税務調査が入る基準とは?選ばれやすい会社・個人の特徴と最新データ

帳簿や通帳を整理して税務調査の基準に備える事業者のイメージ

税務調査の対象は、無作為に選ばれているわけではありません。申告書の数値、過去の税歴、取引先から集まる資料情報、そしてAIによる分析を組み合わせて「調査の必要度が高い」と判断された会社・個人が選ばれています。令和6事務年度に法人税の実地調査を受けたのは5万4千件で、国内の法人約296万社に対してごく一部です。ただし選ばれたときの指摘は重く、調査1件当たりの追徴税額は634万2千円と前事務年度から15.4%増えました。選定の物差しを知っておけば、過度に不安に思う必要はありません。

税務調査の対象会社を決める基準はある?

すべての法人に調査が入るわけではありません。国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月公表)によると、法人税の実地調査は5万4千件で、前事務年度から7.4%減りました。国内の法人数は約296万社(国税庁「令和5年度分 会社標本調査」の法人数295万6,717社)ですから、1年間に実地調査を受ける法人はごく一部にとどまります。

一方で、選ばれた場合の重みは増しています。同じ令和6事務年度の追徴税額(法人税・消費税)の総額は3,407億円で、直近10年で最高調査1件当たりの追徴税額は634万2千円(前事務年度比15.4%増)で、こちらは直近10年で2番目の高さです。不正計算が見つかった割合(不正発見割合)は23.5%と前年から1.2ポイント上昇しました。つまり「件数は絞られていても、選ばれたときに指摘される確率と金額は高まっている」という状況です(出典:国税庁令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要)。

平成27事務年度から令和6事務年度までの法人税・消費税の追徴税額の推移を示す折れ線グラフ
令和6事務年度の3,407億円は直近10年で最高。調査件数は減っても追徴税額は増えています。

調査対象に選ばれやすい主なポイント

観点選ばれやすくなるケース備考
数値の急変売上・利益が急激に増減、多額の特別損失・特別利益同業他社との比較で異常値が出ると注目される
過去の税歴過去に隠蔽・不正があった、申告内容に問題があった要調査の区分に入りやすい
取引先の状況取引先に不正をしている会社がある取引情報の突合で発覚することがある
申告・納税の状況期限内に申告・納税がされていない、記載に不備基本的な部分から確認される

どのように情報を集めているかというと、申告内容そのものを照会するほか、国税総合管理(KSK)システムを用いて、金融機関の情報や法務局の登記情報なども分析したうえで判断しています。KSKは全国の申告・納税データを一元管理する仕組みで、申告書の異常値を見つけて調査候補を選定する役割を担っています。近年はこれにAIによる分析が加わり、選定の精度がさらに高まっています。調査対象の選ばれ方をもう少し広く押さえたい方は、税務調査とは?目的・種類・対象の選ばれ方と担当組織もあわせてご覧ください。

不正が見つかりやすい業種(法人税・令和6事務年度)

国税庁は、法人税の実地調査で不正計算が発見された割合が高い業種も毎年公表しています。「1件当たりの金額が大きい業種」ではなく、調査したうち何件で不正が見つかったかという比率である点が特徴です。

順位業種不正発見割合不正1件当たりの不正所得金額
1位バー・クラブ62.3%約4,466万円
2位その他の飲食45.2%約3,176万円
3位外国料理40.2%約902万円
4位美容34.5%約3,166万円
5位大衆酒場、小料理34.4%約1,770万円
6位自動車修理32.9%約638万円
7位船舶31.0%約1,630万円
8位土木工事30.4%約1,750万円
9位職別土木建築工事30.1%約1,694万円
10位中古品小売30.1%約2,713万円

出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月公表)。法人税の実地調査全体の不正発見割合は23.5%。

