額は変わる?余地・進め方と加算税

税務調査の指摘について税理士と相談する事業者のイメージ
税務調査で指摘を受けたとき、その内容に対する「交渉」によって最終的な追徴税額がどう変わるのか、どこまでが交渉できる余地なのか、そして手続きのどの場面で何を主張できるのかを、税務調査の現場を知る立場からわかりやすく解説します。

税務調査で交渉をしないとどうなるのか

税務調査では、さまざまな経理処理上の問題点が指摘されます。しかし、指摘された事項のすべてを受け入れて修正申告をする必要はありません。なぜなら、指摘の中には経費を二重に計上していたといった明らかなミスのほかに、根拠が必ずしも明確ではない指摘も含まれているからです。 例えば、社用車が高級外車で個人的趣味が入っているため会社の資産計上は認められない、あるいは接待交際費が高すぎるのではないか、といった指摘です。高級外車であっても、業務以外に使用していないという証拠を揃えれば認められますし、接待交際費についても、事業を進めるうえで必要だったと合理的に説明できれば、否認されるとは限りません。 調査官側としても、納税者が納得して修正申告してくれるに越したことはないという立場です。つまり納得がいかない指摘については、根拠を示して交渉する余地があるということです。国税庁が公表した「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月公表)によれば、実地調査による法人税・消費税の追徴税額は総額3,407億円にのぼり、これは直近10年で最も高い水準です。一方で、実地調査1件あたりの追徴税額も634万円(6,342千円・前年比+15.4%)と高く、こちらは直近10年で2番目の高い水準となっています。実地調査の件数は5万4千件(前年比▲7.4%)とむしろ減っているのに1件あたりの追徴税額は増えており、国税当局がAIやデータ分析も使って調査対象を絞り込み、必要度の高い先を重点的に調べている様子がうかがえます。この中には、本来であれば交渉によって減らせたかもしれない税額が含まれている可能性もあるのです。

どこまでが交渉の余地のある指摘なのか

すべての指摘に交渉の余地があるわけではありません。事実関係が明確な計上ミスや、帳簿・証憑で裏づけのない経費などは、受け入れて修正するほかありません。一方で、事業との関連性や金額の妥当性が「程度の問題」となる項目は、証拠を整えて主張できる余地があります。
交渉の余地が生まれやすい指摘受け入れざるを得ない指摘
社用車・備品などの事業利用割合(家事按分)経費の二重計上・計算誤り
接待交際費・会議費の事業関連性事実と異なる架空経費・水増し
外注費か給与かなど区分の解釈が分かれる項目帳簿・領収書など証憑がまったく無い支出
役員報酬・貸倒れなど評価・時期の判断を伴う項目売上の計上漏れ(入金事実が明確なもの)
左側の項目は、運行記録・使用者名簿・議事録・契約書といった客観的な資料をどれだけ揃えられるかが結果を左右します。逆に、事実関係が動かせない右側の指摘で無理に争うと、かえって心証を悪くし調査が長引くこともあります。

交渉が成り立つ「場面」は法律で決まっている

交渉というと調査当日のやり取りを思い浮かべますが、実際に主張が結果を左右する場面は、国税通則法が定める手続きの流れの中にあります。どの段階で何を言えるのかを知っておくと、慌てずに準備ができます。

1. 事前通知(調査が始まる前)

実地の調査を行う場合、原則として調査の対象となる納税者に、調査を開始する日時・場所、調査の対象となる税目や課税期間、調査の目的などが事前に通知されます。国税庁の「税務調査手続に関するFAQ」では、調査開始日時について都合が悪い事情があれば申し出るよう案内されており、合理的な理由があれば日程は協議のうえ調整されるとされています。書類を揃える時間が足りないまま当日を迎えるより、正直に事情を伝えて日程を整える方が結果は良くなります。

2. 調査結果の説明(調査の終盤)

