税務調査の事例

印紙税の基本|領収書は5万円から・過怠税3倍と1.1倍の分かれ目

契約書と領収書を確認する事務机のイメージ

領収書に収入印紙が必要になるのは、記載金額が5万円以上のときです。契約書は種類ごとに基準が異なり、貼り忘れたまま税務調査で指摘されると、本来の印紙税額の3倍にあたる過怠税を求められます。

1件あたりの税額は小さくても、判定を誤ったひな型で何百枚も発行していれば、まとまった負担になります。ここでは印紙税の基本と、金額判定でつまずきやすい点、調査での扱われ方を税務の現場目線で整理します。

印紙税とは|納める義務があるのは「文書を作成した側」

収入印紙は、領収書や契約書などの一定の文書(課税文書)に課される国の税金で、これを「印紙税」といいます。対象となる文書に必要な額面の収入印紙を貼り、印章または署名で消印をすることで納税が完了します。

ここで押さえておきたいのが納税義務者です。納める義務があるのは文書を受け取る側ではなく、文書を作成した側です。領収書なら発行したお店や会社が負担します。

すべての書類が対象になるわけではありません。課税される文書は印紙税法の別表第一で20種類に限定されており、そこに載っていない文書に印紙税はかかりません。たとえば営業に関する金銭または有価証券の受取書(領収書=第17号文書)は、記載金額が一定額以上になると課税対象になります。

間違いやすいのが非課税の基準額です。領収書の非課税範囲は、2014年(平成26年)4月1日以降に作成するものから「記載金額5万円未満」に拡大されました。それ以前は3万円未満が非課税だったため、古い解説書や社内マニュアルには「3万円以上で印紙が必要」と書かれたものが残っています。

現在の基準は国税庁タックスアンサーNo.7105「金銭又は有価証券の受取書、領収書」のとおりで、5万円以上100万円以下なら200円です。テンプレートを更新し忘れていないか、この機会に確認しておくと安心です。

金額の判定でつまずきやすい3つのポイント

「5万円以上かどうか」は単純に見えて、実務では判定を誤りやすい論点がいくつもあります。税務調査の現場で指摘されやすいのは、次の3つです。

1. 消費税額を区分して書けば、税抜金額で判定できる

領収書に消費税額等を区分して記載した場合、その消費税額等は記載金額に含めません。国税庁は「商品販売代金48,000円、消費税額等4,800円、合計52,800円」と書いた領収書を例に、記載金額は48,000円となり5万円未満なので非課税になると示しています。

一方、同じ取引でも「合計52,800円(税込)」とだけ書くと消費税額が明らかとはいえず、記載金額52,800円の課税文書として200円の印紙が必要になります。書き方ひとつで課税・非課税が変わるわけです。

なお、この取扱いが使えるのは第1号文書・第2号文書・第17号文書の3種類に限られます。また消費税の免税事業者は例外で、区分記載しても消費税額等に相当する金額を記載金額に含めて判定します。インボイス制度の登録状況とあわせて、自社がどちらの立場かを確認しておきましょう。

2. 「営業に関しないもの」は金額にかかわらず非課税

第17号文書として課税されるのは営業に関する受取書です。ここでいう営業とは、おおむね営利を目的として同種の行為を反復継続して行うことをいいます。

そのため、個人が私生活で使っていた物を売却したときの領収書や、公益法人が作成する受取書は、金額が大きくても非課税とされています。自分の発行する領収書がどちらに当たるのか迷う場合は、所轄の税務署に文書を持参して事前に相談する方法が確実です。

3. クレジットカード払いは「その旨の記載」が分かれ目

クレジットカード払いであることを明記した領収書は、その場で金銭の受領がないため印紙税の対象外です。逆にいえば、「クレジットカード利用」と記載していないと現金を受け取った領収書と区別できず、課税文書として扱われるおそれがあります。

レジや販売管理システムのひな型に、その一文が入っているかを確認してください。テンプレートの不備は全件に同じ誤りが再現されるため、影響が大きくなりがちです。

主な文書と印紙税額の目安

印紙税額は文書の種類と記載金額で決まります。代表的なものを整理すると次のとおりです(2026年9月時点。国税庁タックスアンサーは令和8年4月1日現在の法令等に基づく内容です)。

文書の種類主な基準・税額備考
領収書(第17号文書・売上代金)記載金額5万円未満は非課税/5万円以上100万円以下で200円2014年4月から非課税枠が3万円→5万円に拡大。営業に関しないものは非課税
不動産の譲渡に関する契約書(第1号の1文書)記載金額10万円超は軽減税率を適用軽減措置は令和9年(2027年)3月31日作成分まで。1万円未満は非課税
建設工事の請負に関する契約書(第2号文書)記載金額100万円超は軽減税率を適用建設業法上の建設工事が対象。適用期限は同じく令和9年3月31日
継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)記載金額にかかわらず一律4,000円契約期間が3か月以内で更新の定めのないものは対象外

不動産譲渡・建設工事請負の契約書は軽減税率が使える

不動産の譲渡に関する契約書建設工事の請負に関する契約書には、平成26年4月1日から令和9年(2027年)3月31日までに作成されるものを対象とした軽減措置が設けられています(国税庁タックスアンサーNo.7108)。

マイホーム購入時の諸費用に「印紙代」が含まれているのは、売買契約書がこの第1号の1文書に当たるためです。軽減後の税額は契約金額に応じて次のように決まります。

記載された契約金額軽減後の税額本則税率との差
500万円超〜1,000万円以下5,000円本則1万円から半減
1,000万円超〜5,000万円以下1万円本則2万円から半減
5,000万円超〜1億円以下3万円本則6万円から半減
1億円超〜5億円以下6万円本則10万円から4万円減

注意点として、不動産譲渡契約書は記載金額10万円以下、建設工事請負契約書は100万円以下だと軽減措置の対象になりません(いずれも税額200円)。また契約金額が1万円未満のものは非課税です。

この軽減措置は恒久的な制度ではなく、これまで期限が到来するたびに延長されてきました。令和9年3月31日という現在の期限が再び延長されるかどうかは、今後の税制改正の議論で決まります。契約を予定している方は、作成日を基準にそのときの取り扱いを確かめてください。

印紙税は税務調査でもチェックされる

印紙税も国の税金ですから、法人税・所得税・消費税などの税務調査の際に、原始資料である契約書や領収書を確認する流れであわせて見られることがあります。とくに契約書を多く扱う不動産業・建設業や、売上の領収書を多く発行する業種では確認されやすいポイントです。

実務上知っておきたいのは、印紙税は「同時処理」という運用で扱われるのが原則だという点です。国税庁が職員向けに示している税務調査手続のFAQでは、印紙税について次のように整理されています。

調査の過程で印紙の貼付漏れ等を把握した場合に、その事実を指摘したうえで納税義務者が自主的な見直しをして不納付の申出を行うものであり、当初から印紙税の調査を行うこととしているものではないため、原則として法令上の事前通知は行わない——という内容です(印紙税単独の調査を同時に行う場合は事前通知が必要とされています)。

つまり「印紙税の調査に伺います」と事前に告げられるケースはむしろ例外で、法人税調査などの流れの中で指摘されるのが通常ということです。調査当日の全体像ははじめての税務調査ガイドで確認しておくと、慌てずに対応できます。

印紙税は1件あたりの税額が小さくても、契約書が大量にある会社ではひな型の誤りがそのまま横並びで再現されています。そのためまとまった金額の指摘につながりやすいのが怖いところです。「金額が小さいから後回し」にせず、ひな型の点検を定期的に行っておきましょう。

貼り忘れたらどうなる?過怠税は3倍、自主的な申出なら1.1倍

必要な収入印紙を貼らなかった場合、本来の印紙税額の3倍に相当する「過怠税」が徴収されます(納付しなかった印紙税額+その2倍の合計額)。

ただし、所轄税務署長に「印紙税不納付事実申出書」を提出し、その申出が調査による過怠税の決定を予知してされたものでないときは、1.1倍に軽減されます(国税庁タックスアンサーNo.7131)。軽減の条件は「調査前ならいつでも」ではなく、条文上は予知してされた申出でないことである点に注意してください。

また、印紙を貼っても消印を忘れた場合は、消されていない印紙の額面に相当する金額の過怠税がかかります。印紙代と合わせると実質2倍の負担になるため、貼付と消印はセットで確認する習慣をつけましょう。

本来の印紙税額が1万円の場合の負担額の比較。正しく貼付1万円、自主申出1万1千円、調査で指摘3万円
本来の印紙税額が1万円のケース。自主的に申し出るかどうかで負担が大きく変わります。

負担の差は決して小さくありません。さらに注意したいのは、過怠税は法人税の損金や所得税の必要経費に算入できない点です。通常の印紙代は租税公課として経費にできますが、過怠税はその全額が経費になりません。

この「全額が経費にならない」という性質は、過少申告加算税など他のペナルティと同じ考え方です。加算税の仕組みもあわせて知りたい方は過少申告加算税の税率と計算例を参照してください。貼り忘れに気づいたら、調査を待たずできるだけ早く自主的に申し出るのが賢明です。