飲食・接客業が上位に並ぶのは、現金でのやりとりが多く、売上の記録が残りにくいためと考えられます。もっとも、美容・自動車修理・建設・中古品小売のように、いわゆる「夜の商売」以外も並んでいる点は見落とせません。共通するのは、少額・多数の取引が現金や個人客との間で発生しやすい業態だという点です。該当する業種であれば、売上の計上時期と入金記録が一致しているかを日頃から確認しておくと安心です。業種ごとの傾向は税務調査が入りやすい業種は?法人・個人別の最新データでさらに詳しく整理しています。

個人への調査は「簡易な接触」が急増している

個人事業主の方が気にすべきなのは、法人とは別に公表されている所得税・消費税の数字です。国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)によると、所得税の実地調査は4万7千件(前事務年度4万8千件)とほぼ横ばいでした。一方で、税務署に呼ばれたり文書・電話で確認を受けたりする「簡易な接触」は68万9千件(同55万8千件)へと大きく増え、実地調査と合わせた「調査等」の合計は73万6千件に達しています。

金額の面でも、調査等による追徴税額の総額1,431億円は過去最高です。実地調査による追徴税額を1件当たりでみると241万円(前事務年度224万円)、そのうち高額・悪質な事案を深く調べる特別調査・一般調査に限れば1件当たり299万円、申告漏れ所得金額は1件当たり1,486万円になります。

消費税(個人事業者)も同じ傾向です。実地調査は2万8千件とほぼ横ばいである一方、簡易な接触が15万7千件(前事務年度9万4千件)へ増え、調査等の合計件数は18万5千件と前年の約1.5倍になりました。「税務署が動く=自宅や事務所に調査官が来る」だけではない——これが現在の実像です(出典:国税庁令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況)。

個人で申告漏れが大きかった業種(事業所得・令和6事務年度)

個人については、不正の発見割合ではなく1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種が公表されています。法人の不正発見割合ランキングとは切り口が違うため、あわせて見ると自分の業種の位置づけが掴みやすくなります。

順位業種1件当たりの申告漏れ所得金額1件当たりの追徴税額(加算税含む)
1位キャバクラ4,164万円1,474万円
2位眼科医3,894万円964万円
3位ホステス、ホスト2,968万円475万円
4位経営コンサルタント2,734万円878万円
5位太陽光発電2,142万円757万円
6位バー1,968万円425万円
7位コンテンツ配信1,936万円462万円
8位ブリーダー1,876万円498万円
9位スナック1,873万円353万円
10位システムエンジニア1,631万円287万円

出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)。特別調査・一般調査に基づく実績。

注目したいのは、眼科医・経営コンサルタント・コンテンツ配信・システムエンジニアといった業種が上位に入っている点です。現金商売だけが見られているわけではなく、報酬の単価が高く、経費の線引きが判断に委ねられやすい仕事も同じように対象になります。売上規模や業態にかかわらず、根拠資料をそろえておくことが結局は近道です。

個人事業主が調査対象になりやすいケース

税務署は法人だけでなく、個人への調査も行います。個人事業主が対象に選ばれやすいのは、次のようなケースです。

  • 期限内に申告・納税がされていない……まず確定申告が期日までに提出され、きちんと納税されているかが確認されます。
  • 記載内容や数値に不自然な点がある……提出された申告書が正しく書かれているか、他の会社との比較で気になる点がないかが見られます。
  • 過去に隠蔽などの税歴がある……これまでの申告状況も重要な判断材料になります。
  • 売上が1,000万円前後で推移している……基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、原則として2年後から消費税の課税事業者になります。これを避けようと売上を1,000万円以下に意図的に抑えていないかが注目されることがあります(正当な売上であれば問題ありません)。なおインボイス制度(2023年10月開始)のもとでは、適格請求書発行事業者として登録した時点で、基準期間の課税売上高にかかわらず消費税の申告義務が生じます。免税点だけで判断できない状況になっている点に注意しましょう。
  • 売上の割に所得が極端に少ない……売上はあるのに所得が低いと、「生活費をどう工面しているのか」と疑問を持たれやすくなります。

提出した確定申告書の情報は税務署に集約され、取引先の会社の情報とも照合されます。取引内容に食い違いが見つかれば、その点を指摘されることもあるため、申告書を作成する際は整合性に注意しましょう。