調査の結果、更正決定等をすべきと認める非違がある場合には、その金額とその理由が納税者に説明されます。この説明は法令上の方法が限定されておらず、原則として口頭で行われます。ここが「何をどこまで指摘されているのか」を正確に把握できる最後の機会ですので、聞いた内容はその場でメモに残し、根拠となる条文や事実関係が曖昧な点は遠慮せず質問してください。

3. 修正申告の勧奨(説明のあと)

説明のあと、調査官から修正申告を提出するよう勧められます(修正申告の勧奨)。国税庁のFAQでは、この勧奨に応じるかどうかは納税者の任意の判断であり、応じなかったからといって、応じた場合と比べて不利な取扱いを受けることは基本的にないと明記されています。応じない場合は、調査結果に基づいて更正などの処分が行われることになります。

修正申告と更正では「その後に争えるか」が変わる

交渉のうえで最も大切な分岐点がここです。修正申告は自ら申告内容を訂正する行為なので、後から不服申立てをすることはできません。一方、更正は税務署長が行う処分なので、不服があれば争うことができます。
比較の観点修正申告(自分で出す)更正(税務署が行う処分)
不服申立てできないできる(再調査の請求・審査請求)
更正の請求できる(原則として法定申告期限から5年以内)―
手続きの負担軽い(申告書の提出で完了)重い(書面の作成・立証が必要)
向いている場面指摘に納得できる/争点が残らない解釈が分かれ、どうしても納得できない論点がある
納得できない論点が残っているのに、その場の空気で修正申告に応じてしまうと、争う道が閉ざされます。「十分に納得したうえで提出する」ことが、交渉における最大の防御です。 なお、更正の処分に不服がある場合の手続きと期限は次のとおりです(国税通則法75条・77条ほか)。
  • 再調査の請求…処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、処分を行った税務署長等へ
  • 審査請求…再調査の請求を経ない場合は処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内、再調査の請求を経てから行う場合は再調査決定書謄本の送達を受けた日の翌日から1か月以内に、国税不服審判所長へ
  • 訴訟…裁決があったことを知った日(裁決書謄本の送達を受けた日)の翌日から6か月以内に、裁判所へ
いずれも期限が短いため、争う可能性があるなら調査の段階から税理士に相談しておくのが安全です。

動くタイミングで加算税の負担も変わる

交渉と並んで見落とされがちなのが、「いつ修正申告を出すか」で過少申告加算税の割合が変わるという点です。自分から誤りに気づいて早く動くほど、負担は軽くなります。
修正申告を出すタイミング別の過少申告加算税の割合を示した棒グラフ
新たに納める税金が「当初の申告納税額」と「50万円」のいずれか多い金額を超える部分は、それぞれ10%・15%になります。別途、納付の日までの延滞税がかかります。
具体的には、税務署からの調査の事前通知の前に自主的に修正申告をすれば過少申告加算税はかかりません。事前通知の後で、かつ調査による更正を予知する前の修正申告なら5%、調査を受けた後の修正申告や更正を受けた場合は10%です。いずれも、新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分については、それぞれ10%・15%に上がります。 さらに、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(所得税では令和5年分以降)については、調査で帳簿の提示や提出を求められたのに応じなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来記載すべき金額の2分の1未満だった場合には10%、3分の2未満だった場合には5%が加算されます。帳簿をきちんと備えて提示できること自体が、加算税を抑える備えになるということです。なお、修正申告で新たに納める税金には、納付の日までの延滞税も併せてかかります。