なお、印紙を貼りすぎた場合や、課税文書に当たらない文書に誤って貼ってしまった場合は、「印紙税過誤納確認申請書」を提出することで還付を受けられる仕組みがあります。間違えたら取り返せないわけではないので、誤りに気づいたら所轄税務署に相談してください。

災害で被害を受けたときの印紙税の非課税措置

あまり知られていませんが、印紙税には被災された方に向けた非課税措置があります。平成28年4月1日以後に発生した自然災害により滅失・損壊した建物の代替建物を取得する場合などに作成する契約書が対象です。

具体的には、被災された方が作成する「不動産の譲渡に関する契約書」「建設工事の請負に関する契約書」で、その自然災害の発生した日から5年以内に作成されるものが、一定の要件のもとで非課税とされています。

ここでいう自然災害とは、暴風・豪雨・豪雪・洪水・高潮・地震・津波・噴火その他の異常な自然現象のうち、被災者生活再建支援法の適用を受ける災害を指します。適用を受けるには、市町村長等が発行するり災証明等が必要です。

また、地方公共団体や政府系金融機関等が被災者に対して特別に有利な条件で行う貸付けに係る「消費貸借に関する契約書」も、一定の要件のもとで非課税とされています。住まいを建て直す・修理するときは金額の大きい契約書を作ることになるため、該当する可能性がある方は覚えておく価値があります。

ただし、どの災害にどの特例が適用されるかは災害ごとに異なり、指定や公示を待って決まるものもあります。申告期限の延長や納税の猶予、雑損控除と災害減免法の選択といった他の救済措置とあわせて、ご自身が対象になるかどうかは所轄税務署やお住まいの市区町村へお問い合わせください。

印紙税と税理士の関係(よくある誤解)

意外と知られていませんが、印紙税は税理士の「税務代理」の対象税目には含まれていません。税理士法第2条第1項が定める租税から、印紙税・登録免許税・関税などが除かれているためです。

そのため、税務調査の現場で印紙税について税理士が代理人として税務署と交渉することは原則できません。国税庁のFAQでも、印紙税については税務代理権限証書を提出していても事前通知や調査結果の説明は納税者本人に行う旨が示されています。

とはいえ、税理士法第2条第2項の「財務に関する事務」として、契約書のひな型や領収書の記載方法について助言を受けることは可能です。だからこそ、普段から契約書・領収書の印紙の取り扱いを社内で正しく運用しておくことが、結局は一番の備えになります。

なお、調査で指摘を受けたときの受け答えには共通の注意点があります。税務調査でやってはいけない対応も事前に目を通しておくと安心です。

印紙税のよくある質問(FAQ)

Q. 領収書はいくらから収入印紙が必要ですか?

A. 記載金額が5万円以上の売上代金の領収書から必要で、5万円以上100万円以下なら200円です。2014年4月以降に作成するものが対象で、消費税額等を区分して記載していれば、その消費税額等を除いた金額で判定します。

Q. 契約書を2通作って双方が1通ずつ保管する場合、印紙は両方に必要ですか?

A. 原則として各通に印紙が必要です。課税文書は1通ごとに課税されるためで、契約当事者がそれぞれ原本を保管する場合は2通とも対象になります。1通のみ作成して他方は写しを保管する方法もありますが、写しに署名押印して原本と同様の証明力を持たせると課税文書と扱われることがあります。

Q. 収入印紙を貼り忘れた契約書は無効になりますか?

A. 契約そのものは有効です。印紙の貼付は印紙税法上の納税義務であり、契約の効力とは別の問題だからです。ただし義務違反であることに変わりはなく、発覚すると最大3倍の過怠税が課される可能性があります。

Q. 電子契約(電子データ)にも収入印紙は必要ですか?

A. 電磁的記録のままやり取りする電子契約に印紙税はかかりません。国税庁は質疑応答事例で、課税対象となるのは課税物件表に掲げられた文書であり電磁的記録は文書に含まれないと示しています。ただし内容を印刷して署名・押印するなど紙で原本を作成すれば、その紙が課税文書になり得ます。

Q. 税務調査で印紙の貼り忘れを指摘されたら、必ず3倍払うのですか?

A. 法令上の原則は3倍ですが、調査による決定を予知せずに「印紙税不納付事実申出書」を提出した場合は1.1倍に軽減されます。印紙税は同時処理の運用が前提とされているため、実務では指摘を受けて自主的に不納付の申出を行う流れになることが多いといえます。個別の判断は所轄税務署によるため、その場で自己判断せず対応方法を確かめてください。

まとめ|ひな型の点検が一番の近道

印紙税は税額こそ小さく見えますが、件数が多いと無視できない負担になり、税務調査でも確認されます。5万円という基準、消費税の書き方、貼付と消印のセット確認——この3点を押さえるだけで、多くの貼り忘れは防げます。

契約書や領収書のひな型は一度作ると長く使い続けるものです。この機会に社内の様式を点検してみてはいかがでしょうか。

※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。印紙税額や特例の適用期限は改正されることがあるため、最新の取り扱いは国税庁の公式サイトでご確認ください。

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相続税の税務調査|指摘されやすい3つのポイントと加算税・延滞税

相続財産の記録と書類を整理する様子をイメージした図
相続税の税務調査で指摘されやすいポイントと、実際にあった申告漏れの事例を、税務調査の現場を知る視点からわかりやすく解説します。あわせて、指摘を受けたときにかかる加算税・延滞税の割合と、調査の連絡が来てからの流れも整理しました。

相続税の税務調査は高い確率で行われます

相続税は、申告した内容が正しいかどうかを税務署が確認する「実地調査」の対象になりやすい税目です。国税庁が公表した令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の相続税の実地調査件数は9,512件で、前の事務年度の8,556件から11%あまり増加しました。そのうち申告漏れなどの誤り(非違)が見つかった件数は7,826件にのぼり、調査全体の約8割(非違割合82.3%)を占めています。追徴税額は合計824億円で、実地調査1件当たりに直すと、申告漏れ課税価格は約3,093万円・追徴税額は約867万円という規模です。つまり、いったん実地調査が入ると高い確率で何らかの指摘を受け、その負担も決して小さくないのが実情です。 2015年(平成27年)に相続税の基礎控除額が引き下げられて以降、相続税の申告そのものも着実に増えています。国税庁の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和6年分の被相続人(死亡者)1,605,378人のうち、相続税の申告書の提出に係る被相続人は166,730人で、課税割合は10.4%(前年9.9%)でした。課税価格の総額23兆3,846億円・申告税額の総額3兆2,446億円とあわせて、いずれも基礎控除額の引下げがあった平成27年分以降で最高です。亡くなった方のおよそ10人に1人が相続税の申告対象という水準になっており、調査の対象となる層も広がっています。

※調査件数や非違割合は事務年度ごとに変わります。最新の数値は国税庁の公表資料でご確認ください。

税務調査は、相続財産の評価が正しいか、申告漏れがないかを確認する目的で行われます。とくに指摘を受けやすいのが被相続人の預貯金・生命保険・名義預金の3つです。 被相続人の預貯金では、死亡直前の引き出し回数が多いと、本人以外が引き出しているのではないかと疑われ、その目的や使いみちを問われます。生命保険は、契約が家族名義になっていても、保険料を実質的に負担していたのが被相続人であるケースが調べられます。この場合、被相続人の死亡によって支払われる生命保険金が相続税の課税対象となるためです。 名義預金とは、家族名義になっている預金のことです。生命保険と同じように、単に家族の名義を借りているだけで、預貯金の実質的な所有者が被相続人である場合、その預貯金は相続財産とみなされ、相続税の申告が必要になります。 国税庁や税務署は、被相続人の所得税の申告書を確認するだけでなく、金融機関への調査も行って相続財産の実態を把握しています。税務調査が入る段階では、申告漏れの有無がすでにほぼ把握されていると考えてよいでしょう。

実地調査だけではない「簡易な接触」も過去最高に

税務署の確認方法は、調査官が自宅などを訪れる実地調査だけではありません。文書や電話、税務署への来署依頼による面接で申告内容の誤りを確認・是正する「簡易な接触」という手法も活用されており、令和6事務年度は21,969件(前の事務年度比117.0%)と、公表が始まった平成28事務年度以降で最も多くなりました。簡易な接触による申告漏れ等の非違件数は5,796件、追徴税額は合計138億円で、これらも公表開始以降の最高です。
相続税の簡易な接触件数の推移(令和2〜6事務年度)
文書・電話・来署依頼による「簡易な接触」は5年連続で増加し、令和6事務年度は過去最高の21,969件に。
「税務調査」と聞くと大がかりな臨宅調査を想像しがちですが、実際には電話や文書による問い合わせをきっかけに申告の誤りが是正されるケースが年々増えています。税務署から連絡が来た場合は放置せず、内容を確認して誠実に対応することが大切です。 また、無申告の事案や海外資産にも調査の重点が置かれています。無申告事案に対する実地調査は令和6事務年度650件で、1件当たりの申告漏れ課税価格は約1億1,517万円と、実地調査全体の平均(約3,093万円)の3倍以上にのぼり、追徴税額は142億円と公表開始以降で最高となりました。海外資産関連の実地調査も1,359件(前の事務年度比143.5%)と大幅に増えており、国税当局はCRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)など租税条約等に基づく情報交換制度を使って、海外の口座や資産の保有状況も把握しています。「申告しなければ分からない」「海外の財産なら見つからない」という考えは通用しないと考えておくべきでしょう。

