
税務調査の対象になりやすいのは、売上規模が大きい事業者、赤字なのに生活実態と申告が噛み合わない会社、現金商売など取引履歴が残りにくい業態、そしてそもそも申告をしていない人です。業種だけで決まるわけではありません。
国税庁は令和6事務年度、AIも活用しながら調査必要度の高い納税者を抽出したと公表しています。実地調査の件数はほぼ横ばいでしたが、追徴税額の総額は過去最高になりました。
「うちのような会社にも来るのだろうか」と不安になったときは、傾向を正しく知ることが落ち着いた備えにつながります。売上規模・経営状況・業種という観点から、公表データをもとに整理します。
売上規模が大きいほど対象になりやすい
影響が大きい要素の一つが売上規模です。基本的に、年間の売上が大きい会社ほど税務調査に入られやすい傾向があります。
売上が大きいほど、申告内容の誤りや申告漏れがあった場合に追徴できる税額も大きくなり、調査の効率が高いためです。たとえば年間売上が5,000万円を超える店舗は、年間売上500万円ほどの店舗よりも調査対象になりやすいといえます。
そのため「自社は売上が小さいので対象になりにくい」と考える方も多いのですが、これはあくまで相対的に影響を受けやすいという傾向にすぎません。売上規模が小さくても、申告内容に疑わしい点があれば対象になり得ます。
赤字経営でも安心はできない
赤字経営の会社も油断はできません。赤字なのに役員や社員が生活できているのはなぜか——税務署はそうした矛盾に着目します。
所得を実態より小さく見せていないか、計上すべき売上が漏れていないかといった視点でチェックが入ることがあります。
近年は、こうした「疑わしいかどうか」の見極めにデータ分析が本格的に使われています。国税庁は令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の調査について、AI(人工知能)も活用しながら調査必要度の高い納税者を抽出したと公表しました。所得税の調査等の状況を数字で見ると、次のような姿になっています。
- 実地調査と簡易な接触を合わせた調査等の件数は73万6千件(前事務年度60万5千件)。うち申告漏れなどの非違があったのは36万9千件。
- 実地調査そのものは4万7千件でほぼ横ばい(同4万8千件)。増えたのは、税務署に出向かずに文書・電話などで是正を促す簡易な接触(68万9千件)のほうです。
- 追徴税額の総額は1,431億円で過去最高。実地調査1件当たりの追徴税額も241万円(同224万円)に増えています。
つまり、広く浅く声をかける入口が広がりつつ、実際に踏み込む調査は的を絞って行われているというのが現在の傾向です。「件数が多いから自分は大丈夫」とも「減っているから安心」とも言えません。
参考:国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」
個人事業者で申告漏れ所得金額が高額な業種は接客・専門職が上位
国税庁は毎年、「事業所得を有する個人の1件当たりの申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」を公表しています。これは「脱税の件数が多い業種」ではなく、税務調査で発覚した1件当たりの申告漏れ所得金額が大きかった業種を示すものです。
令和7年12月に公表された令和6事務年度の内訳は次のとおりです。
| 順位 | 業種 | 1件当たりの申告漏れ所得金額 | 1件当たりの追徴税額(加算税を含む) |
|---|---|---|---|
| 1位 | キャバクラ | 4,164万円 | 1,474万円 |
| 2位 | 眼科医 | 3,894万円 | 964万円 |
| 3位 | ホステス、ホスト | 2,968万円 | 475万円 |
| 4位 | 経営コンサルタント | 2,734万円 | 878万円 |
| 5位 | 太陽光発電 | 2,142万円 | 757万円 |
| 6位 | バー | 1,968万円 | 425万円 |
| 7位 | コンテンツ配信 | 1,936万円 | 462万円 |
| 8位 | ブリーダー | 1,876万円 | 498万円 |
| 9位 | スナック | 1,873万円 | 353万円 |
| 10位 | システムエンジニア | 1,631万円 | 287万円 |
出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)。特別調査・一般調査に基づく実施結果です。
この年は、キャバクラ(1位)と眼科医(2位)がいずれも前年の上位20位圏外から一気に上位へ入りました。前年1位だった経営コンサルタントは4位、前年3位のコンテンツ配信は7位、前年17位だったシステムエンジニアは10位へと入れ替わっています。
かつてはキャバレー・風俗業などが上位を占めていましたが、近年は現金商売に加えて、医療系の専門職、経営コンサルタントやシステムエンジニア・コンテンツ配信といった高所得の専門職やネット系フリーランスも並ぶのが特徴です。
ただし、この一覧は「その業種なら必ず調査される」ことを意味しません。あくまで、調査が行われた結果として1件当たりの申告漏れが大きかった業種です。順位は毎年入れ替わるため、「今年は載っていないから安全」という読み方もできません。
法人は「不正発見割合」で見ると飲食・サービス業が上位
法人については、国税庁が別に「不正発見割合の高い業種」を公表しています。これは法人税の実地調査のうち、仮装・隠ぺいなどの不正計算が見つかった割合で、金額の大きさではなく「不正が見つかる確率」を示す指標です。
| 順位 | 業種目 | 不正発見割合 | 不正1件当たりの不正所得金額 |
|---|---|---|---|
| 1位 | バー・クラブ | 62.3% | 4,466万円 |
| 2位 | その他の飲食 | 45.2% | 3,176万円 |
| 3位 | 外国料理 | 40.2% | 902万円 |
| 4位 | 美容 | 34.5% | 3,166万円 |
| 5位 | 大衆酒場、小料理 | 34.4% | 1,770万円 |
| 6位 | 自動車修理 | 32.9% | 638万円 |