税務調査の交渉は税理士に任せるのが得策

交渉の必要性が理解できても、税務や法律の知識がない状態で交渉を進めるのは極めて難しいといえます。 高級外車を業務用と認めてもらうには運行記録や使用者名簿の有無が重要になりますし、接待交際費についても、資本金1億円超の大企業でも接待飲食費の50%を損金算入できる特例があるなど、制度は細かく改正されています。1人あたり1万円以下の一定の飲食費は交際費等から除かれますが、この金額基準は令和6年4月1日以後に支出する飲食費から、従来の5,000円以下が1万円以下に引き上げられました。また、中小法人(期末資本金1億円以下)については、交際費等の年800万円までの全額損金算入と接待飲食費50%の損金算入のいずれかを選択できる特例があります(一定の大法人の100%子法人等はこの中小企業向け特例の対象外です)。これらの特例の適用期限は令和6年度税制改正で3年延長されていますが、適用期限などの最新の取扱いは必ず国税庁の情報でご確認ください。 こうした専門知識をもって調査官に対応するには、やはり税理士の力が必要です。各種の税法に精通した税理士であれば、過去の取扱いや判例を踏まえて交渉したり、必要経費であることを証明するために何を用意すべきかをアドバイスできます。 専門家が同席することで調査官の指摘にスピーディに対応でき、事前準備やシミュレーションによって心理的負担も軽減され、不当な追徴課税を回避しやすくなります。交渉によって数十万〜百万円単位の納税額の差が生じうるのであれば、税務調査サポート費用がかかっても税理士に依頼する方が得策といえるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 交渉すれば必ず追徴税額は下がりますか?

A. 必ず下がるわけではありません。事実関係が明確な計上漏れやミスは受け入れる必要があります。下げられる可能性があるのは、事業との関連性や金額の妥当性など解釈の余地がある項目に限られ、しかも客観的な証拠で主張を裏づけられることが前提です。

Q. 交渉すると印象が悪くなり、かえって不利になりませんか?

A. 根拠のある主張を冷静に行う限り、不利になることは基本的にありません。むしろ感情的に全面的に争ったり、逆に言いなりで受け入れたりする方が、適正な結論から遠ざかります。論点を整理して交渉できる税理士に任せるのが安全です。

Q. 調査結果の説明を受けたその場で、修正申告に応じるかどうかを決めなければいけませんか?

A. その場で即断する必要はありません。修正申告の勧奨に応じるかどうかは納税者の任意の判断で、応じなかったことで不利な取扱いを受けることは基本的にないと国税庁も説明しています。指摘の金額と理由を持ち帰り、税理士と検討してから決めて差し支えありません。

Q. 修正申告に応じないとどうなりますか?

A. 双方が合意できない場合、税務署は「更正」という処分を行うことがあります。その処分に不服があるときは、再調査の請求や国税不服審判所への審査請求といった手続きで争うことができます(こうした不服申立ての代理も税理士の業務です)。

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書面添付制度とは?税務調査に入られにくくする仕組みと意見聴取の流れ

税理士と相談しながら書面添付制度を活用する経営者のイメージ

税務調査が入りにくくなるとされる「書面添付制度」の概要と、その効果・注意点について、税務の専門家の視点でわかりやすく解説します。

税務調査が入る確率を低くする方法とは?

結論からお伝えすると、税務調査を完全に止める(必ず来ないようにする)方法はありません。ただし、適正な申告を客観的に示すことで、調査に入られにくくする方法はあります。その代表が「書面添付制度」です。これは脱税や調査逃れのテクニックではなく、申告の正確性を税務の専門家が裏付ける、れっきとした制度です。

書面添付制度を活用しよう

書面添付制度とは、税理士が適正な会計帳簿に基づいて決算・申告書を作成し、「どのように計算・整理し、相談・審査した事項があるか」を記載した書面を申告書に添付して提出する制度です(税理士法第33条の2)。税理士だけに認められた権利で、申告内容の信頼性を高める役割を持ちます。

添付できる書面は、関与のしかたによって次の2種類に分かれます。

  • 計算事項等記載書面(法第33条の2第1項)…税理士が自ら申告書を作成した場合に、計算・整理した事項や相談に応じた事項を記載するもの
  • 審査事項等記載書面(法第33条の2第2項)…税理士が他人の作成した申告書の相談を受けて審査した場合に、審査した事項と法令に従って作成されている旨を記載するもの