調査で見つかる申告漏れ財産は5年連続で増えています

実地調査で把握された申告漏れ相続財産の金額そのものも、増加が続いています。国税庁の集計によると、令和2事務年度の1,756億円から令和6事務年度は2,879億円へと、5年連続で増加しました。
申告漏れ相続財産の金額が令和2事務年度1,756億円から令和6事務年度2,879億円へ5年連続で増加したことを示す折れ線グラフ
令和2事務年度の1,756億円から令和6事務年度は2,879億円へ、5年連続で増加
金額が増えている背景には、調査件数の増加に加えて、対象となる相続財産そのものが大きくなっていることがあります。令和6年分の相続財産の総額(相続税額のある申告書ベース)は24兆5,415億円で、内訳は現金・預貯金等85,602億円、土地74,074億円、有価証券43,676億円、その他30,162億円、家屋11,901億円でした。現金・預貯金等が土地を上回る状態が続いており、「預貯金の動き」が調査の中心になりやすい構造が数字にも表れています。 なお、こうした統計は「調査に入られると必ず多額の追徴を受ける」という意味ではありません。調査対象になりやすいのは、資料情報から見て申告額が過少と想定される事案や無申告が想定される事案であり、預貯金の出入りや名義財産の経緯をきちんと説明できる状態にしておけば、過度に恐れる必要はありません。

生前贈与のあつかいにも注意

相続対策として行われる生前贈与も、税務調査でよく確認されるポイントです。1年間(1月〜12月)に贈与を受けた金額が110万円以下であれば贈与税はかかりません(暦年課税の基礎控除)が、贈与の事実が確認できない「名義だけの贈与」は否認されることがあります。 また、2024年(令和6年)1月以降の贈与からは、相続開始前の一定期間の贈与を相続財産に加算する期間が、従来の3年から段階的に7年へ延長されました(暦年課税の場合)。あわせて、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が新設されています。生前贈与を活用する場合は、これらの現行ルールを前提に、贈与契約書を作成し、受け取った人自身が口座を管理・使用するなど「贈与の実態」を残しておくことが大切です。 なお、相続税の補完税である贈与税についても、無申告事案を中心に実地調査が行われています(令和6事務年度は2,778件)。申告漏れ等の非違のうち約8割(83.4%)が無申告で、財産別の非違では現金・預貯金等が62.9%と大半を占めます。「現金で渡せば記録に残らない」という考えは危険です。

指摘を受けたときにかかる加算税・延滞税

申告漏れを指摘されると、不足していた本税に加えて加算税延滞税を納めることになります。相続税は1件あたりの金額が大きくなりやすいため、この上乗せ分も相応の負担になります。割合は次のとおりです。
種類割合かかる場面
過少申告加算税10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)期限内に申告したが、税額が不足していた場合。調査の通知を受ける前に自主的に修正申告すれば課されません。通知後・更正を予知する前の修正申告は5%(超える部分10%)に軽減されます
無申告加算税15%(50万円超〜300万円以下の部分20%、300万円を超える部分30%)申告期限までに申告しなかった場合。調査の通知を受ける前に自主的に期限後申告をすれば5%、通知後・決定を予知する前は10%(50万円超15%、300万円超25%)
重加算税過少申告35%/無申告40%財産を隠す、書類を偽るなど、仮装・隠蔽があったと判断された場合。加算税に代えて課されます
延滞税令和8年(2026年)中は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8%、それ以降は年9.1%法定納期限の翌日から完納の日までの期間に応じてかかります。割合は年ごとに見直されます(令和4〜7年は年2.4%・年8.7%でした)
無申告加算税の300万円超の区分(25%・30%)は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものから適用されています。また、過去5年以内に無申告加算税や重加算税を課されたことがある場合は、さらに10%が加算されます。

相続税では延滞税の負担も見過ごせません

相続税は1件あたりの本税が大きく、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月)から調査・修正申告までに1年以上あくことも珍しくありません。そのため、加算税と並んで延滞税の影響が大きくなりやすいのが特徴です。延滞税の割合は年ごとに見直され、令和8年(2026年)中は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年2.8%、それ以降は年9.1%です(令和4年から令和7年までの年2.4%・年8.7%から引き上げられているため、古い資料の数値をそのまま使わないでください)。 さらに知っておきたいのが、延滞税の「計算期間の特例」です。期限内申告書を提出していて、法定申告期限から1年を経過してから修正申告や更正があった場合は、通常、延滞税の計算期間の一部が除外されます。ところが、重加算税が課された場合にはこの特例が適用されません。仮装・隠蔽と判断されると、重い加算税に加えて長期間分の延滞税まで積み上がる、という二重の負担になるということです。 令和6事務年度の実地調査では1,065件に重加算税が課されており、非違件数の13.6%を占めました。単純な計上漏れなのか、意図的に隠したと見られるのかで負担が大きく変わります。心当たりのある財産に気づいたら、調査の通知が来る前に自主的に修正申告・期限後申告をするのが、金額面でも最も有利です(延滞税は別途かかります)。割合は改正されることがあるため、実際の手続きの前に国税庁の案内や税理士に確認してください。

調査の連絡が来てからの流れ

「何をされるのか分からない」という不安が一番大きいのが税務調査です。相続税の実地調査は、おおむね次のように進みます。
場面行われること準備・対応のポイント
事前通知(電話・書面)調査の日時・場所・対象税目・対象期間などが伝えられます。税理士に申告を依頼していれば、税理士へ連絡が入るのが一般的ですその場で日程を確定せず、まず税理士に連絡を。日程は都合に応じて調整を相談できます
当日(臨宅調査)被相続人の経歴や趣味、生前の入院・介護の状況、財産の管理方法などの聞き取りから始まり、通帳・印鑑・証券の保管状況などを確認されます分からないことは「分かりません」「後日確認します」で構いません。推測で答えないことが重要です
事後(追加資料の提出・説明)その場で答えられなかった点について、資料の提出や追加説明を求められます税理士を通じて整理して回答します。金融機関への照会は税務署が独自に行っています
結果の説明・修正申告指摘事項の説明を受け、修正申告を行うか、更正処分を受けるかを判断します納得できない指摘には修正申告に応じない選択もできます(再調査の請求・審査請求の道が残ります)
事前に用意しておくと話が早いのは、被相続人と相続人全員の通帳・取引履歴(できれば過去5〜10年分)、証券会社の残高報告書、生命保険の証券と支払調書、贈与契約書、不動産の権利証・固定資産税の通知書などです。名義預金を疑われやすいご家庭では、その口座の資金がどこから来たのかを説明できる資料があるかどうかで結論が変わります。

相続税に関連する税務調査の事例

相続税の税務調査は、ほとんどの場合、申告から1年〜1年半の間に実施されます。以下に、税務調査で申告漏れなどが見つかった実例を紹介します。
  • Aさんは、ほかに家族もいなかったため、亡くなった父親の財産を相続することになりました。父親から聞いていた財産は基礎控除額の範囲内だったので相続税の申告をしませんでしたが、税務調査が入り、知らなかった父親名義の有価証券があることがわかりました。その結果、総額で基礎控除額を上回り、相続税の申告が必要になりました。
  • 被相続人である祖父は、孫名義で銀行口座を開設し、毎年、贈与の基礎控除である110万円を超えないように積立をしていました。相続が開始された時点で預金額は数千万円になっていましたが、孫は口座の存在を知らず、通帳や印鑑も祖父が管理していたため、税務調査で贈与は否認され、相続財産として修正申告を求められました。
  • Bさんは相続税の申告をする際に、被相続人の妻が名義となっている株式が5,000万円ほどあることを知りましたが、相続財産として申告していませんでした。税務調査の結果、印鑑は被相続人のもので、妻が自由に株式を売買できる状況ではなかったことから相続財産とみなされ、修正申告をすることになりました。
国税庁が公表した令和6事務年度の調査事例でも、次のようなケースが紹介されています。
  • 自宅金庫で現金を保管し申告から除外…相続開始前に被相続人の口座から引き出した多額の現金を相続人宅の金庫で保管し、関与税理士にも伝えずに申告から除外していた事例(増差課税価格約2億5,000万円・重加算税を含む追徴税額約1億2,000万円)。
  • 家族名義の口座へ預金を移して無申告…相続開始前に、被相続人の口座残高が基礎控除以下になるよう相続人やその家族名義の口座へ預金を移し、税務署からの照会文書にも虚偽の回答をして申告しなかった事例(増差課税価格約7億2,000万円・追徴税額約4億3,000万円)。
  • 国外法人への貸付金を隠ぺい…被相続人から国外法人への貸付金について、返済を被相続人の口座ではなく被相続人が会長を務める国内法人の口座へ振り込ませて存在を隠し、申告から除外していた事例(増差課税価格約4億4,000万円・追徴税額約1億8,000万円)。
いずれも、預金の異常な動きや手帳・ノートといった記録から事実が把握されています。財産を意図的に隠したと判断されると、通常の加算税より重い重加算税(過少申告の場合35%・無申告の場合40%)の対象になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 相続税の税務調査はいつごろ来ますか?
A. 申告からおおむね1年〜1年半後に行われることが多いとされています。申告した年の秋以降に連絡が来るケースが目立ちます。

