
会社を経営している方や個人で事業を営んでいる方には、さまざまな税金がかかります。普段は税理士に任せていて、内容を詳しく知らないという方も少なくありません。
しかし、税務調査が入ることもあるため、基本的な仕組みを押さえておくことは大切です。ここでは「事業税」を取り上げ、どんなときに課税されるのか、法人の場合はどう決まるのか、税務調査で見られるポイントと当日の対応の注意点を、税務の現場目線で整理します。
事業税とはどんなときに徴収される?
事業税とは、事業を行っている法人または個人に課される税金で、都道府県に納める「地方税」です。法人が納める主な税金には、国に納める法人税のほか、地方に納める法人住民税と法人事業税があります。個人事業主の場合は「個人事業税」が課されます。
事業税は、事業を営んでいれば必ずかかるわけではありません。個人事業税には「事業主控除」として年290万円が差し引かれるため、控除後に課税対象が残る場合(おおむね前年の事業所得が290万円を超える場合)に課税されます。事業を始めたばかりで赤字、あるいは所得が290万円以下であれば、原則として個人事業税はかかりません。なお、営業期間が1年未満の場合、事業主控除は月割額になります。
注意したいのは、個人事業税には所得税のような「青色申告特別控除」が適用されない点です。青色申告特別控除を差し引いた後の所得が290万円以下でも、控除前で290万円を超えていると課税されることがあります。一方で、事業専従者控除(青色は給与支払額、白色は配偶者86万円・その他の親族は1人50万円が限度)や、青色申告者の損失の繰越控除(翌年以降3年間)は個人事業税でも考慮されます。
申告と納付の流れ
個人事業税は、原則として自分で税額を計算する必要はなく、都道府県から送られてくる納税通知書に従って納めます。申告期限は毎年3月15日までですが、所得税の確定申告または住民税の申告をしていれば、個人事業税の申告書を別途提出する必要はありません(確定申告書の「職業名」および「事業税に関する事項」欄に記入すれば足ります)。
納付は原則として8月(第1期)と11月(第2期)の年2回です(自治体や税額により異なる場合があります)。ただし、事業を廃止した場合は、確定申告とは別に、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止は4か月以内)に個人事業税の申告が必要です。申告自体を行っていないと無申告として扱われ、調査の対象になり得ますので、廃業時の手続きは忘れずに行いましょう。最新の取り扱いは、お住まいの都道府県の主税局・県税事務所のサイトでご確認ください。
個人事業税の法定業種と税率
個人事業税がかかるのは、地方税法等で定められた法定業種(現在70業種)の事業を行っている場合です。ほとんどの事業が該当しますが、法定業種にあたらない事業には個人事業税はかかりません。税率は業種の区分によって3%〜5%と異なります。
| 区分 | 主な業種の例 | 税率 |
|---|---|---|
| 第1種事業(37業種) | 物品販売業・飲食店業・不動産貸付業・駐車場業・製造業・請負業・運送業 など | 5% |
| 第2種事業(3業種) | 畜産業・水産業・薪炭製造業 | 4% |
| 第3種事業(30業種/原則) | 医業・弁護士業・税理士業・デザイン業・理容業・美容業・コンサルタント業 など | 5% |
| 第3種事業(一部) | あん摩・マッサージまたは指圧・はり・きゅう・柔道整復その他の医業に類する事業、装蹄師業 | 3% |
※いずれも年290万円の事業主控除後の所得に対して課税されます。区分・税率・業種の詳細は各都道府県の公式情報でご確認ください。
法人事業税はどう決まる?外形標準課税の対象が広がっています
法人の場合、事業税は原則として所得を課税標準とする「所得割」で計算します。これに加えて、資本金(出資金)の額が1億円を超える普通法人は、赤字でも負担が生じる外形標準課税(給与や賃借料などをもとにした「付加価値割」と、資本金等の額をもとにした「資本割」)の対象となります。
ここで押さえておきたいのが、令和6年度税制改正により、外形標準課税の対象法人が2段階で見直されたことです。