通常、税務調査は事前通知を行ってから現地(実地)調査に入るのが基本的な流れです。これに対し、書面添付がある申告では、事前通知(調査通知)の前に、税理士に対して「意見聴取」が行われます(税理士法第35条)。この意見聴取で、税理士が添付書面の記載事項に基づいて申告内容を説明し、税務署の調査官の疑問が解消されれば、結果として実地調査に至らないことがあります。

つまり、会社に税務調査が入る前に確認が終わってしまうケースがあるということです。仮に調査に進んだとしても、意見聴取で一部の論点があらかじめ整理されているため、調査期間の短縮につながりやすいといえます。調査官側にとっても、申告内容の信憑性が高いと見込めることから、書面添付を行っている申告は実地調査に発展しにくいと考えられます。

通常の流れと書面添付ありの流れの違い

段階通常の申告書面添付ありの申告
調査の入口事前通知 → 実地調査事前通知の前に税理士への意見聴取
納税者の負担調査官と直接やりとりまず税理士が説明(本人対応の前段がある)
疑問が解消した場合原則として実地調査を実施実地調査に至らない場合がある
調査に進んだ場合—論点が整理され調査期間の短縮につながりやすい

出典:国税庁 税理士制度Q&A『書面添付・意見聴取制度』、日本税理士会連合会『書面添付制度』をもとに作成。

意見聴取はいつ・どのように行われる?

「意見聴取」と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、実務の流れは決まっています。国税庁の事務運営指針では、納税者への調査通知を行う予定日の1〜2週間前までに、税務代理権限証書を提出している税理士へ電話で連絡し、意見聴取の日時・方法を決めることとされています。

大切なポイントは、意見聴取は税理士に対して行われるもので、経営者本人が同席して行うものではないということです。会社の側は、まず顧問税理士から「税務署から意見聴取の連絡が来た」と報告を受ける形になります。

意見聴取の結果、調査の必要がないと認められた場合には、税理士に対して「現時点では調査に移行しない」旨の連絡が、原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」という文書で行われます(自主的な修正申告や指導事項があった場合などは電話での連絡になります)。逆に調査が必要と判断された場合は、納税者への調査通知の前に、税理士へ意見聴取の結果と「調査に移行する」旨が電話で伝えられます。

意見聴取で誤りが見つかったら加算税はどうなる?

ここが、書面添付制度の実務上いちばん見落とされやすいメリットです。国税庁は、意見聴取における質疑等は「調査を行うかどうかを判断する前」に行うものであり、調査には当たらないと整理しています。

そのため、意見聴取での質疑等のみをきっかけに、自主的に修正申告書を提出した場合、その提出は「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたもの」には当たりません。国税通則法第65条第6項に規定する調査通知前に提出すれば、過少申告加算税は課されません(当初の申告が期限内申告であることが前提です)。

ただし、注意点が2つあります。

  • 加算税が課されないのは、意見聴取から調査通知までの間に修正申告書を提出した場合に限られます。平成28年の国税通則法の改正により、調査通知以後に修正申告書を提出した場合には加算税が課されることとなっているためです。
  • 加算税が課されなくても、延滞税は課されます。本税の納付が遅れた分の利息にあたるものだからです(延滞税の税率と計算方法はこちら)。

「早い段階で誤りに気づき、ペナルティを最小限にして是正できる」という点は、実地調査の省略そのもの以上に実利のある効果といえます。

書面添付制度のメリット・デメリット

書面添付制度には良い面がありますが、マイナス面が全く無いわけではありません。メリットとデメリットを整理します。

メリット

  • 質の高い決算と申告が実現でき、申告の正確性が高まる
  • 銀行などの金融機関からの信頼性が高くなる(融資審査などで有利に働くことがある)
  • 実地調査に至らなかったり、調査期間の短縮につながる可能性がある
  • 意見聴取の段階で誤りが見つかった場合、調査通知前に自主的に修正申告すれば加算税が課されない

デメリット

  • 毎月の帳簿作成について税理士から監査(継続的な関与)を受ける必要がある
  • 税理士の顧問料とは別に特別料金がかかることが多い
  • 無予告で行われる税務調査は、意見聴取(事前のやりとり)の対象外となる