Q. 調査の連絡が来たら何をすればよいですか?
A. あわてる必要はありません。申告を依頼した税理士に連絡し、預貯金の出入りや名義財産の経緯を説明できるよう、通帳・取引履歴・贈与の記録などの資料を整理しておきましょう。その場で日程を確定せず、税理士と相談したうえで調整して構いません。

Q. 名義預金と判断されないためにはどうすればよいですか?
A. 贈与であれば贈与契約書を作成し、受け取った人本人が口座を管理・使用していた実態を残すことが重要です。通帳や印鑑を渡す側が管理したままだと、贈与が否認されやすくなります。

Q. 税務署から文書や電話で問い合わせが来ました。実地調査とは違うのですか?
A. 実地調査とは別に、文書・電話・来署依頼で申告内容を確認する「簡易な接触」が増えています。申告の誤りに気づいた場合、調査の事前通知が来る前に自主的に修正申告をすれば、原則として過少申告加算税はかかりません(延滞税は別途かかります)。放置せず、早めに税理士へ相談して対応しましょう。

Q. 申告の必要がないと思って何もしていません。このままで大丈夫でしょうか?
A. 相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。無申告事案は調査の重点対象で、令和6事務年度の無申告事案に対する実地調査は650件、1件当たりの申告漏れ課税価格は約1億1,517万円にのぼりました。基礎控除額に近い財産規模であれば、「申告不要と判断した根拠」を残しておくことをおすすめします。判断に迷う場合は、期限を過ぎる前に税理士へ確認してください。

Q. 調査官の指摘に納得できない場合はどうなりますか?
A. 修正申告に応じる義務はありません。応じない場合、税務署は更正処分を行い、その処分に不服があれば再調査の請求または国税不服審判所への審査請求ができます。争点がある場合は、判断の根拠となる資料を残したうえで税理士とよく相談してください。

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消費税の税務調査の注意点と事例|2026年10月の70%控除に備える

請求書と帳簿を確認しながら消費税の処理を点検する事業者と会計担当者のイメージ
税務調査で消費税について注意すべきポイントと、実際に指摘を受けやすい具体的事例を紹介します。インボイス制度(適格請求書等保存方式)は令和8年度税制改正で経過措置が見直され、2026年(令和8年)10月1日から、免税事業者等からの仕入れに認められる控除割合が80%から70%に切り替わります。現行の80%控除が使えるのは今月(2026年9月)30日までに行う課税仕入れまでです。切替を目前にひかえた実務の備えまで、国税庁の公表情報にもとづいて整理しました。

消費税に関する注意点

消費税の税務調査は、法人税や所得税の調査と一緒に行われることが多いですが、単独で行われるケースもあります。赤字であっても消費税の納付義務はあるため注意が必要です。消費税は最も身近な税金なので簡単に考えてしまいがちですが、その経理処理は意外と複雑です。なぜなら、すべての取引が課税対象となるわけではなく、非課税・不課税のものが含まれるからです。 例えば、土地の貸付けや住宅家賃は原則非課税ですが、貸付期間が1ヵ月未満の場合は課税となります。また、国内出張の旅費・日当は課税仕入れになりますが、海外出張は課税仕入れになりません。 事業者の納税義務についても確認しておきましょう。前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円以下の個人事業主は、その年の消費税の納税義務が原則として免除されます。ただし、前年の1月1日から6月30日まで(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超える場合は、課税事業者に該当します(給与等支払額で判定することも可能です)。 このように課税・非課税の区分は細かく、税法改正によって取扱いが変わることもあるため、専門的な知識が欠かせません。

インボイス制度導入後の留意点

2023年(令和5年)10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まりました。これにより、原則として「適格請求書(インボイス)」の保存がなければ仕入税額控除を受けられない仕組みに変わっています。適格請求書には、登録番号・適用税率・税率ごとに区分した消費税額などの記載が必要です。 免税事業者など適格請求書発行事業者以外からの仕入れについては、急激な負担増を避けるための経過措置が設けられており、一定割合の仕入税額控除が認められています。この経過措置は令和8年度税制改正で見直され、適用期限が2年延長されるとともに、控除割合が段階的に縮小されることになりました。現在の80%控除が使えるのは、2026年(令和8年)9月30日までに行う課税仕入れまでで、同年10月1日以後は70%控除に縮小されます(当初は2026年10月から50%に下がる予定でしたが、改正で引き下げが緩やかになりました)。控除割合が80%→70%→50%→30%と下がっていくことから、国税庁の資料では「7・5・3割控除」と呼ばれています。
課税仕入れを行った時期控除できる割合備考
2023年10月1日〜2026年9月30日仕入税額相当額の80%現行(今月末で終了)
2026年10月1日〜2028年9月30日仕入税額相当額の70%令和8年度改正で新設
2028年10月1日〜2030年9月30日仕入税額相当額の50%
2030年10月1日〜2031年9月30日仕入税額相当額の30%
2031年10月1日以後控除不可経過措置の終了
免税事業者等からの課税仕入れに係る控除割合が、2023年10月から80%、2026年10月から70%、2028年10月から50%、2030年10月から30%、2031年10月以後は0%と段階的に縮小することを示す棒グラフ
令和8年度税制改正で「7・5・3割控除」に見直され、適用期限は2031年9月30日まで2年延長されました。
なお、2026年10月1日以後に開始する課税期間からは、同一の相手先(適格請求書発行事業者以外の者)からの課税仕入れの合計額が年または事業年度で1億円(税込)を超える場合、その超えた部分には経過措置を適用できないという上限も設けられます。この上限は現在も設けられていますが、2026年9月30日までに開始する課税期間は税込10億円で、10月1日以後に開始する課税期間から10分の1の1億円に引き下げられるという点が改正の中身です。免税事業者である外注先や仕入先への支払いが大きい事業者は、相手先ごとの年間支払額をあらかじめ集計しておくと安全です。

80%と70%の分かれ目は「課税仕入れを行った日」

切替をまたぐ取引で迷いやすいのが、どちらの割合を使うかという判定です。控除割合は請求書の日付でも支払日でもなく、「課税仕入れを行った日」で判定します。商品の仕入れであれば引渡しを受けた日、役務の提供であれば約した役務の全部が完了した日が基本です。 国税庁は、9月末をまたぐ取引について具体的な事例をQ&Aで示しています。2026年9月21日から提供を受けている役務が同年10月20日に完了し、10月31日に代金を支払うケースでは、課税仕入れを行った日は10月20日となるため、全額が70%控除になります。9月中に受けた役務の分を80%で按分することはしません。 一方、同じ期間でも商品の仕入れ(資産の譲受け)であれば、引渡しのあった日ごとに判定します。国税庁の例では、9月21日から9月30日までの仕入れは80%、10月1日から10月20日までの仕入れは70%と、同じ取引先でも日付で割合が分かれます。役務の提供は「完了日で一括」、商品の仕入れは「引渡し日ごと」という違いを押さえておくと、判断に迷いません。 9月末をまたぐ取引は、請求書ではなく納品書・検収書・作業完了報告書など「いつ引渡し・提供があったか」を示す資料で確認できるようにしておきましょう。調査で最も説明を求められやすいのは、まさにこの境目の取引です。 会計システムの設定も見落としがちです。多くの会計ソフトは取引ごとに控除割合の区分を選ぶ仕様になっていますが、「70%控除」の区分が選べる状態になっているかを、9月中に確認しておくことをおすすめします。

年払い・年間契約(短期前払費用)はどう扱うか

保守料や賃借料を1年分まとめて前払いしている場合はどうなるのでしょうか。法人税・所得税では、支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係る前払費用を継続して支払時の損金(必要経費)にしているときはその処理が認められ(短期前払費用)、消費税でも支出した日の属する課税期間の課税仕入れとして扱われます。 国税庁は、3月決算法人が2026年1月に同年1月〜12月分の保守料を支払い、短期前払費用として処理しているケースについて、令和8年3月期の申告で1年分の全額に80%の割合で経過措置を適用して差し支えないとしています。役務の提供期間に10月以後が含まれていても、10月以後の分だけを70%に区分し直す必要はない、という整理です。 ただし注意点があります。この経過措置の適用を受けた短期前払費用の金額が契約変更などで後から増減した場合、その変動は当初の申告で適用した割合(この例では80%)で加算・減算することとされています。切替後に70%で計算し直すわけではありません。年払い契約が多い事業者は、どの契約にどの割合を適用したかを記録に残しておくと、後の確認がスムーズです。