売上規模が小さくても安心はできない

売上規模は大きいほど調査が入りやすく、かつては「1,000万円以上が一つの目安」とも言われてきました。ただし、最近はFX・アフィリエイト・ネットオークション・暗号資産(仮想通貨)取引などで収入を得る個人が増えており、売上が低くてもこうした分野が重点的に調べられています。

令和6事務年度の実績を見ると、暗号資産(仮想通貨)等の取引を行っている個人への実地調査(特別・一般)は613件(前事務年度535件)で、1件当たりの追徴税額は745万円。所得税の実地調査(特別・一般)全体の299万円と比べて2.5倍です。民泊・ネット通販・ネットオークション・アフィリエイトなどシェアリングエコノミー等の新分野についても1,155件の実地調査が行われ、1件当たりの申告漏れ所得金額は1,595万円でした。国税庁は電子商取引専門調査チームを置き、資料情報の収集・分析に努めていると明記しています。

また、簡易的とされる白色申告でも、明細をそろえて提出する青色申告でも、調査対象になる可能性はゼロではありません。はじめからしっかり申告・納税をしておけば、いざ調査が入っても落ち着いて対応できます。

税務調査の基準について考えるイメージ

KSKシステムとAIによる調査先の選定

税務署は、効率的に調査を行うため、申告内容に応じて法人を区分して管理していると言われています。一般に、申告内容が良好で問題が少ないグループ、その他大多数のグループ、過去に不正があるなど要調査とされるグループ、といった分け方が知られています。要調査とされるグループは、他に比べて調査が入る確率が高くなると考えられます。

ここに近年加わったのがAIです。国税庁の説明によると、AIを活用した予測モデルで調査必要度の高い法人を抽出し、想定される不正のパターン(売上・原価・経費のどこに問題がありそうか)まで判定したうえで、申告書や保有する資料情報とあわせて分析し、最終的に調査を行うかどうかは調査官が判断するという流れです。公表された事例では、AIが「原価に問題がありそう」と判定した法人について、決算書を分析すると外注費が年々不自然に増えており、調査の結果、取引実態のない外注費の計上が把握されています。所得税の側でも、選定へのAI活用が進められていると公表されています。

赤字続きの会社だからといって対象から外れるわけではありません。赤字なのに役員や社員の生活が成り立っているのはなぜか、社長の役員報酬が少ないのにどう生活しているのか——といった点に疑問を持たれることがあるためです。なお、税務調査は事前に電話などで連絡(事前通知)があるのが基本ですが、飲食店などの現金商売では事前通知なしに調査官が訪れることがあります。万一その場合でも、慌てずに冷静に対応することが大切です。時期の傾向については税務調査が入りやすい時期はいつ?秋がピークの理由と頻度・確率で解説しています。

申告していない法人・事業者への対応が強まっている

ここ数年で明確に強まっているのが、そもそも申告をしていない法人・個人(無申告者)への対応です。令和6事務年度の無申告法人に対する法人税の実地調査は2,089件(前事務年度比17.8%増)で、法人税・消費税を合わせた追徴税額は約355億円と、前事務年度から6割以上増えました

個人も同様です。所得税が無申告の個人に対する実地調査(特別・一般)は4,812件で、1件当たりの追徴税額524万円・総額252億円はいずれも過去最高となりました。1件当たりの申告漏れ所得金額は2,992万円で、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1,486万円の約2倍です。消費税が無申告の個人事業者についても、1件当たりの追徴税額296万円が過去最高を更新しました。

公表された事例では、書面照会による行政指導を再三無視していた法人について、SNSの更新状況や店舗の様子から稼働の実態を把握し、銀行調査で多額の入出金を確認したうえで実地調査に移行した経緯が紹介されています。個人の事例でも、ゲーム機器やスマートフォンの転売収入を申告していなかったケースで、売上の書類を破棄していたことが隠蔽行為と判断され重加算税が課されています。「連絡に答えなければ分からない」「記録を消せば分からない」という考え方は通用しません。