書面添付制度は、納税者に対する税理士の責任範囲が明確になり、税理士の力量が問われる制度でもあります。形だけ添付された書面は税務当局にもそれと分かるため、利用する場合はできるだけ信頼できる、書面添付に積極的に対応している税理士に依頼することが重要です。

書面添付はどのくらい使われている?(実施割合)

効果が期待できる制度ですが、実際の普及率(添付割合)はまだ高くありません。国税庁が公表する「令和4事務年度 国税庁実績評価書」によると、税理士が関与した申告書のうち書面添付があった割合(書面添付割合)は、法人税で10.0%、所得税で1.5%、相続税で23.4%でした。法人税・相続税では税理士の関与割合が8〜9割に達する一方で、書面添付割合はそれを大きく下回っており、対応している税理士事務所はまだ限られているのが実情です。

令和4事務年度の税目別の書面添付割合を示す棒グラフ。所得税1.5%、法人税10.0%、相続税23.4%。
税理士が関与した申告書のうち書面添付があった割合(書面添付割合)

なお、直近の「令和6事務年度 国税庁実績評価書」(令和7年10月公表)でも、「書面添付制度の普及・定着に向けた積極的な取組」は国税庁の測定指標として引き続き設定されています。制度を広げていく方針そのものは変わっていません。裏を返せば、書面添付に積極的に取り組む税理士に依頼すること自体が、申告の質を客観的に示す差別化になり得るともいえます。

注意点:調査の「省略」は保証されない

大切なポイントとして、書面添付は実地調査の省略を保証する制度ではありません。国税庁も、意見聴取によって疑問点が解明され結果的に調査に至らないことはあり得るとしつつ、調査の省略を前提とした制度ではないと明確に説明しています。意見聴取で疑問が解消されずに実地調査へ進むこともありますし、そもそも事前通知を要しない調査では意見聴取自体が行われません。あくまで「調査に発展しにくくする」「進んでも負担を軽くする」ための仕組みである、と理解しておきましょう。

また、添付書面の中身が空疎だと効果は期待できません。国税庁は添付書面に、どのような書類や帳簿に基づき、どのように確認・計算したのか、前年と比べて増減が著しい事項の理由、会計処理方法を変更した事項とその理由などを、具体的かつ的確に記載する必要があるとしています。「形だけの書面」では意味がない、という制度なのです。

よくある質問(FAQ)

Q. 書面添付をすれば税務調査は来なくなりますか?
A. いいえ。来る確率を下げる効果は期待できますが、「来なくなる」と保証するものではありません。意見聴取の結果、実地調査に進むこともあります。

Q. 意見聴取には、経営者本人も同席するのですか?
A. 同席しません。事前通知前の意見聴取は税理士に対して行われるもので、納税者を同席させて行うものではないとされています。会社としては、税理士からの報告を受けて必要な資料や事実関係を整理して渡す、という関わり方になります。

Q. 意見聴取のあとに修正申告をすると、ペナルティは重くなりますか?
A. 意見聴取での質疑等のみをきっかけとして、調査通知前に自主的に修正申告書を提出した場合は、過少申告加算税は課されません(当初申告が期限内申告である場合)。ただし延滞税は課されるため、修正申告と本税の納付はできるだけ早く行うのが基本です。

Q. 自分(個人事業主)でも利用できますか?
A. 書面添付は税理士が作成・添付する制度のため、税理士に申告書の作成を依頼していることが前提です。期中の継続的な関与が必要なため、月次顧問契約のある場合に実施されるのが一般的です。所得税での書面添付割合は約1.5%とまだ少数ですが、事業所得・不動産所得の申告でも利用できます。

Q. 申告書を出すときに添付を忘れました。あとから出せますか?
A. 令和6年4月以降の取扱いでは、その申告書の法定申告期限内であれば、計算事項等記載書面を単独で提出することができるとされています(同時期から、参考資料を添付書面に付けて提出することも可能になりました)。実際の対応は税務署・税理士に確認してください。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?
A. 事務所により異なります。顧問料とは別に追加料金が設定されることが多いため、依頼前に費用と対応範囲を確認しておくと安心です。