帳簿の記載事項と「70%控除対象」への切り替え

経過措置の適用を受けるには、区分記載請求書等と同様の記載事項がある請求書等に加えて、一定の事項を記載した帳簿の保存が要件になります。帳簿に必要なのは、①相手方の氏名または名称 ②課税仕入れを行った年月日 ③資産または役務の内容 ④支払対価の額に加えて、「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」です。 この「旨」の記載は、取引ごとに「80%控除対象」「免税事業者からの仕入れ」などと書く方法のほか、対象取引に「※」や「☆」の記号を付し、欄外に「※は80%控除対象」と表示する方法も認められています。10月1日以後の課税仕入れはこの表示を「70%控除対象」に改める必要があります。帳簿のフォーマットや摘要の定型文をそのままにしていると、切替後も「80%控除対象」と記載され続けてしまうため、9月中に確認しておきましょう。 なお、登録番号の記載がない請求書を受け取ることもありますが、区分記載請求書等の記載事項を満たしたものが保存されていれば、相手方が適格請求書発行事業者かどうかにかかわらず、一律に経過措置の適用を受けられると国税庁は示しています。取引先ごとに登録の有無を確かめられない場合でも、経過措置の適用そのものは可能です。 税務調査では、登録番号の記載漏れや、適格請求書の要件を満たさない書類で仕入税額控除を行っていないかなど、インボイス対応の正確性も確認されます。請求書の保存・記載要件は従来より厳格になっている点に注意しましょう。

「少額特例」は2029年9月末まで――対象者と判定単位に注意

少額の取引について、インボイスの保存がなくても一定の事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除が認められるのが「少額特例」です。上で説明した7・5・3割控除とは別の制度で、次の条件を満たす場合に使えます。
  • 対象者…基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者
  • 対象期間…2023年(令和5年)10月1日から2029年(令和11年)9月30日までに行う国内での課税仕入れ
  • 対象取引…支払対価の額(税込)が1万円未満の課税仕入れ
注意したいのは1万円未満かどうかの判定単位です。国税庁は、一回の取引の課税仕入れに係る金額(税込)で判定するとしており、商品1点ごとの金額で判定するものではないと明示しています。1回の納品で合計1万5,000円になる取引を、単価が安いからと少額特例で処理していると、調査で否認される可能性があります。 なお、少額特例の期限(2029年9月30日)は7・5・3割控除の期限(2031年9月30日)とは異なります。2つの制度は期限も要件も別物ですので、混同しないようにしてください。

小規模事業者は「2割特例」の終了時期にも注意

免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者が、納付税額を売上税額の2割に抑えられる「2割特例」は、2026年(令和8年)9月30日までの日の属する課税期間をもって終了します。個人事業者であれば2026年分(令和8年分)の申告が最後、3月決算法人であれば令和9年3月期が最後、という形になります。 令和8年度税制改正では、個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の申告について納付税額を売上税額の3割とできる「3割特例」が新たに設けられました。適用を受けるための主な要件は次の3点です(法人は対象外です)。
  • 個人事業者であること
  • 基準期間(適用を受ける年の2年前。令和9年分なら令和7年、令和10年分なら令和8年)の課税売上高が1,000万円以下であること
  • インボイス発行事業者の登録を受けていること
3割特例は2割特例と同様、事前の届出は不要で、確定申告書に適用を受ける旨を付記するだけで使えます。ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年分や、課税期間を短縮している場合など、適用できないケースもあります。 法人は2割特例の終了後、本則課税か簡易課税へ移行することになります。このとき役に立つのが、あわせて創設された簡易課税制度への円滑な移行措置です。簡易課税は本来、適用を受けようとする課税期間が始まる前日までに届出書を出す必要がありますが、2割特例・3割特例の適用を受けた翌課税期間から簡易課税を選びたい場合は、その課税期間の申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出すればよいとされています。 たとえば3月決算法人が令和9年3月期に2割特例を使い、翌期の令和10年3月期から簡易課税を選ぶ場合、届出書は令和10年3月期の申告期限(令和10年5月31日)までに提出すれば間に合います。個人事業者が令和10年分に3割特例を使い、令和11年分から簡易課税を選ぶ場合も同じ考え方です。なお、2割特例を適用した課税期間の翌課税期間が2026年9月30日以前に終了する場合は、その課税期間の末日までが提出期限になります。 特例が切り替わる時期は申告方式の有利不利が変わりやすく、業種によっては簡易課税のほうが有利になることもあります。切替の年は、本則課税・簡易課税・3割特例の3通りで試算してから決めるのが確実です。

【2026年9月1日から】特定金属くず特例が始まりました

令和8年度税制改正では、金属くずの取引に関する新しい特例も設けられました。盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律(金属盗対策法)に規定する特定金属くずについて、従来の古物商特例・再生資源等特例の対象から外したうえで、同法の特定金属くず買受業の届出を行っている事業者が適格請求書発行事業者でない者から棚卸資産(消耗品を除く)として買い受ける場合に限り、帳簿のみの保存で仕入税額控除を認めるという内容です。2026年(令和8年)9月1日以後に行う課税仕入れから適用されており、すでに始まっています。 この特例を使う場合、帳簿には「特定金属くず特例の対象となる旨」と「課税仕入れの相手方の住所または所在地」の記載が必要です(金属盗対策法上、住居等の確認を行うこととされていないものは住所等の記載を要しません)。裏を返せば、届出をしていない事業者が特定金属くずを買い受けても仕入税額控除はできないということです。金属スクラップを扱う事業者は、届出の有無と帳簿の記載事項をすぐに点検してください。

消費税に関連する税務調査の事例

消費税に関して指摘を受けるのは、納税者側が正しいと思って行っていた処理が、実は誤っていたというケースが多くなっています。具体的な事例を見てみましょう。
  • B社では、同業者が集まる組合に加入して毎月支払っている会費を消費税の課税仕入れとして処理していましたが、税務調査で「対価性がない」という理由から課税仕入れに該当しないと指摘され、修正申告をすることになりました。
  • Y社では、消費税の仕入税額控除を受けるために法人クレジットカードの利用明細書を保存していましたが、税務調査で「販売会社が発行した請求書ではない」ため仕入税額控除の要件を満たしていないと指摘されました。インボイス制度導入後は、原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要なため、こうした書類の整備はいっそう重要になっています。
  • 雑貨の卸売業者であるF社は、海外からの注文も受け付けて商品を輸出していました。手続きが煩雑になるため、国内の業者を経由して販売し代金もその業者から受け取っていましたが、税務調査で「輸出ではなく国内取引に該当するので免税にならない」と指摘されました。
  • 消費税の課税事業者になったばかりのG社は、取引先の倒産により免税期間に発生していた売掛金が回収不能となり、貸倒れに係る消費税控除の申告をしました。ところが税務調査で「免税期間の売掛金は消費税額の控除の適用にならない」と指摘を受け、修正申告を行いました。
いずれも、取引の実態と区分の判定を誤ったことが原因です。判断に迷う取引がある場合は、自己判断で処理せず専門家に確認することが、後の指摘を防ぐ近道になります。

切替までに確認しておきたい6つの備え

経過措置の切替が近づく時期は、処理の誤りが集中しやすく、後の調査で説明を求められる場面も増えます。次の6点を9月中に確認しておくと安心です。
確認すること具体的に見るポイント関係する制度
取引先の登録状況継続取引の相手が適格請求書発行事業者かどうかを一覧にする7・5・3割控除
会計システムの区分「70%控除」の税区分が選べる状態になっているか7・5・3割控除
帳簿の表示摘要や記号の凡例を「70%控除対象」に改める準備ができているか帳簿の保存要件
9月末をまたぐ取引納品書・検収書などで引渡し・役務提供の日を確認できるか(役務は完了日で一括、商品は引渡し日ごと)控除割合の判定
相手先ごとの年間支払額免税事業者等1社あたり税込1億円を超える見込みがないか経過措置の上限(1億円)
申告方式の選択2割特例の終了後、本則課税・簡易課税・3割特例のどれが有利か試算したか2割特例/3割特例

参考:飲食料品の消費税率を1%とする「基本方針」の現在地

2026年(令和8年)8月5日、政府は「給付付き税額控除」の制度導入に関する基本方針を閣議決定しました。この中で、給付の本格導入までのつなぎとして、令和9年(2027年)4月1日から2年間、軽減税率の対象となっている飲食料品に係る消費税率を1%とする方針が示されています(外食や酒類は軽減税率の対象外のため、この引下げの対象にもなりません)。 ただし、2026年9月時点でも決まっているのは「基本方針」までで、法律案はまだ国会に提出されていません。報道では、与党の税制改正大綱の取りまとめが9月中旬、臨時国会の召集は10月上旬で調整と伝えられていますが、いずれも調整・見通しの段階です。税率区分やレジ・システムの改修をどう進めるかといった事業者の実務対応は、法案と国税庁の取扱いが示されてから判断してください。現段階で断定的な準備を進めるのは避け、今は上で述べた2026年10月の経過措置の切替に集中するのが現実的です。

よくある質問(FAQ)