| 7位 | 船舶 | 31.0% | 1,630万円 |
| 8位 | 土木工事 | 30.4% | 1,750万円 |
| 9位 | 職別土木建築工事 | 30.1% | 1,694万円 |
| 10位 | 中古品小売 | 30.1% | 2,713万円 |
出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月公表)。
個人の一覧が接客業と高所得の専門職に広がっているのに対し、法人の不正発見割合は飲食・美容・建設など、現金や個人客の比率が高い業態に集中しているのが特徴です。
一方、不正1件当たりの不正所得金額で見ると顔ぶれが変わり、令和6事務年度は水運が1億1,103万円で最も大きく、その他の卸売(5,384万円)、映画サービス(5,273万円)が続きます。「見つかりやすい業種」と「見つかったときの金額が大きい業種」は別物だと押さえておきましょう。
現金商売・個人相手の事業が注目されやすい理由
水商売や飲食店などは、個人のお客様にサービスを提供し、その代金を現金で受け取るケースが多い業態です。現金取引はカード決済や銀行振込と異なり取引履歴が残りにくいため、売上の計上漏れが生じやすいと指摘されます。
一方、会社を相手に取引する事業では、取引先も申告を行うためお金の流れが明確になりやすく、申告漏れは比較的起こりにくいといえます。
もっとも、「現金だから分からない」という前提は現在では通用しません。国税庁が公表した令和6事務年度の調査事例には、従業員名義で複数のキャバクラ店を経営して自らは無申告だったケースが挙げられています。
この事例では、営業許可申請や取引決済が従業員名義でも、売上の管理や経営方針の決定を誰が行っていたかを質問調査で確認して実質的な経営者を判断し、仮装・隠ぺいにあたるとして重加算税が課されています。所得税・消費税に加え、コンパニオンへの報酬に係る源泉所得税も課税されました。
また、建設関係では一人親方として働く方も多く、IT関係や運送業でも実態がつかみにくいケースがあります。システムの受注や広告収入で利益を得ている事業は、外形から取引の実態が見えにくいため注視されやすい面があります。
税務署は申告データの分析に加え、取引先への確認(反面調査)やインターネット上の情報なども含めて多角的に資料を収集し、調査対象を選定しています。税務調査で狙われる理由と備え方もあわせて確認しておくと、自社の弱点が見つけやすくなります。
消費税は「簡易な接触」で対象が一気に広がった
令和6事務年度で最も動きが大きかったのは、個人事業者の消費税です。実地調査と簡易な接触を合わせた調査等の件数は18万5千件(前事務年度12万件)と、1年で約1.5倍に増えました。
内訳を見ると、実地調査は2万8千件(同2万7千件)とほぼ横ばいで、増えたのは簡易な接触15万7千件(同9万4千件)です。申告漏れ等の非違があった件数も10万1千件(同7万8千件)に増えています。
インボイス制度の開始で消費税の申告義務を負う個人事業者が増えたこともあり、「臨場する調査」ではなく文書や電話での確認という形で接触される可能性が高まっているのが実情です。税務署から書面が届いても、それだけで実地調査だと慌てる必要はありません。
個人・富裕層への調査も強化されている
調査の対象は法人だけではありません。近年は個人の富裕層(有価証券や不動産の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人、海外投資を積極的に行う個人など)への調査が強化されています。
令和6事務年度に富裕層に対して行われた実地調査(特別・一般)は2,427件で、1件当たりの追徴税額は855万円。所得税の実地調査(特別・一般)全体の299万円と比べて2.9倍です。申告漏れ所得金額の総額は837億円(前事務年度655億円)に上ります。
とくに海外投資等を行っている富裕層は、1件当たりの追徴税額が1,595万円で全体の5.3倍に達しました。富裕層に限らず海外投資等を行っている個人全体でも866万円(2.9倍)で、国外送金等調書やCRS情報(非居住者金融口座情報)の活用が背景にあります。
暗号資産(仮想通貨)等の取引を行っている個人も、1件当たりの追徴税額は745万円で全体の2.5倍です。民泊・クラウドソーシング・ネット通販などシェアリングエコノミー等の分野では1,155件の実地調査が行われ、1件当たりの申告漏れ所得金額は1,595万円でした。

もちろん、一般の個人事業主が調査対象になることもあります。「確定申告を税理士に依頼していない事業者が狙われやすい」と考える方もいますが、税理士に依頼しているかどうかが調査対象の決め手になるという事実はありません。申告内容に誤りや不自然な点があれば、個人でも対象になり得ます。
もっとも厳しく見られているのは「無申告」
業種や規模以上に注意したいのが、そもそも申告をしていない状態(無申告)です。国税庁は「無申告は、自発的に適正な納税をしている納税者に強い不公平感をもたらす」として、厳格に対応する方針を明示しています。
令和6事務年度の所得税無申告者に対する実地調査(特別・一般)は4,812件。1件当たりの追徴税額は524万円と過去最高で、実地調査(特別・一般)全体(299万円)の約1.8倍でした。追徴税額の総額も252億円と過去最高です。
1件当たりの申告漏れ所得金額も2,992万円で、全体の1,486万円の約2倍にあたります。消費税の無申告者も1件当たりの追徴税額が296万円と過去最高を更新しました。
公表された調査事例では、ゲーム機やスマートフォンの転売収入を申告していなかったケースで、売上に関する書類をすべて破棄していたことが隠ぺい行為にあたるとして重加算税が課され、所得税7年分に加えて消費税も課税されています。
相続した金地金を売却したのに申告せず、売却代金を親族名義の口座へ移していたケースでも、重加算税が課されました。事業の売上だけでなく、資産の売却益も無申告の調査対象です。
「少額だから申告しなくてよい」「副業だから気づかれない」という判断は、もっともリスクが高い選択です。判断に迷う収入があるなら、まず申告したうえで正しい処理を確認するほうが、結果的に負担は軽くて済みます。
よくある質問(FAQ)