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延滞税とは?2026年(令和8年)の税率2.8%・9.1%と計算方法・軽減策

納付期限と時間の経過を表すカレンダーと時計、納税書類のイメージ
税金の納付が遅れたときに、利息のように課されるのが「延滞税」です。延滞税の税率は毎年見直されるため、古い情報のままだと負担額を読み違えてしまいます。ここでは、延滞税の仕組みと最新の税率(2026年〔令和8年〕の割合)、計算方法、そして負担を最小限に抑えるポイントを、税務調査の現場目線で整理します。

知っておきたい延滞税のしくみ

延滞税は、税金の納付が期限に遅れた場合などに課される税金です。納付が遅れるほど金額が大きくなり、特に納期限から2か月を超えると税率が一段と高くなるのが特徴です。仕組みと最新の税率を押さえ、延滞に気づいたら一日でも早く納付することが大切です。

延滞税とは?

延滞税とは、税金の納付が遅れたり、期限までに申告しなかったり、過少申告などで申告に問題があった場合に課される税金です。納付期限の翌日から、納付するまでの日数に応じて課税されます。延滞日数が2か月を超えるかどうかで税率が変わり、遅れるほど負担が膨らみます。理由を問わず発生するため、延滞に気づいたらできるだけ早く納めることが重要です。 延滞税は、税務署から納付書が送られてくるのを待つ性質のものではなく、本税を納付した時点で自動的に確定する税金です。「連絡が来てから払えばよい」と考えていると、その間も日数に応じて金額が積み上がります。

課税されるケースは?

延滞税が課されるのは、主に次のような場合です。
  • 申告などで確定した税額を、法定期限までに納付しなかった場合
  • 期限後申告書または修正申告書を提出し、納付すべき税額がある場合
  • 税務署から更正・決定の処分を受け、納付すべき税額がある場合
いずれも、法定期限の翌日から納付日までの日数に応じて延滞税が発生します。延滞税が課されるのは本税のみで、加算税に対しては課されません。 なお、計算期間から除かれる特例もあります。たとえば期限内申告をした場合、法定申告期限から1年を経過する日の翌日から修正申告書を提出した日までの期間は、延滞税の計算除外期間となります(期限後申告で1年以上経過してから修正・更正があった場合も同様の取り扱いがあります)。ただし、隠ぺい・仮装による重加算税の対象となる場合は、この除外は適用されません。

延滞税の税率は?(2026年〔令和8年〕の割合)

延滞税の税率は毎年見直されます。本来は年7.3%・年14.6%ですが、低金利を踏まえた特例により、実際にはより低い割合が適用されてきました。2026年(令和8年)1月1日〜12月31日の割合は次のとおりです。
延滞している期間2026年(令和8年)の割合参考:2022〜2025年(令和4〜7年)
納期限の翌日から2か月を経過する日まで年2.8%年2.4%
2か月を経過した日以後年9.1%年8.7%

※2026年(令和8年)の割合は、平均貸付割合0.8%に基づく「延滞税特例基準割合」1.8%から算出されたものです(2.8%=1.8%+1%/9.1%=1.8%+7.3%)。2025年(令和7年)までの2.4%・8.7%から引き上げられている点にご注意ください。割合は毎年変わるため、最新の数値は必ず国税庁「No.9205 延滞税について」でご確認ください。複数年にまたがる延滞は、年ごとにその年の割合で計算します。

延滞税の計算方法は?