Q. 赤字なら消費税の税務調査は来ませんか?

A. 赤字でも消費税の納税義務は生じるため、調査の対象になり得ます。むしろ消費税の還付申告を行っている事業者は、不正還付の防止の観点から重点的に調査される傾向があります。

Q. インボイスの登録番号が記載されていない請求書でも仕入税額控除できますか?

A. 原則として、要件を満たした適格請求書でなければ仕入税額控除はできません。免税事業者等からの仕入れには経過措置があり、2026年9月30日までの課税仕入れは仕入税額相当額の80%、同年10月1日以後は70%の控除が認められています(以後も段階的に縮小され、2031年10月1日以後は控除できなくなります)。区分記載請求書等と同様の記載事項があれば、相手方が適格請求書発行事業者かどうかを問わず一律に経過措置を適用できるとされています。最新の内容は国税庁の公式情報でご確認ください。

Q. 9月末に発注して10月に納品された仕入れは、80%と70%のどちらですか?

A. 70%です。控除割合は「課税仕入れを行った日」で判定し、商品の仕入れなら引渡しを受けた日が基準になります。発注日・請求書の日付・支払日ではない点に注意してください。判断に迷う取引は、納品書や検収書で引渡しの事実を残しておきましょう。

Q. 9月21日から受けているサービスが10月20日に完了します。按分が必要ですか?

A. 按分は不要で、全額が70%控除になります。役務の提供の場合、課税仕入れの時期は原則として「約した役務の全部が完了した日」だからです。同じ期間でも商品の仕入れなら引渡し日ごとの判定となり、9月中の引渡し分は80%、10月分は70%に分かれます。

Q. 1月に支払った1年分の保守料は、10月以後の分だけ70%に直すのですか?

A. 短期前払費用として処理している場合は直す必要はありません。国税庁は、3月決算法人が2026年1月に支払った同年1月〜12月分の保守料について、令和8年3月期の申告で全額に80%を適用して差し支えないとしています。ただし、契約変更などで金額が変動したときは、当初適用した割合(この例では80%)で加算・減算します。

Q. 1万円未満の支払いなら、いつでもインボイスは不要ですか?

A. いいえ。「少額特例」の対象になるのは、基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間5,000万円以下)の事業者が、2029年9月30日までに行う課税仕入れに限られます。また1万円未満かどうかは一回の取引の合計額(税込)で判定するため、単価で判断すると誤りになります。

Q. 2割特例が終わったら、必ず簡易課税に変えたほうがよいですか?

A. 一概には言えません。みなし仕入率は業種によって40%〜90%と幅があり、実際の課税仕入れが多い事業者は本則課税のほうが有利になることもあります。簡易課税は原則として2年間の継続適用が必要なため、切替の年は複数の方式で試算してから判断してください。個人事業者は令和9年分・令和10年分について3割特例という選択肢もあります。

Q. どんな取引が指摘されやすいですか?

A. 組合会費など対価性が問われるもの、輸出免税・国内取引の判定、住宅家賃や土地貸付けなどの非課税・課税の区分は、判断を誤りやすく指摘されやすい論点です。加えて2026年10月前後は、控除割合の適用時期の誤りや、帳簿の「80%控除対象」表示の残りが新たな指摘ポイントになると考えられます。

Q. 飲食料品の消費税が1%になると、事業者は何を準備すればよいですか?

A. 2026年9月時点では基本方針が閣議決定された段階で、法律案はまだ国会に提出されていません。実施時期や対象の細部、税率区分の扱いは今後の法案と国税庁の取扱いで確定します。現段階では情報の収集にとどめ、確定した内容にもとづいて改修計画を立てるのが安全です。 ※本記事の制度内容は2026年9月時点のものです。今後の税制改正で取扱いが変わる場合がありますので、最新の情報は国税庁の公式サイトでご確認ください。

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源泉所得税の税務調査|デザイン料・原稿料の源泉徴収と指摘事例

源泉所得税の計算と帳簿の確認をイメージしたイラスト
源泉所得税は、法人税や所得税の調査にあわせて必ずといってよいほど確認される項目です。一件あたりの金額は大きくなくても、「非課税だと思っていた支給が、処理の仕方によって課税扱いになる」という指摘は毎年のように繰り返されており、不足分の納付に加算税・延滞税が重なると、想定以上の負担になります。このページでは、税務調査で指摘されやすいポイントと実際の事例を、現行の取扱い(2026年8月時点)にもとづいて整理します。

源泉所得税の徴収についての注意点

法人税や所得税の税務調査の際には、源泉所得税についての調査も同時に行われます。 所得税は本来、自分自身で申告して納めるものですが、会社が給料や個人への報酬から所得税を差し引いて代わりに納めるしくみがあります。これを源泉徴収制度といい、納税手続きを簡単にし、徴収漏れを防ぐ目的で設けられています。会社(源泉徴収義務者)の義務として定められているため、正しく行われていないと、不足分の納付やペナルティの対象になります。 会社側もこの制度は理解しているはずですが、非課税と思っていた支給が処理の仕方によって課税対象になっていたり、本来源泉徴収すべきものがされていなかったりすることがあり、税務調査ではその点が指摘されます。指摘を受けやすい項目には、食事代の支給、社員に渡す表彰金、社員旅行費、通勤手当、個人に支払うデザイン料や原稿料などがあります。 調査官の視点で見ると、これらは勘定科目名ではなく実質で判断される項目です。福利厚生費・旅費交通費・外注費といった科目に、本来は給与や報酬として扱うべき支出が紛れていないか——という順序で確認されるため、日々の処理の段階で実質にさかのぼって判断しておくことが最大の備えになります。

個人へのデザイン料・原稿料は源泉徴収が必要

意外と見落とされやすいのが、個人(フリーランスなど)に支払うデザイン料・原稿料・講演料・著作権使用料などです。これらを居住者である個人に支払うときは、原則として所得税および復興特別所得税の源泉徴収が必要です。税率は支払金額に応じて次のようになります。
支払金額(同一人・1回)源泉徴収税率備考
100万円以下の部分10.21%所得税10%+復興特別所得税0.21%
100万円を超える部分20.42%所得税20%+復興特別所得税0.42%
たとえば、デザイン料として10万円(区分なし)を個人に支払う場合、源泉徴収税額は10万円×10.21%=10,210円となり、差引89,790円を支払います。なお、請求書で報酬・料金の額と消費税額が明確に区分されているときは、消費税を除いた金額を源泉徴収の対象とすることもできます。支払先が法人の場合は、これらの報酬の源泉徴収は不要です。

「名目を変えれば対象外」にはならない

実務でとくに多い誤りが、名目の付け替えです。国税庁は、謝金・取材費・調査費・車代などの名目で支払っても、その実態が原稿料や講演料と同じであれば、すべて源泉徴収の対象になるとしています。「外注費として処理したから対象外」という整理は通用しません。 一方で、次のように源泉徴収をしなくてよい取扱いが定められているものもあります。過大に徴収すると相手方との精算が必要になるため、あわせて押さえておきましょう。
  • 旅費・宿泊費…原則は報酬・料金等に含まれますが、通常必要な範囲の金額で、支払者が直接ホテルや旅行会社などに支払った場合は、報酬・料金等に含めなくてよいとされています。
  • 懸賞応募作品の入選者への賞金、新聞・雑誌などの投稿欄への投稿の謝金…原則は原稿料に含まれますが、一人に対して1回に支払う金額が50,000円以下であれば源泉徴収は不要です。
  • デザインと施工を一括で請け負わせた場合…対価をデザインの報酬と施工の対価に区分し、デザイン部分について源泉徴収を行うのが原則ですが、デザイン部分がきわめて少額と認められるときは源泉徴収をしなくて差し支えないとされています。
対象かどうかの判断に迷う支払いは、支払ってしまう前に確認しておくのが確実です。源泉徴収漏れの追徴は、まず支払者(会社)が納付したうえで相手方に求償するという流れになるため、時間が経つほど会社の負担として残りやすくなります。

納付期限と「納期の特例」の対象範囲

源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに、e-Taxまたは所得税徴収高計算書(納付書)で納付します。 給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、年2回にまとめて納付する納期の特例を利用できます。1月から6月までに支払った分は7月10日まで、7月から12月までに支払った分は翌年1月20日までが納付期限です。 ここで注意したいのが、納期の特例の対象になる支払いが限られている点です。対象は給与・退職手当と、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬にとどまり、デザイン料・原稿料・講演料などの報酬は特例の対象外で、支払った月の翌月10日までの納付が必要です。「うちは納期の特例だから半年に一度でよい」と一括りにしてしまい、デザイン料の源泉税だけが期限後納付になっていた——という指摘は珍しくありません。

納付が遅れたときのペナルティ(不納付加算税・延滞税)

納付が法定納期限に遅れると、原則として納付税額の10%の不納付加算税がかかります。ただし、税務署から納税の告知を受ける前に自主的に納付した場合は5%に軽減され、さらに法定納期限から1か月以内に納付し、直近1年間に納付の遅延がないなどの要件を満たす場合には課されません
不納付加算税は税務署の指摘後が10%、指摘前の自主納付が5%、法定納期限から1か月以内で直近1年間に遅延がない場合は課されないことを示す棒グラフ
気づいた時点で自主的に納付するほど負担が軽くなります(2026年8月時点)。
また、計算した加算税額が5,000円未満のときは全額切り捨てとなります。この5,000円未満かどうかの判定は、所得の種類ごと、かつ法定納期限の異なるごとに行うこととされています。このほか納付日までの日数に応じた延滞税もかかるため、遅れに気づいたら、指摘を待たずにできるだけ早く自主的に納付することが負担を最小限にするポイントです。