あわせて知っておきたいのが、実地調査以外の接点です。国税庁は、申告内容に簡易な誤りが想定される法人に対しては、書面照会・電話連絡・来署依頼によって自発的な見直しを促す「簡易な接触」を行っており、その件数は令和6事務年度に8万5千件(前事務年度比13.4%増)と実地調査を上回っています。税務署から届く「お尋ね」は調査の予告ではありませんが、放置してよいものでもありません。心当たりがあれば早めに内容を確認し、必要なら修正申告を検討しましょう。

日常の会計処理で注意したいこと

調査が入ると決まってから準備をしても、必要書類をそろえて簡単にチェックする程度が精一杯になりがちです。日頃からの準備が一番の対策です。基本は「帳簿を正しくつける」「書類をしっかり管理する」「後から分かるようにメモを残す」の3点です。

現金出納帳・預金通帳の管理

現金出納帳は金額だけでなく、相手先や取引内容まできちんと記録し、領収書などと照合しやすくしておきます。預金通帳はそのまま証拠書類になりますので、預金取引照合表や計算書とあわせて保管しておきましょう。

売上側の書類こそ残す

経費の領収書は申告に必要だからと保存していても、売上側の請求書・納品書・取引先とのやりとりは残していない——これは無申告事案の調査事例で実際に指摘されている落とし穴です。売上の記録が無ければ、取引先への反面調査で金額が把握されるうえ、書類の破棄そのものが隠蔽行為と判断されて重加算税の対象になり得ます。ネット取引ではメッセージやアプリの履歴も取引の記録になります。

処理の積み残しを作らない

会計処理が複雑で後回しにしたくなることもありますが、記憶が新しいうちに解決しておくのが鉄則です。会議の議事録も、その日のうちに作成する習慣をつけましょう。こうした細かな積み重ねが、強固な税務調査対策になります。日常から適切な処理と証拠書類の保存ができていれば、調査官から細かく質問されても落ち着いて答えられます。

税務調査の対象基準についてよくある質問

Q. 何年に一度くらいのペースで調査が来るものですか?

A. 一律の周期はありません。令和6事務年度の法人税の実地調査は5万4千件で、法人数(約296万社)に対してごく一部です。ただし過去に不正があった、申告内容に異常値があるといった事情があれば間隔は短くなり得ます。「前回から◯年経ったから来る」という決まりはないと考えてください。

Q. 税務署から書面や電話で「お尋ね」が来ました。これは税務調査ですか?

A. 多くの場合は「簡易な接触」で、実地調査とは区別されています。所得税では令和6事務年度に68万9千件と前年から大きく増えており、珍しいことではありません。ただし内容の確認や自発的な見直しを求めるものなので、放置せず期限までに回答することが大切です。

Q. 個人事業主でも実地調査は来ますか。件数はどのくらいですか?

A. 来ます。令和6事務年度の所得税の実地調査は4万7千件、消費税(個人事業者)の実地調査は2万8千件でした。実地調査による追徴税額は所得税で1件当たり241万円、消費税(個人事業者)で1件当たり127万円です。件数だけを見れば確率は高くありませんが、対象になれば金額の負担は小さくありません。

Q. AIが選んでいるなら、人間が判断する余地はないのですか?

A. AIは調査必要度の高い法人の抽出と不正パターンの判定までを担い、実際に調査を行うかどうかは調査官が最終的に判断すると国税庁は説明しています。分析結果だけで自動的に調査先が決まる仕組みではありません。

Q. 設立したばかりの会社や、休眠から再開した会社も対象になりますか?

A. なり得ます。とくに申告義務があるのに申告していない法人・個人への対応は強化されており、令和6事務年度は法人・個人とも追徴税額が大きく増えました。事業を再開したら、まず申告義務の有無を確認しましょう。

なお、本文で挙げた数値は国税庁が令和7年12月に公表した令和6事務年度の集計(令和6年7月〜令和7年6月)です。最新の公表値は国税庁のサイトでご確認ください。

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