延滞税は、次の式で計算します。
延滞税 = 本税の額 × 税率 × 延滞日数 ÷ 365日
2か月以内と2か月超で税率が変わるため、2か月を超える場合は2段階に分けて計算します。
延滞税 =(本税 × 2.8% × 2か月以内の日数 ÷ 365)+(本税 × 9.1% × 2か月を超えた分の日数 ÷ 365)
たとえば、本税100万円を納期限から30日遅れて納付した場合(2か月以内)は、次のようになります。
1,000,000 × 2.8% × 30 ÷ 365 = 約2,300円
2か月を超えると、超えた日数分に年9.1%が適用され、負担が一気に増えます。本税100万円を90日(2か月=約60日と仮定し、超過30日)遅れて納付した場合の目安は、次のとおりです。
(1,000,000 × 2.8% × 60 ÷ 365 = 約4,600円) +(1,000,000 × 9.1% × 30 ÷ 365 = 約7,500円) = 合計 約12,000円
同じ本税100万円でも、30日遅れなら約2,300円、90日遅れなら約12,000円、半年(180日)遅れなら約34,500円と、2か月を超えたあとの増え方が急になることがわかります。
本税100万円を30日・60日・90日・180日遅れて納付した場合の延滞税の目安を比較した棒グラフ
2か月(約60日と仮定)を超えると税率が年2.8%から年9.1%に上がるため、以後の増え方が急になります(端数処理後の目安)。
なお計算には端数処理のルールがあり、本税は1万円未満を切り捨て、算出した延滞税は100円未満を切り捨て、延滞税の合計が1,000円未満なら納付は不要です。正確な金額は、国税庁サイトの延滞税の自動計算で確認すると確実です。

延滞税を最小限に抑えるポイントは?

2か月以内に納付する

延滞税は日数に応じて課され、2か月を超えると税率が約3倍(2.8%→9.1%)に跳ね上がります。延滞に気づいたら、まずは2か月以内の納付を目指しましょう。

本税を先に納める

延滞税は未納の本税に対して日数で計算されるため、本税を納めた時点で増加が止まります。全額をすぐに用意できない場合でも、一部でも先に納めれば、その分だけ以後の延滞税の基礎が小さくなります。「加算税や延滞税の金額が確定してからまとめて払おう」と待つ必要はありません。

計算除外の特例を確認する

期限内申告をしていて1年以上経過してから自主的に修正申告する場合、申告期限の1年後から修正申告を提出した日までの延滞税が計算から除外されます。焦って誤った申告をすると損をすることもあるため、落ち着いて対応しましょう(重加算税の対象となる場合は除外されません)。

一括で払えないときは「猶予制度」を検討する

納期限までに一時に納めるのが難しいときは、税務署に申請して納税の猶予・換価の猶予を受けられる場合があります。猶予が認められた期間中の延滞税は軽減され、2026年(令和8年)は年1.3%(猶予特例基準割合)となります。年9.1%と比べれば負担は大きく変わります。災害・盗難・病気など一定の事情による納税の猶予では、延滞税の全部または2分の1が免除される場合もあります。 たとえば「換価の猶予」は、国税を一時に納付すると事業の継続や生活の維持が困難になるおそれがある場合などに、原則として納期限から6か月以内に申請することで、原則1年以内の範囲で分割納付が認められる制度です。放置して延滞税を膨らませる前に、早めに所轄の税務署(徴収担当)や税理士へ相談しましょう(詳しくは国税庁「国税を一時に納付することができないとき(猶予制度)」)。

同時に発生し得る加算税を把握する

延滞税とあわせて加算税が課されることがあります。加算税はいつ申告したかで税率が大きく変わるのが特徴で、税務調査の通知が来る前に自主的に申告するほど軽くなります。主な税率は次のとおりです(令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税の場合)。
加算税の種類原則(調査で指摘された場合)調査通知後・更正等の予知前調査通知前の自主的な申告
過少申告加算税
(申告額が少なかった場合)
10%
※期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%
5%
※同上の超える部分は10%
課されない
無申告加算税
(期限までに申告しなかった場合)
15%
50万円超の部分20%
300万円超の部分30%
10%
50万円超の部分15%
300万円超の部分25%
5%
重加算税
(隠ぺい・仮装があった場合)
過少申告に代えて35%
無申告に代えて40%
仮装・隠ぺいがある場合は軽減されません