2026年に改正された通勤手当の非課税限度額

通勤手当は非課税と思われがちですが、非課税になるのは一定の限度額までで、超えた部分は給与として課税されます。この限度額は近年見直しが続いており、古い基準のまま給与計算を続けていると、非課税枠を使い切れていない、あるいは超えているのに課税していない状態になります。 マイカー・自転車などの交通用具で通勤している人の1か月当たりの非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて次のとおりです(2026年4月1日現在の法令等)。
片道の通勤距離1か月当たりの限度額備考
2km未満全額課税非課税枠なし
2km以上10km未満4,200円 
10km以上15km未満7,300円 
15km以上25km未満13,500円 
25km以上35km未満19,700円 
35km以上45km未満25,900円 
45km以上55km未満32,300円 
55km以上65km未満38,700円 
65km以上75km未満45,700円令和8年度税制改正で引き上げ
75km以上85km未満52,700円令和8年度税制改正で引き上げ
85km以上95km未満59,600円令和8年度税制改正で引き上げ
95km以上66,400円令和8年度税制改正で引き上げ
あわせて、実務に影響の大きい取扱いが3つあります。
  • 駐車場代の加算(新設)…一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする人は、上の距離区分の限度額に1か月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算できます。「一定の要件を満たす駐車場等」とは、勤務先の周辺、または通勤に利用する駅・停留所などの周辺にあるものをいいます。この取扱いは2026年4月1日以後に支払われるべき通勤手当から適用されます。
  • 有料道路を使う場合…マイカー通勤で有料道路を利用する人は、1か月当たりの合理的な料金の額を距離区分の限度額に加算できます(最高限度150,000円)。「合理的な料金の額」とは、時間・距離等に照らして最も経済的かつ合理的と認められる通常の経路・方法による料金をいいます。
  • 電車・バス通勤…最も経済的かつ合理的な経路・方法による運賃等の額が非課税となり、1か月15万円が上限です(この上限は今回の改正でも据え置かれています)。マイカーと併用する場合は合算して判定します。
つまり、高速代を別に渡している、駐車場代を会社が負担しているといった支給も、通勤手当の一部として非課税限度額の枠内かどうかを判定することになります。給与規程で通勤手当の額を非課税限度額と同額に定めている会社は、改正のたびに規程と給与計算の設定を見直しておきましょう。

源泉所得税に関連する税務調査の事例

源泉所得税の誤りは、計算ミスよりも、会社の認識不足によって正しく処理できていないケースが多くなっています。以下に代表的な事例を紹介します。
  • 従業員が残業した際に支給する食事は課税されないため、C社では食事代として現金を支給し、福利厚生費として処理していました。ところが税務調査の際に、現金での支給は給与の一部とみなされ、源泉所得税を納付することになりました。
  • O社では、遠方からの自家用車通勤者に対し、通勤手当とは別に高速券を渡していました。税務調査では、現物の高速券も通勤手当の一部であると指摘され、通勤手当の非課税限度額を超えた差額分が源泉所得税の課税対象とされ、納付を求められました。
    ※現在も考え方は同じで、有料道路の合理的な料金の額は距離区分の限度額に加算したうえで判定します(最高限度150,000円)。「別枠だから非課税」という整理にはなりません。
  • M社では、永年勤続者表彰の記念品を、一定の金額の範囲内で選んでもらい、それを会社が購入して支給していました。多額なものではないので非課税として処理していたのですが、税務調査では、品物を自由に選択できる場合は、支給された金銭で品物を購入したものとみなされ、非課税は認められませんでした。
  • 日本語学校に通う中国人留学生を、S社はアルバイトとして雇い、月額5万円程度のアルバイト料を源泉徴収せずに支払っていました。税務調査の際に、その日本語学校は専門学校に該当するため日中租税協定による所得免税は適用されないとされ、源泉徴収漏れを指摘されました。
これらの事例に共通しているのは、非課税になる形が制度で決まっているのに、支給の仕方がその形から外れていたという点です。残業時の食事は現物で支給するから非課税、記念品は会社が選んで現物で渡すから非課税、という具合に、非課税の根拠は支給の方法とセットになっています。金額の多寡ではなく支給方法が論点になる、と覚えておくと判断を誤りにくくなります。

よくある質問(FAQ)

Q. 個人への外注費はすべて源泉徴収が必要ですか?
A. いいえ。源泉徴収の対象は、原稿料・デザイン料・講演料・著作権使用料など、所得税法に定められた報酬に限られます。ただし、勘定科目を外注費にしても、実態が対象の報酬であれば源泉徴収が必要です。判断に迷う場合は、支払う前に税理士や所轄の税務署にご確認ください。

Q. 交通費や宿泊費を負担した分も源泉徴収の対象になりますか?
A. 原則として報酬・料金等に含まれ、対象になります。ただし、通常必要な範囲の金額で、会社が直接ホテルや旅行会社などに支払った場合は、報酬・料金等に含めなくてよいとされています。本人にいったん現金で渡す方式にすると対象になり得るため、支払い方を決める段階で整理しておくと安全です。

Q. 納期の特例を受けていれば、報酬の源泉税も年2回の納付でよいのですか?
A. いいえ。納期の特例の対象は給与・退職手当と、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬に限られます。デザイン料・原稿料・講演料などは対象外で、支払った月の翌月10日までの納付が必要です。

Q. 通勤手当は源泉徴収(課税)の対象ですか?
A. 非課税限度額までは非課税ですが、それを超える部分は課税対象になります。電車・バス通勤は1か月15万円が上限、マイカー・自転車通勤は片道の通勤距離に応じた額が上限です。定期券・回数券・高速券などの現物支給も同様に判定します。限度額は改正されることがあるため、最新の金額は国税庁のサイトでご確認ください。

Q. 源泉徴収を忘れていた場合はどうなりますか?
A. 不足分の納付に加え、不納付加算税や延滞税の対象になることがあります。税務署の告知前に自主的に納付すれば10%から5%に軽減され、法定納期限から1か月以内の納付で直近1年間に遅延がないなどの要件を満たせば課されません。気づいた時点で早く納付・是正するほど負担は軽くなります。

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事業税とは?個人事業主・法人の課税要件と税務調査のポイント

事業税の課税要件を確認しながら帳簿と申告書類を見直す事業者のイメージ

会社を経営している方や個人で事業を営んでいる方には、さまざまな税金がかかります。普段は税理士に任せていて、内容を詳しく知らないという方も少なくありません。

しかし、税務調査が入ることもあるため、基本的な仕組みを押さえておくことは大切です。ここでは「事業税」を取り上げ、どんなときに課税されるのか、法人の場合はどう決まるのか、税務調査で見られるポイントと当日の対応の注意点を、税務の現場目線で整理します。

事業税とはどんなときに徴収される?

事業を営む人と街並みのイメージ

事業税とは、事業を行っている法人または個人に課される税金で、都道府県に納める「地方税」です。法人が納める主な税金には、国に納める法人税のほか、地方に納める法人住民税法人事業税があります。個人事業主の場合は「個人事業税」が課されます。

事業税は、事業を営んでいれば必ずかかるわけではありません。個人事業税には「事業主控除」として年290万円が差し引かれるため、控除後に課税対象が残る場合(おおむね前年の事業所得が290万円を超える場合)に課税されます。事業を始めたばかりで赤字、あるいは所得が290万円以下であれば、原則として個人事業税はかかりません。なお、営業期間が1年未満の場合、事業主控除は月割額になります。

注意したいのは、個人事業税には所得税のような「青色申告特別控除」が適用されない点です。青色申告特別控除を差し引いた後の所得が290万円以下でも、控除前で290万円を超えていると課税されることがあります。一方で、事業専従者控除(青色は給与支払額、白色は配偶者86万円・その他の親族は1人50万円が限度)や、青色申告者の損失の繰越控除(翌年以降3年間)は個人事業税でも考慮されます。

申告と納付の流れ

個人事業税は、原則として自分で税額を計算する必要はなく、都道府県から送られてくる納税通知書に従って納めます。申告期限は毎年3月15日までですが、所得税の確定申告または住民税の申告をしていれば、個人事業税の申告書を別途提出する必要はありません(確定申告書の「職業名」および「事業税に関する事項」欄に記入すれば足ります)。

納付は原則として8月(第1期)と11月(第2期)の年2回です(自治体や税額により異なる場合があります)。ただし、事業を廃止した場合は、確定申告とは別に、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止は4か月以内)に個人事業税の申告が必要です。申告自体を行っていないと無申告として扱われ、調査の対象になり得ますので、廃業時の手続きは忘れずに行いましょう。最新の取り扱いは、お住まいの都道府県の主税局・県税事務所のサイトでご確認ください。