- 減資への対応(令和7年4月1日以後に開始する事業年度から適用)…前事業年度に外形標準課税の対象だった法人で、当該事業年度末日の資本金が1億円以下であっても、資本金と資本剰余金の合計(払込資本)が10億円を超えるものは引き続き対象になります。
- 100%子法人等への対応(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用)…払込資本が50億円を超える法人などの100%子法人等で、事業年度末日の資本金が1億円以下、かつ払込資本が2億円を超えるものが新たに対象になります。この見直しで新たに対象となり負担が増える部分には、令和8年4月1日〜令和9年3月31日開始事業年度は超える額の3分の2、令和9年4月1日〜令和10年3月31日開始事業年度は3分の1を軽減する激変緩和措置があります。
つまり、「資本金を1億円以下に減らしたから外形標準課税の対象外」とは限らないのが現在の制度です。グループ会社の資本構成によっては、2026年(令和8年)4月以後に開始する事業年度から新たに対象となる中小規模の法人もあります。あわせて、法人事業税の中間申告義務の判定も、令和7年4月1日以後に開始する事業年度から「前事業年度において外形標準課税の対象であるかどうか」で判断する取り扱いに変わっています。
また、法人事業税を申告・納付する法人は、あわせて国税である特別法人事業税(都道府県が法人事業税と併せて賦課徴収)も納めます。標準税率で計算した所得割額(基準法人所得割額)に対する税率は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度で外形標準課税法人以外の普通法人は37%、外形標準課税法人は260%、特別法人は34.5%です。
なお、法人事業税の税率は都道府県によって異なります。東京都のように超過課税を行っている自治体もあるため、実際に適用される税率は必ず事務所・事業所の所在地の都道府県で確認してください。
事業税に関する税務調査で見られるポイント
事業を行っていると税務調査を受けることがありますが、すべての事業者が毎年調査を受けるわけではありません。税務署の人員は限られているため、一般には数年に一度程度の頻度で行われるのが通常です。
そのうえで、税務調査が入りやすい傾向としては、次のようなケースが挙げられます。
- 現金商売の業種(飲食・バー・クラブなど)……現金売上は記録が残りにくく、売上計上のもれが疑われやすい。
- ネット関連の事業(アフィリエイト、ネット物販など)……経費が少ない事業で経費が過大に計上されていると不自然と見られやすい。税務署にはネット取引を専門に扱う調査担当もあります。
- 所得が大きい・利益が伸びている事業者……調査による是正効果が大きいため、相対的に対象になりやすい。
個人事業税は所得税の確定申告の内容をもとに計算されるため、所得税の調査で売上もれや経費の否認があれば、個人事業税もあわせて増えるという関係にあります。「所得税だけの問題」と考えず、修正が生じた場合は事業税・住民税・消費税への影響もあわせて確認しましょう。
意外と見落とされやすい「不動産貸付業・駐車場業」の判定
実務で相談が多いのが、アパートや駐車場を貸している方が「自分は事業税の対象だと思っていなかった」というケースです。不動産貸付業・駐車場業は第1種事業(5%)に該当し、貸付規模などから事業と認定されると個人事業税がかかります。認定基準は都道府県が定めており、たとえば東京都では、住宅は一戸建て10棟以上・一戸建て以外は10室以上、住宅用土地は契約件数10件以上または貸付総面積2,000㎡以上、駐車場は建築物・機械式なら1台からといった基準が示されています。
基準や運用は自治体によって異なるため、不動産の貸付を始めたときは、所在地の都道府県の基準を必ず確認してください。判断に迷うときは、県税事務所や税理士に相談するのが確実です。
税務調査の注意点(任意調査・無予告調査の対応)
税務調査には大きく分けて任意調査と強制調査(査察)があります。