※無申告加算税の300万円超30%は、高額の無申告が生じたことについて納税者の責めに帰すべき事由がない場合を除きます。また、過去5年以内に無申告加算税・重加算税を課されたことがある場合や、前年分・前々年分も無申告だった場合には、さらに10%が加算されます(短期累犯加重・連年無申告加重)。詳細は国税庁の公表資料でご確認ください。

なお、期限に遅れても、法定申告期限から1か月以内に自主的に期限後申告を行い、納付すべき税額を法定納期限までに全額納めているなど一定の要件を満たす場合は、無申告加算税は課されません(国税通則法66条9項)。申告を忘れたことに気づいたら、まず速やかに動くことが何よりの対策になります。

納付できる場所を確認する

納税は税務署のほか、金融機関の窓口、コンビニ(バーコード・QRコード納付)、クレジットカード納付、スマホアプリ納付など、複数の方法に対応しています。気づいたらすぐ納められるよう、利用できる方法を確認しておきましょう。なお、方法ごとに利用できる金額の上限や手数料の有無が異なります。最新の取り扱いは国税庁の納付手続のページでご確認ください。

課されないための対策

延滞税は、期限内に正しい額を納められていないことが原因で発生します。申告漏れや過少申告をしないよう努めれば、課される場面は大きく減らせます。申告のタイミングや適切な納税額の算出に不安があるなら、税理士に管理を依頼するのが安心です。 ただし、税理士に依頼していても、意思疎通が不十分だと余計な税金がかかってしまうことがあります。本来の納税額に近い金額のペナルティを負ってしまうのは、たとえば次のようなケースです。
  • 税理士に相談しても十分な対応が得られず、自己判断で申告ミスをしてしまった場合
  • 納めるべき税金を税理士に伝えておらず、後から発覚した場合
  • そもそも税理士に依頼せず、誤った解釈で申告してしまった場合
こうした事態を避けるためにも、法に基づいた提案をしてくれる、専門性とキャリアのある税理士に依頼することが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q. 延滞税の税率は毎年同じですか? A. いいえ。延滞税の割合は毎年見直されます。2026年(令和8年)は2.8%・9.1%ですが、2022〜2025年は2.4%・8.7%でした。古い税率で計算しないよう、納付する年の割合を国税庁サイトで確認してください。 Q. 加算税にも延滞税はかかりますか? A. 延滞税は本税のみを対象に課され、加算税には課されません。 Q. 税務調査で修正を求められました。本税だけ先に納めてもよいですか? A. 差し支えありません。延滞税は未納の本税に対して日数で計算されるため、本税を納めた時点で延滞税の増加は止まります。加算税の金額が確定するのを待って本税の納付を先延ばしにすると、その間も延滞税が増えていきます。金額や納付の順序に迷うときは、税務署の担当官や税理士に確認してから動くと確実です。 Q. 一括で納められないときはどうすればよいですか? A. 税務署に申請して納税の猶予・換価の猶予が認められれば、分割納付ができ、猶予期間中の延滞税も軽減されます(2026年〔令和8年〕は年1.3%)。放置せず、早めに税務署(徴収担当)や税理士に相談しましょう。 Q. 少しの遅れでも必ず延滞税がかかりますか? A. 端数処理のルールがあり、計算した延滞税が1,000円未満の場合は納付不要です。とはいえ遅れるほど増えるため、早めの納付が基本です。

まとめ

延滞税は、納付が遅れた日数に応じて自動的に増えていく利息のようなペナルティです。2か月を超えると税率が大きく上がり、割合は毎年変わります。2026年(令和8年)は年2.8%・年9.1%で、前年までより引き上げられています。延滞に気づいたら、最新の税率を国税庁で確認しつつ、できるだけ早く本税を納付することが負担を抑える基本です。一括で払えないときは猶予制度も選択肢になります。資金繰りや申告に不安があるときは、税務調査にも強い税理士へ早めに相談しましょう。

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