個人事業税の法定業種と税率

個人事業税がかかるのは、地方税法等で定められた法定業種(現在70業種)の事業を行っている場合です。ほとんどの事業が該当しますが、法定業種にあたらない事業には個人事業税はかかりません。税率は業種の区分によって3%〜5%と異なります。

区分主な業種の例税率
第1種事業(37業種)物品販売業・飲食店業・不動産貸付業・駐車場業・製造業・請負業・運送業 など5%
第2種事業(3業種)畜産業・水産業・薪炭製造業4%
第3種事業(30業種/原則)医業・弁護士業・税理士業・デザイン業・理容業・美容業・コンサルタント業 など5%
第3種事業(一部)あん摩・マッサージまたは指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業3%

※いずれも年290万円の事業主控除後の所得に対して課税されます。区分・税率・業種の詳細は各都道府県の公式情報でご確認ください。

法人事業税はどう決まる?外形標準課税の対象が広がっています

法人の場合、事業税は原則として所得を課税標準とする「所得割」で計算します。これに加えて、資本金(出資金)の額が1億円を超える普通法人は、赤字でも負担が生じる外形標準課税(給与や賃借料などをもとにした「付加価値割」と、資本金等の額をもとにした「資本割」)の対象となります。

ここで押さえておきたいのが、令和6年度税制改正により、外形標準課税の対象法人が2段階で見直されたことです。

  • 減資への対応(令和7年4月1日以後に開始する事業年度から適用)…前事業年度に外形標準課税の対象だった法人で、当該事業年度末日の資本金が1億円以下であっても、資本金と資本剰余金の合計(払込資本)が10億円を超えるものは引き続き対象になります。
  • 100%子法人等への対応(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用)…払込資本が50億円を超える法人などの100%子法人等で、事業年度末日の資本金が1億円以下、かつ払込資本が2億円を超えるものが新たに対象になります。この見直しで新たに対象となり負担が増える部分には、令和8年4月1日〜令和9年3月31日開始事業年度は超える額の3分の2、令和9年4月1日〜令和10年3月31日開始事業年度は3分の1を軽減する激変緩和措置があります。

つまり、「資本金を1億円以下に減らしたから外形標準課税の対象外」とは限らないのが現在の制度です。グループ会社の資本構成によっては、2026年(令和8年)4月以後に開始する事業年度から新たに対象となる中小規模の法人もあります。あわせて、法人事業税の中間申告義務の判定も、令和7年4月1日以後に開始する事業年度から「前事業年度において外形標準課税の対象であるかどうか」で判断する取り扱いに変わっています。

また、法人事業税を申告・納付する法人は、あわせて国税である特別法人事業税(都道府県が法人事業税と併せて賦課徴収)も納めます。標準税率で計算した所得割額(基準法人所得割額)に対する税率は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度で外形標準課税法人以外の普通法人は37%、外形標準課税法人は260%、特別法人は34.5%です。

なお、法人事業税の税率は都道府県によって異なります。東京都のように超過課税を行っている自治体もあるため、実際に適用される税率は必ず事務所・事業所の所在地の都道府県で確認してください。

事業税に関する税務調査で見られるポイント

事業を行っていると税務調査を受けることがありますが、すべての事業者が毎年調査を受けるわけではありません。税務署の人員は限られているため、一般には数年に一度程度の頻度で行われるのが通常です。

そのうえで、税務調査が入りやすい傾向としては、次のようなケースが挙げられます。

  • 現金商売の業種(飲食・バー・クラブなど)……現金売上は記録が残りにくく、売上計上のもれが疑われやすい。
  • ネット関連の事業(アフィリエイト、ネット物販など)……経費が少ない事業で経費が過大に計上されていると不自然と見られやすい。税務署にはネット取引を専門に扱う調査担当もあります。
  • 所得が大きい・利益が伸びている事業者……調査による是正効果が大きいため、相対的に対象になりやすい。

個人事業税は所得税の確定申告の内容をもとに計算されるため、所得税の調査で売上もれや経費の否認があれば、個人事業税もあわせて増えるという関係にあります。「所得税だけの問題」と考えず、修正が生じた場合は事業税・住民税・消費税への影響もあわせて確認しましょう。

意外と見落とされやすい「不動産貸付業・駐車場業」の判定

実務で相談が多いのが、アパートや駐車場を貸している方が「自分は事業税の対象だと思っていなかった」というケースです。不動産貸付業・駐車場業は第1種事業(5%)に該当し、貸付規模などから事業と認定されると個人事業税がかかります。認定基準は都道府県が定めており、たとえば東京都では、住宅は一戸建て10棟以上・一戸建て以外は10室以上、住宅用土地は契約件数10件以上または貸付総面積2,000㎡以上、駐車場は建築物・機械式なら1台からといった基準が示されています。

基準や運用は自治体によって異なるため、不動産の貸付を始めたときは、所在地の都道府県の基準を必ず確認してください。判断に迷うときは、県税事務所や税理士に相談するのが確実です。

税務調査の注意点(任意調査・無予告調査の対応)

税務調査には大きく分けて任意調査強制調査(査察)があります。

任意調査は通常行われている調査で、一般に資本金1億円未満の法人や個人は所轄の税務署が、それを超える規模の法人などは国税局が担当します。「任意」とはいえ、納税者には質問や帳簿提示に応じる義務(受忍義務)があり、正当な理由なく拒否すると罰則の対象となることがあります。

強制調査は国税局の査察部が裁判所の令状にもとづいて行うもので、巨額・悪質な脱税が疑われる場合に、刑事告発を目的として実施されます。通常どおり営業している事業者であれば、まず縁のないものと考えてよいでしょう。

任意調査では、原則として事前に連絡(事前通知)が行われます(国税通則法第74条の9)。前日に突然というケースはまれで、ある程度の余裕をもって日時・場所・対象が知らされるのが通常です。通知された日時に都合が悪い場合は、合理的な理由があれば日程の変更を求めることもできます

一方で、事前通知をせずに調査が行われる「無予告調査」もあります(同法第74条の10)。売上除外などが疑われ、事前に知らせると証拠が隠されるおそれがあるなどの場合に認められるもので、「事前通知がない=違法」「だから拒否できる」というわけではありません。無予告で訪れた場合でも、その場で顧問税理士への連絡や、立会いの時間確保・調査開始時刻の相談を求めることはできますので、慌てず落ち着いて対応しましょう。顧問税理士がいる場合は、まず連絡を取り、相談したうえで対応するのが安心です。

税理士に相談するメリット

「調査の連絡が来てから新しい税理士に頼んでも意味がないのでは」と考える方もいます。確かに、税理士に依頼したからといって、本来納めるべき税額が魔法のように減るわけではありません。是正すべき申告もれがあれば、それは正しく修正することになります。

もっとも、税理士の立会いには手続きが適正に行われているかの確認、調査官とのやり取りの整理、論点の説明、修正申告の要否の判断といった実務的な役割があります。とくに普段から記帳・申告を任せている顧問税理士であれば、事業の実態を把握しているぶん、スムーズで的確な対応が期待できます。日頃から信頼できる税理士と関係を築いておくことが、いざというときの安心につながります。

よくある質問(FAQ)

Q. 所得が290万円以下なら個人事業税はかかりませんか?

A. 事業主控除(年290万円)後に課税対象が残らなければ、原則としてかかりません。ただし個人事業税では青色申告特別控除が使えないため、青色申告特別控除を差し引く前の所得で290万円を超えていると課税されることがあります。

Q. 個人事業税の申告は確定申告とは別に必要ですか?

A. 所得税の確定申告(または住民税の申告)をしていれば、個人事業税の申告書を別途出す必要は原則ありません。確定申告書の所定欄に記入すれば足ります。ただし事業を廃止したときは、廃止の日から1か月以内に個人事業税の申告が必要です。

Q. 資本金を1億円以下にすれば、外形標準課税の対象から外れますか?

A. 現在は必ずしもそうとは限りません。令和6年度税制改正により、前事業年度に対象だった法人で払込資本が10億円を超えるもの(令和7年4月1日以後開始事業年度から)や、大規模法人の100%子法人等で払込資本が2億円を超えるもの(令和8年4月1日以後開始事業年度から)も対象に加わりました。グループ内の資本構成を含めて確認が必要です。

Q. アパートや駐車場を貸しているだけでも事業税はかかりますか?

A. 規模によってはかかります。不動産貸付業・駐車場業は第1種事業(5%)で、都道府県が定める認定基準(貸付件数・室数・面積など)に該当すると課税対象になります。基準は自治体で異なるため、所在地の都道府県の情報を確認してください。

Q. 税務調査の連絡が来たら、まず何をすればよいですか?

A. 顧問税理士がいれば、まず連絡して相談しましょう。並行して、調査対象期間の帳簿・請求書・領収書・通帳などを整理し、売上と経費の根拠を説明できるように準備しておくと安心です。日程の都合が悪ければ、合理的な理由を添えて変更を相談できます。

※本記事は税制の一般的な解説で、内容は2026年8月時点のものです。税率・控除額・期限などの最新の取り扱いは、国税庁および各都道府県の公式サイトでご確認ください。