Q. 上位10業種に自分の業種が載っていました。調査を覚悟すべきですか?
A. そこまで身構える必要はありません。この一覧は「1件当たりの申告漏れ所得金額が大きかった業種」であって、調査に入られる確率の高さを示すものではありません。売上・経費を正確に計上し、証憑をそろえていれば、業種を理由に不利になることはありません。
Q. 一覧に載っていない業種なら心配ないということですか?
A. いいえ。順位は年度ごとに大きく入れ替わっており、令和6事務年度はキャバクラと眼科医の2業種が前年の上位20位圏外から1位・2位に入りました。掲載の有無で安全性は判断できません。
Q. 法人の「不正発見割合」と個人の「申告漏れ上位10業種」は何が違うのですか?
A. 不正発見割合は法人税の実地調査で不正計算が見つかった割合、上位10業種は個人事業者の1件当たり申告漏れ所得金額の大きさです。前者は「見つかりやすさ」、後者は「金額の大きさ」を表す別の指標なので、単純に並べて比較することはできません。
Q. 開業したばかりで売上も小さいのですが、対象になりますか?
A. 可能性はあります。規模の大小より、申告の有無と内容の正確さが重視されます。とくに無申告は1件当たりの追徴税額が最も大きく、優先度の高い対象と位置づけられています。
Q. 副業の収入や暗号資産の利益も見られていますか?
A. はい。国税庁はシェアリングエコノミー・ネット通販・暗号資産取引を重点分野として調査を実施し、その状況を毎年公表しています。暗号資産等取引は1件当たりの追徴税額が745万円と全体の2.5倍です。少額でも申告要否を確認しておきましょう。
まとめ|傾向は目安、決め手は申告の正確さ
税務調査の対象になりやすい傾向として、売上規模が大きい・赤字なのに実態が不自然・現金商売や個人相手で取引が見えにくい・申告漏れ所得金額が高額な業種に該当するといった点が挙げられます。
ただし、これらはあくまで傾向です。実際の調査は、AIによる分析を含めた申告データの検討を経て、「調査の必要度が高い」と判断されたところから行われます。業種そのものが理由で不利になるわけではありません。
大切なのは、正確な申告と帳簿・証憑の整備という当たり前の備えを日頃から続けることです。とくに、申告そのものを行っていない収入がある場合は早めに整理しておきましょう。
実際に連絡が来たときの動き方は税務調査の対応とやってはいけないことに、修正申告や不服申立てまで含めた実務は税務調査の対策【応用編】にまとめています。不安がある場合は、早めに税理士へ相談して体制を整えておくことをおすすめします。
なお、本文の数値は令和6事務年度(国税庁・令和7年12月公表)のものです。順位・金額は年度ごとに変動するため、最新の公表資料は国税庁の報道発表ページでご確認ください。




















まず押さえておきたいのは、国税通則法第74条の9の事前通知は、調査対象となる納税義務者と税務代理人に対して行われる手続きであり、反面調査先はその対象ではないという点です。前述の事務運営指針でも「事前連絡の適否を十分検討する」とされており、連絡があることもあれば、予告なく来社することもあります。
予告なしとなる主な理由は、調査官が本調査先と反面調査先の口裏合わせや証拠書類の改ざんを警戒しているためです。裏付けの必要性が強いと判断された取引ほど、警戒されやすくなります。
ただし、企業活動より調査が優先されるわけではありません。代表者や経理担当者が出張・会議で不在などやむを得ない事情があるときに、日程の変更を申し出ても罰せられることはありません。慌てて曖昧な回答をするより、日を改めて正確に答えるほうが結果的に安全です。
調査官が来社したら、次の順で落ち着いて確認しましょう。