任意調査は通常行われている調査で、一般に資本金1億円未満の法人や個人は所轄の税務署が、それを超える規模の法人などは国税局が担当します。「任意」とはいえ、納税者には質問や帳簿提示に応じる義務(受忍義務)があり、正当な理由なく拒否すると罰則の対象となることがあります。
強制調査は国税局の査察部が裁判所の令状にもとづいて行うもので、巨額・悪質な脱税が疑われる場合に、刑事告発を目的として実施されます。通常どおり営業している事業者であれば、まず縁のないものと考えてよいでしょう。
任意調査では、原則として事前に連絡(事前通知)が行われます(国税通則法第74条の9)。前日に突然というケースはまれで、ある程度の余裕をもって日時・場所・対象が知らされるのが通常です。通知された日時に都合が悪い場合は、合理的な理由があれば日程の変更を求めることもできます。
一方で、事前通知をせずに調査が行われる「無予告調査」もあります(同法第74条の10)。売上除外などが疑われ、事前に知らせると証拠が隠されるおそれがあるなどの場合に認められるもので、「事前通知がない=違法」「だから拒否できる」というわけではありません。無予告で訪れた場合でも、その場で顧問税理士への連絡や、立会いの時間確保・調査開始時刻の相談を求めることはできますので、慌てず落ち着いて対応しましょう。顧問税理士がいる場合は、まず連絡を取り、相談したうえで対応するのが安心です。
税理士に相談するメリット
「調査の連絡が来てから新しい税理士に頼んでも意味がないのでは」と考える方もいます。確かに、税理士に依頼したからといって、本来納めるべき税額が魔法のように減るわけではありません。是正すべき申告もれがあれば、それは正しく修正することになります。
もっとも、税理士の立会いには手続きが適正に行われているかの確認、調査官とのやり取りの整理、論点の説明、修正申告の要否の判断といった実務的な役割があります。とくに普段から記帳・申告を任せている顧問税理士であれば、事業の実態を把握しているぶん、スムーズで的確な対応が期待できます。日頃から信頼できる税理士と関係を築いておくことが、いざというときの安心につながります。
よくある質問(FAQ)
Q. 所得が290万円以下なら個人事業税はかかりませんか?
A. 事業主控除(年290万円)後に課税対象が残らなければ、原則としてかかりません。ただし個人事業税では青色申告特別控除が使えないため、青色申告特別控除を差し引く前の所得で290万円を超えていると課税されることがあります。
Q. 個人事業税の申告は確定申告とは別に必要ですか?
A. 所得税の確定申告(または住民税の申告)をしていれば、個人事業税の申告書を別途出す必要は原則ありません。確定申告書の所定欄に記入すれば足ります。ただし事業を廃止したときは、廃止の日から1か月以内に個人事業税の申告が必要です。
Q. 資本金を1億円以下にすれば、外形標準課税の対象から外れますか?
A. 現在は必ずしもそうとは限りません。令和6年度税制改正により、前事業年度に対象だった法人で払込資本が10億円を超えるもの(令和7年4月1日以後開始事業年度から)や、大規模法人の100%子法人等で払込資本が2億円を超えるもの(令和8年4月1日以後開始事業年度から)も対象に加わりました。グループ内の資本構成を含めて確認が必要です。
Q. アパートや駐車場を貸しているだけでも事業税はかかりますか?
A. 規模によってはかかります。不動産貸付業・駐車場業は第1種事業(5%)で、都道府県が定める認定基準(貸付件数・室数・面積など)に該当すると課税対象になります。基準は自治体で異なるため、所在地の都道府県の情報を確認してください。
Q. 税務調査の連絡が来たら、まず何をすればよいですか?
A. 顧問税理士がいれば、まず連絡して相談しましょう。並行して、調査対象期間の帳簿・請求書・領収書・通帳などを整理し、売上と経費の根拠を説明できるように準備しておくと安心です。日程の都合が悪ければ、合理的な理由を添えて変更を相談できます。
※本記事は税制の一般的な解説で、内容は2026年8月時点のものです。税率・控除額・期限などの最新の取り扱いは、国税庁および各都道府県の公式サイトでご確認ください。
